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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第76話

 会場に向かう途中で、レズリーと話をして今日の披露宴の主催者の名前を知る信康。


 披露宴の主催者はグイル・フォル・ヴァイツェンだそうだ。


(その名前と似た名前を、何処かで聞いた様な? はて? 何処でだろうな・・・・・・ああ、そうだ。確かロゴス・フォル・ヴァイツェンとアルネスト・フォル・ヴァイツェンだっ!! そうか。あの大将軍の子供で、アルネストの兄弟かっ!!)


 ロゴスはパリストーレ平原の会戦の後にその醜態と敗戦の責任を取らされて、軍法会議にて刑死判決を受けて処刑された。その挙句に爵位も降爵されて、伯爵位が子爵位になったそうだ。


 宗家のドルシスファン侯爵家は今回ばかりは擁護のしようが無いと判断して、逆にヴァイツェン子爵家を切り捨てる方向で動いていた。現にドルシスファン侯爵家は先頭に立って、ロゴスの刑死を積極的に主張したのだから。そして事実を裏付ける様にヴァイツェン子爵家は筆頭分家の地位も剥奪されて、現在は別の分家のものになっている。


 恐らくロゴスの責任でヴァイツェン子爵家の権威が堕ちたので、妹の婚約を祝う披露宴と言う名目で汚名払拭を目的に披露宴を催したみたいだ。


(幾ら妹の婚約祝いとは言え、家族が死んだらこういった催しはしないと思うがな? これは大和の考えだからそう思うだけで、この国だと違うのだろうか?・・・いや、思い出したら似た様な事をしていた国々は幾つもあったな)


 信康の故郷である大和皇国だと、家族が死んだら非常時を除けば四十九日は喪に服すものだ。祝い事など、先ず有り得ない。


 そう思いながら、披露宴会場となっているヴァイツェン子爵邸に入る信康達。


「さて・・・私達は方々の挨拶に行くけど、大人しくしているのだよ。アリー」


「はぁ~い」


「くれぐれも、レズリーとお義父さんの迷惑を掛けない様に」


「わかった~」


 アリーの元気の良い返事を聞き、ハンバードは信康を見る。


「それじゃあ、私達について来てくれるかな。ノブヤス君」


「俺が?」


 信康は自分を指差す。ハンバードはコクリと頷く。


 娘達の護衛をさせるのかと思っていたので、驚いていた。


(義理の親父さんが護衛に付くのかと、そう思ったんだがな)


 雇い主にそう言われた以上従うしかないので、信康は従う事にした。


「改めて、よろしく頼むよ」


 そう言ってハンバード達が歩き出したので、信康は慌ててその後をついて行く。


 少し歩いたら、ハンバードの周りに人が群がって来た。


 自分の事を何処何処の者だとか貴族の爵位とかも加えて言いながら、ハンバードと親しくなろうと媚びている。


 信康はその様子を見ながら、奥方のモナの方はどうかと思って目を向ける。そちらの方でも、綺麗に着飾った女性達が群がっている。


 こちらの方もあからさまなおべっかを言って、モナの機嫌を取ろうと媚びている。


 ドローレス夫婦に近付いて来る連中は、どいつもこいつもドローレス商会の財力目当てにお近付きになりたくて必死なのがまる分かりである。まるで砂糖に群がる蟻みたいだと思いながら、アリーナの両親達の警護をする。


 何時まで経っても、人の山が離れる様子はなかった。


 そろそろ披露宴の始まりを告げる挨拶があるのではと思うのだが、ハンバード達の両親から人が離れる様子はない。


 やがて、ナイフの様に細身の男性が現れた。祝賀会の主催者であるグイルだ。


 目付きも鋭いので、何処か神経質の様な印象を抱かせる男だった。


「皆様。本日はわたくしの妹の婚約を祝う披露宴パーティーに御参加下さった事、心より感謝申し上げます。今宵の為に要した酒肴を存分に楽しみながら、良き夜をお過ごし下さい」


 刑死したロゴスの代わり当主しての威厳がある卒のない挨拶をして、自分は一歩退きその妹が前に出た。


 その容姿は十人並みの、平凡な器量であった。


「こ、この度は、わたくしの婚約披露宴パーティー来た皆様には大変感謝致します・・・・・・・」


 その後もその女性は話し続けていたが、信康は途中から話を聞くのを止めて飲み物を貰いに近くに居た使用人に頼んだ。


「果実水を」


「どの果実で割りましょうか?」


「オレンジで」


「畏まりました」


 そう言って使用人が取りに行ってくれた。少しして薄くオレンジ色をしている水が入ったグラスをお盆に乗せてきた。


 信康は「ありがとう」と言ってグラス取った。


 一口飲み、味わう。そして直ぐに信康は、露骨に顔を顰めた。


(絞った果実はケチったな。ほぼ水の味しかしないぞ)


 意外にケチだなと思いつつ、信康はグラスを片手にハンバードとモナの元に行く。


 流石に今回の主役を放って親しくなろうとは思う者は居ない様で、ハンバード達の周りには人が居なくなった。


 ハンバードは信康に気付いた様で、グラスを持ち上げた。


「やぁ、楽しんでいるかい?」


「それなりに」


「そうか。それは良かった」


「奥方は?」


「妻なら、今席を外しているよ」


「そうですか。話をしても構いませんか?」


「うん? 何かな?」


「どうして、俺を護衛に連れて来たのです?」


「それは簡単だよ」


 ハンバードはグラスの中に入っていた液体を飲み干し、空いたグラスをお盆を持った使用人が前を通ったので、その盆にグラスを置いて、信康に顔を向ける。


「娘と娘同然に可愛がっているレズリーが、君を懐いたみたいだからね。腕の立つ傭兵みたいだし、それなら今回の護衛に選ぼうと思ったんだ。ああ、それから私達に気を使って敬語など使わなくても構わないよ」


「ではお言葉に甘えて・・・懐いたも何も、この国に来て知り合いになったばかりだから、特に話が出来る事はないぜ」


「いやいや、レズリーはあれで人見知りが激しくてね。そんな彼女が君を推薦するくらいだ。余程、君を気に入っているのだろうよ」


「気に入られているのかね。俺がレズリーで知っている事は、あいつの叔父が画家だった事と、両親からの連絡がない事くらいなのだが」


 前にチンピラに襲われる事があった時に、暫く警護していた。もう、警護の必要が無くなった後も、時折迎えに行く事はある。


 その時の雑談で、レズリーがポロッと零したのだ「前は手紙が頻繁に来たけど、今は全く来なくなった」と寂しそうに言っていた。そしてこうも言っていた。


「まぁ、一人の方が気楽だから良いんだけどさ」


 どうもその言葉には、何か他の意味があるのではと思う信康。


 だが、それ以上訊く事はしなかった。


「そうか。レズリーは君の事をそれなりに気に入っているみたいだな」


「あんたがそう思うなら、そうなのだろうな」


 信康はグラスを傾けて、果実水を飲む。


 その後も、二人が話していると。


 ガシャーンッ!!


 何か割れる音が、披露宴会場内に響いた。

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