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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第80話

 信康は朝食を食べ終えて一息ついている間も、三人は会議を続けていた。


(随分と長引いているな)


 そう思うが、信康は口に出さない。


 下手に口を出したら、自分の身がどうなるか分からないからだ。


 だが一向に会議は終わらないのを見て、信康は思った事を聞いてみた。


「カルレアの好みが知りたいなら・・・そうだな。このアパートに住んでいる期間が一番長い住人に、その事を訊いてみたらどうだ? 何か知っているかもしれんぞ」


「「「・・・ああっ!」」」


 その手が、あったかという顔をする三人。


「で、このアパートで一番古い最古参の住人とは誰だ?」


「それでしたら、私と同じ階に居る三〇四号室のミシェルさんに訊いてみますね」


「どんな人だ? そのミシェルって言う人は?」


「ミシェルさんは種族の特徴を、そのままにした人ですね」


「種族の特徴?」


猫獣人(ワーキャット)なんです」


「成程、要は気紛れで自由奔放な性格だという事か?」


「そうですね」


「ついで、だから三階に他に誰が住んでいるか教えてくれるか」


「良いですよ。まずは、三〇一号室は空き部屋で今は誰も住んでいません。三〇二号室と三〇三号室は許可を貰って私とキャロルが部屋の壁を取り払って、同居ルームシェアしています」


「ああ、それであんなに広いのか」


 一度部屋に入った事がある信康は、あの部屋の広さはどういう事だと思っていたので、今の話を聞いて納得した。


「手が早いな。流石は女たらし」


「ノブヤス様ですから、仕方がありません」


 ティファとルノワが何か言っているようだが、関わると面倒なので此処は聞こえない振りをする信康。


「コホン。三〇四号室はそのミシェルが住んでいるのだろう。残りは?」


「三〇五号室は女郎蜘蛛族(アラクネ)のラクネーアさんです。三〇六号室は魔女族(ウィッチ)のリタレヴィスさんですね」


「女郎蜘蛛族に魔女族か、女郎蜘蛛族は分かるが、魔女族がこのアパートに居るのは驚いたな」


 女郎蜘蛛族は体内で糸を作る。その糸自体が高級品として扱われる程の品だ。信康がアリスフィールと共に偶然訪れた、あの高級服飾店の衣装にも使用されていた。


 それを売って生活する、女郎蜘蛛族も居る。


 次に魔女族だが、信康が驚いたのには理由がある。


 魔女族はこんな賑やかな所では無く、人が住んでいない森や沼地などに住んで其処で魔法の研究又は鍛練をしている事が多い。


 何故なら研究や鍛錬に専念する為と、闇雲に周囲に被害を及ぼさない様にする為だ。なのでそんな魔女族ウィッチが、アパートメントで暮らしている事に驚く信康。


「その二人も、カルレアさんとも親しいですよ。というよりも、このアパートメントの自動階段(エスカレーター)はそのリタレヴィスさんが開発したそうですよ」


「ほぅ、それは凄いな」


 あの勝手に動く自動階段を作ったと訊いて、素直に感心する信康。


 どんな女性だろうかと、勝手に頭の中で想像する。


(知的な女性なのは、間違い無い。眼鏡を掛けているのかもしれん。それで理知的な眼差しで、冷たい印象を抱かせる様な容貌かねぇ)


 そう思っていたら、ティファがどんな人物なのか聞いていた。


「どんな奴等なの?」


「そうですね。ラクネーアさんは悪戯好きな所はありますが、良い人ですよ。リタレヴィスさんはその・・・・・・少々変わった人ですね」


「変わった人?」


「行動がちょっと・・・普通の人とは思えない行動を取るので」


「成程。奇人変人の類か」


「ですが、話をしたら悪い人では無いと分かりますよ」


「まぁその内に会うかもしれないから、その時にどんな人なのか分かるだろう」


「そうですね」


「今はそれよりも、カルレア大家さんの方だよ。そのミシェルっていう女は、このアパートじゃあ一番古くから居るのか?」


「そうですね。聞いた話だと、このアパートが出来た時から住んでいるそうです」


「じゃあ、その人に聞けば大家さんの好みが分かりますね」


「はい。じゃあ、早速「待て」・・・はい?」


 セーラが訪ねると言おうとしたら、信康が急に口を挟みだした。


「どうかしましたか?」


「そもそも、俺がカルレアに手を出した事が原因だ。ここは俺が訪ねるのが礼儀だろう。これを機に交流を深めるのも良かろう」


「「「・・・・・・・・・・」」」


 信康がそう言うと、三人は白けた目で信康を見る。


「どうかしたか?」


「「い~え。別に」」


 ルノワとセーラはそう言うが、ティファは何も言わず呆れていた。


「さて、では行くとしようか。セーラ」


「はぁ、分かりました」


 信康はセーラを連れて三階へと向かった。

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