第64話
仕事が終わった信康は、ケソン地区のアパートメントに戻るも時間を持て余していた。
ルベリロイド子爵邸に戻る勇気も無いので、一応この事を二人に言っておこうと思って妖精の隠れ家に向かおうとした。
「あら、ノブヤスさん、こんな所で何をしているんですか?」
「うん? セーラか?」
振り返ると、其処にはセーラが居た。
「今、帰りか?」
「はい。朝番は早い代わりに、交代するのも早いので」
「そうか」
信康は妖精の隠れ家に向かおうとしたが、止める事にした。
(俺が行く時に話せば問題無いから、良いか)
そう思い、妖精の隠れ家に行くのを止めた信康。
「セーラ、この後は予定あるか?」
「特にありませんよ」
「じゃあ、ちょっと俺に付き合え」
「えっ、良いのですか?」
「嫌なら別にいいぞ」
「行きます!」
セーラは信康の左腕に抱き着いて、信康の提案に承諾した。信康はセーラを連れて、遊びに行く事にした。
信康はセーラと十分過ぎるくらいに楽しんだ後、セーラの身嗜みを整えてからカンナ地区にある妖精の隠れ家に向かった。
妖精の隠れ家の前に着くと、ティファが前に信康が隠れていた所から姿を見せた。
「よう、見張りご苦労さん。店内で座ってれば良かったのに」
「ご飯食べてそのまま過ごしたら、暇過ぎて寝るかと思ったからね。気分転換に外に出たんだけど、それでも暇過ぎて眠りそうだったわよ。ふわぁ~」
欠伸を掻くティファ。
目を開けると、信康の隣にいるセーラを見て目が笑っていない笑顔を浮かべた。
「ふ~ん。あたし達が言われた通りに喫茶店の護衛をしていたのに、あんたはセーラとよろしくしていたみたいね?」
「うん? 何だ。嫉妬か?」
「そんな訳・・・・・・まぁ無いと言えば、嘘になるわね。少しはあると認めるわ」
ティファがそう言って照れるので、信康は近付き耳元で囁く。
「今度、ちゃんとお前の相手をしてやるよ」
「・・・・・・・絶対よ」
「ああ、勿論だ」
信康がそう言うと、ティファがニンマリと笑う。
「じゃあ、あたしはもう帰るからね」
「ああ、部屋に戻ったら報酬は渡す。退屈な仕事を押し付けた詫びに、今回の報酬の方は色を付ける」
「報酬の代わりに、一晩中相手をするのもありだけど・・・どうする?」
「俺は報酬とお前との関係は、別物だと割り切ってる。そう言うのはきちんと線引しないと駄目だ」
信康はそう言って、ティファの提案を一蹴した。
「あら、そっ。でもそれはそれで、好感が持てる考え方だわ。だったらまたの機会にしておくわね。後はよろしく」
ティファはアパートメントに帰って行く。
信康はティファの後姿を見送ると、妖精の隠れ家に行こうとしたら袖を掴まれた。
振り向くと、セーラが唇を突き出してむくれていた。
「どうした?」
「いえ、別に」
プイッと顔をそらすセーラ。
「まぁ良い。行くぞ」
信康がそう言うと、セーラは信康の腕にもたれかかる。
チリンチリンと扉に仕掛けられた鈴が鳴り、来客が来たことを教える。
「いらっしゃ・・・・いませ・・・・・」
出迎えてくれたのは、レズリーだった。
「何、変な顔をしているんだ?」
信康がそう訊くと、惚けていたレズリーはハッとして正気に戻った。
「ど、どうぞ。こちらになります~」
前来た時に比べると、変な接客だなと思いながら案内される信康達。
信康達が席に着くと、ルノワは立ち上がり会計を済ませて妖精の隠れ家を出た。出る際、信康の方に顔を向けるとペコリと頭を下げて出て行った。
「はい、メニューです」
レズリーはメニューを置くと、そのまま別の客の所に行った。
(前はもっと、愛想は良かったと思ったのだが?)
首を傾げる信康。
「どうかしました? ノブヤスさん」
「いや、何でもない。それよりも好きな物を頼めよ。今日は俺の奢りだ」
そう言ったのだが、セーラは遠慮してか、あまり高くない料理を頼んでいた。
そんなに稼ぎが少ないと思われているのか?と思いつつ、信康も注文した。




