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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第69話

賭博場に入ると、既に勝負の話が広まっていた様子であった。何故ならポーカーのテーブルを置いてある所の一角では、既に人だかりが出来ていたからだ。


 信康達はその人だかりの隙間を縫う様に歩き、テーブルが見える所まで来た。


「随分、人が多いな」


「恐らく、事前に大勝負の事を聞いていたのでしょう。でなければ、始まる前からこんなに集まりません」


「だろうな」


「そう言えば、何故ポーカーの勝負をするのですか?」


「俺がブラベッドから聞いた話だが・・・此処王都アンシの裏社会を取り仕切っている、闇組織マフィア同士がある縄張りシマを巡って大規模な抗争になり掛けたらしい。だがそんな事になれば、近衛師団も黙ってはいない。それを恐れた他の闇組織マフィアが仲裁に入って、このポーカー勝負になったそうだ」


「成程。闇組織マフィアの縄張りシマの盗り合いが原因ですか」


 シエラザードはそう言って、呆れた様子を見せていた。


「・・・ノブヤスさん。相手はもう準備は出来ている御様子です」


 勝負が行われると思われるポーカーテーブルには、相手のディーラーが座っていた。


 その隣には闇組織の幹部なのか、金が掛かった格好をした恰幅の良い中年男性が葉巻を吸いながらポーカー勝負が始まるのを待っている。


「そう言えばカルレアさんは、大丈夫なのですか?」


「ああ、それは大丈夫だ。二時間前に賭博場カジノに入るのを見届けたからな」


 カルレアが無事に賭博場に入るのを見届けてから、一緒に賭博場に入る相手を探した。


 なので、問題は無い。


(後は相手が勝負の最中に、何か不正行為イカサマを仕掛けて来るかどうかだな)


 そう思っていたら人だかりの一角が突然、波引く様に一斉に分かれた。


「漸く来たか」


「ですね。カルレアさんと隣に居るのは・・・・・・・・あら?」


「うん? 知り合いか?」


 パンツスタイルのディーラー服を来たカルレアの横には、ボンテージみたいな衣装を来た女性が居た。


 濡羽色の髪は、腰まで伸ばしている長髪だ。そしてガリスパニア地方では珍しい、黄色い肌をしていた。


 ボンっと突き出た乳房が、歩く度に上下に揺れる。


 少し垂れた目。翠玉石の如き瞳。上品そうな顔立ち。


 頭には高級そうな、黄金の髪飾りを身に着けていた。


「ほぅ、これはまた別嬪だな」


「そうですね。姉である私もそう思います」


「姉? と言う事は・・・」


「はい。二人いる妹の一人で、次女のアニシュザードです」


 信康はシエラザードの話を聞いて思わず見比べても、似てないと強く思った。


「私も魔族ですので・・・魔族は血が繫がっているからと言っても、必ずしも似ていると訳では無いのです」


「何だ。あんたも魔族だったのか?」


 信康が尋ねるとシエラザードは首肯して、無角種と言う魔族に分類されると説明した。


「一口に魔族と言っても、色々な種族が居るのだな」


「そうでもありませんよ。魔族は大まかに分けると、角がある有角種と角が無い無角種の二つで分けられています」


「そうなのか。知らなかったぜ」


「一般的に知られていませんからね」


「じゃあ、獣耳を生やした魔族も居るのか?」


「それは無角種の獣耳族ですね。身軽な事を活かして、間者や斥候の仕事をしている種族ですね」


「成程な・・・・・・」


 あのレギンスという魔族は、その無角種の獣耳族だろうと思われた。どうもただの行商のように見えなかったので、恐らく密偵か何かだろうと見当をつける信康。


 そう考えていたらカルレアが椅子に座り、その傍にアニシュザードが立つ。


「御機嫌よう。黒夜の梟の若頭さん」


「御久し振りですね。千夜楼の女首領殿」


 若頭と言われた男は、慇懃といえる位に挨拶をする。逆にアニシュザードは軽く会釈するだけだった。この時点で、互いの組織の力量差がどれくらいあるか分かった。


(多分だが・・・黒夜の梟が千夜楼を怒らせる様な、そんな馬鹿な真似をしたのだろうな。それで他の闇組織マフィアに仲裁を求めて、この勝負になったと言った感じか。多分だが)


「それじゃあ、若頭さん。勝負を始める前に、今回の賭けるモノを確認しましょうか」


「ええ、そうですね。私共が負けたら今回の件の謝罪として金貨一万枚程と、私共が経営している娼館を全てそちらに譲り渡します」


「私の方が負けたら、この賭博場カジノを譲渡するという事で良いわね?」


「ええ、それで結構です。では、改めてこちらの書類に自署サインを」


 若頭は二枚の書類を出して、一つをアニシュザードに渡した。


 その書類には事前に、今回の件の報酬が書かれていた。


 アニシュザードはその書類に目を通す。


「不備は無いみたいね? じゃあ、後は」


「その前に、少々お待ちを」


 若頭は指を鳴らすと、部下の一人が酒が入った酒瓶を持って来た。


「勝負の前に軽く、一杯だけ如何ですか?」


「それは私とこのディーラーも飲めという事かしら?」


「ええ、その通りです。そちらが良ければですけど」


「毒は入っていないでしょうね?」


「も、勿論です。その様な物は入れておりません」


「そう、じゃあ」


 アニシュザードが指を鳴らすと、部下の一人がワイングラスを四人分持って来た。


「では、先ずは私が」


 その部下から、ワイングラスを二つ貰う。そのグラスに酒を注ぐ。


 酒が入ったグラスを組織が雇ったディーラーに渡す。


 グラスを渡されたディーラーは何のためらいもなくグラスを口着ける。


 飲み終わると、そのディーラーは何ともないようだ。


 そして、若頭もグラスに酒を注ぎ自分も飲んだ。


 若頭も何とも無い様子だった。その若頭の姿を見たアニシュザードもワイングラスを貰い、酒を注いで貰ってグラスに口を着ける。そしてその酒を味わう様に、舌の上で転がす。


「美味しいお酒ね。何処産かしら?」


「北欧のフランシク王国産です。三十年物になります」


「随分と高級な物を持って来たのね」


「ええ、まぁ」


「私だけ飲むのは、勿体無いわね。カルレア、貴女も飲みなさい」


「はい、楼主様」


 別のグラスに酒を注いで貰い、カルレアは口を着けた。


 カルレアがグラスに口を着けるのを見て、若頭の口元に笑みを浮かべた。そんな若頭の意味深な笑みを、信康は見逃さなかった。


(チッ・・・あの野郎、何か仕掛けやがったな?)


「それでは、勝負の開始と致しましょうか」


「ええ。後は任せたわよ。カルレア」


「はい」


「お前も任せたぞ」


「お任せを」


 若頭とアニシュザード自分の所のディーラーに、一言だけ言ってから離れて行った。


 そして両組織の勝負を決める、ポーカー勝負が開始された。

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