第83話
暫くすると行為が終った信康は身嗜みを整えてから、カルレアの部屋を出て行った。
部屋を出る際、カルレアは眠っていたが何処かスッキリした顔をしていた。
プヨ歴V二十六年六月十二日。
信康は仕事に復帰すべく駅馬車組合に向かうと、組合長達から歓声を上げられながら歓迎された。そしてマリーザ宛の溜まった依頼を、纏めて配達する事になったのである。
信康達はカルレアが所有しているアパートメントで、日々楽しく暮らしていた。
信康は普段は昼間まで、遅くとも夕方前まで配達の仕事を全うした。その間にマリーザと昼食会や茶会に参加して親睦を深めたり、抜け出したアリスフィールのお忍びに付き合ったり、レズリーと共にドローレス家の晩餐会に参加したりしてと退屈しない忙しい五日間を過ごしていた。
マリーザから破格の配達料を貰っている所為か、既に総額で白金貨五枚前後の報酬を頂いており駅馬車組合では信康が一番の稼ぎ頭になっていた。組合長から傭兵を辞めて正式な組合員にならないかと毎日勧誘を受けているが、傭兵稼業を辞める心算は無いので毎回断っている。今日の仕事は昼を過ぎた頃に終えて報酬である大金貨一枚を手に入れた信康は、ふと懐に入れていた手紙を読む。
『今月の二十日には兵舎の改築が終了するので、二十五日までに改築された傭兵部隊の兵舎に帰還せよ。なお二十六日を過ぎても兵舎に戻らない場合は、契約を破棄したと判断し契約終了の手続きを取らせて頂く旨を此処に記す。
プヨ王国軍総司令部』
そう書かれた手紙を見て、信康はふむと考えた。因みにこの手紙は、三日前の十八日に届いた物だ。
(手紙に書かれてる内容通りならば昨日、兵舎の改築工事が完了した筈だが・・・別に早く戻った所でする事も無いだろうから、急ぐ必要もあるまい。どうせ隊員が集結するのも二十五日だろうからな)
そう思っていると、ルノワが訊いてきた。
「ノブヤス様。兵舎にはもう戻れますが私達は予定通り、最終日の二十五日に戻ると言う事でよろしいでしょうか?」
「そうだな・・・当初の予定通り、別に二十五日に戻っても良いだろう」
「それで良いね。あたしは荷物がもう少し出来たけど、ノブヤスが代わりに運んでくれるからね。ルノワは?」
「それなりにありますよ。ですが私の場合、収納ストレージの魔法がありますから。何時でも部屋を出ようと思えば出来るので、何も問題はありません」
「なら現状、誰も問題は無いな」
「無いね」
「ですね」
「っと、聞くのを忘れていたな。ルノワ、家具の方はどうするか決めているか?」
暮らしの為に、信康はそれなりに家具を買った。それも唯の家具では無く、貴族の屋敷に納品される様な高級品である。どうせ使うなら、上等な家具を使いたいと思ってルノワの分まで購入したのだ。
しかし傭兵部隊の兵舎には既に家具が置かれていたので、それを換えてまで持って行くほど愛着は無かった。
「そうですね。このまま置いていっても良いでしょうか?」
「俺も置き土産代わりに、そうする心算だ・・・そう言えば兵舎に戻る事を、カルレアに伝えていなかったな。ついでに家具の事についても、カルレアに話を通しておくか」
信康は席を立ち、カルレアの下に向かった。
「という訳で俺達は二十五日にはこのアパートを出て、傭兵部隊の兵舎に帰還しなければならない事になった。家具の方は置いておくから、そのまま次の入居者に使って貰ってくれると助かる」
「そうですか。あんな高級家具を頂けるなんて、ありがとうございます。・・・・・・ノブヤスさん達が出て行かれてしまうとなると、このアパートも静かになって寂しくなりますね」
カルレアの部屋に行くと中に通され、信康はリビングで手紙の件を話しだした。
「まぁ、色々な事をしたからな。だが何とか時間を見付けて、暇な時はちょくちょく顔を出す予定だ。無理なら手紙を出すから、心配するな」
「はい。お待ちしておりますね」
カルレアは笑顔で答えた。
信康は用意してくれた茶を啜りながら和んでいた。




