第61話
信康は納刀したままの鬼鎧の魔剣を中段に構える。
「しゃああああ」
双節棍を持った男性が双節棍を振り回して信康に襲い掛かるのだが、双節棍の軌道が単純過ぎる上に見切れる程度の速さしか無かった。
振り回した双節棍を躱し、喉をに突きを叩き込んだ。
「うげっ」
喉に一撃を貰った双節棍の男性は、武器を落として両手で喉を抑えて蹲る。
「てめえっ」
今度は短剣を持った男性が、短剣を乱暴に振り回しながら信康に迫る。
攪乱の心算かもしれないがそんな滅茶苦茶な斬撃など当たる事はなく、身体を反らしたりして楽々と躱す信康。
滅茶苦茶に振り回していたので、隙が簡単に見つかった。
信康は先ずは、短剣を持っている手を叩いた。
「がっ!?」
男性は短剣を落とし、叩かれた手首を抑える。
信康は隙だらけの顔に、拳を叩き込んだ。
「へぶっ!?」
鼻から血を流しながら、男性はぶっ飛ばされた。
「これで弟分が潰されて、もうお前一人しか居なくなった訳だが・・・まだやるか?」
「うるせぇ、こっちにも事情があるんだよ!」
リーダー格の男性が鉄鎖をブンブンと振り回すが、信康にカスリもしなかった。
「くそっ、ならこれでっ」
男性は鉄鎖を投げて、鬼鎧の魔剣に絡みついた。
「ふん、これなら俺の方が有利だな」
男性は筋骨隆々の巨漢だったので、見た目通りに力だけならかなりあるのだろう。
男は力を込めるて鬼鎧の魔剣を引っ張ろうとしたが、一向に引っ張られる気配がなかった。
「な、なんだと・・・・・・・」
「ふん。この程度か。これなら死んだグスタフの方が、幾分かまだマシだったな」
信康は涼しい顔で、鬼鎧の魔剣を持っていた。
「あ、ありえねぇ。てめぇ、なにもんだ?」
「ただの傭兵だ」
信康はそう言って、鬼鎧の魔剣を手を放した。
すると鬼鎧の魔剣は引っ張られたが、重心を後ろに掛け過ぎた所為で男性は尻餅をついた。
「なっ、しまっ」
信康はその隙を見逃さず、飛び掛かり男性の顔面に膝蹴りを食らわせた。
「ごはっ」
顔にもろに喰らい、男性は仰向けに倒れた。
信康はそれでも追撃を止めず、男性の腹に跨った。
「ふんっ」
信康は男性の顔面に、拳を叩きつけた。
「げはっ、や、やめ、ぐひ、ぎゃっ・・・・・・・・・」
顔を殴られ続けた所為で、所々男性の顔が赤く腫れあがるがそれでも信康は殴り続けた。
「ぎゃや、ぎゃやめ、ぎゃやめて、くれ」
男性はたまらず、信康の膝を叩きだした。
それはタップアウトしているのだが、信康には意味が分からなかった。
なので取り敢えず、男性が気絶するまで殴る事にした。
「ぎゃや、ぎゃやめ、ぼうざんこうさん、ぼうざんずるこうさんする」
何となくだが男性が降参と言っている様なので、信康は殴るの止めた。
信康は男性の襟首を掴んだ。
「お前等、何であんな事をした?」
「・・・・・・・・・ひな、ひゃなんのことら?」
「とぼけるな。何か目的があったからしたのだろう。強請りだけじゃないだろう」
「・・・・・・・ひょそ、ひょそんなことはらい」
「正直に言うまで、殴られて見るか?」
信康は笑みを浮かべながら握り拳を見せる。
「ひ、ひいいいぃぃぃっ!? ひいう、ひいうから、ひゃやめてくれえ」
「じゃあ、早く言え」
「・・・・・・らた、らたものらまれたざだ」
「頼まれた? 誰に?」
「ひき、ひきぞく、ひきぞくだ、きんばつのおろとこれで、はなまへえは、かる、かるのひゃなんとかってひいってた」
「カル何とか? で、貴族か。・・・・・・もしかして、カルノーとか言ってなかったか?」
「ほそ、ほそうだ、ひょそんな、ひなまえらだった」
「ああ、もう、分かった。そいつから金を貰ったんだな」
「ほそう、ほそうらだ」
「じゃあ、もうこれくらいにしてやる」
信康は襟首を掴むの止めて立ち上がった。
「もし、さっきの女と喫茶店にちょっかいをかけてみろ? 今度は二度と固形食を食べれ無い様にしてやるからな? 良いな?」
「・・・・・・・(コクコク)」
男性は激しく頭を縦に振る。
「其処で伸びている弟分にも、言い聞かせておけよ。じゃあ、もう行け」
信康がそう言うと男性は這々の体で逃げ出した。残りの二人も、その後に続いた。
「ったく・・・本人は名案と思っても、他の人から見たら馬鹿な事だと思って無いのだろうな」
信康はそう呟きながら、レズリーを探す。
別の道から逃げたかなと思っていたら、物陰からレズリーが姿を見せた。
「あんた、結構強いんだね」
「これでも幼少期餓鬼の頃から、戦場に出ているからな。これ位、どうと言う事は無いさ」
「凄いね・・・それで? あの男から何か聞いていたみたいだけど、何か分かった?」
「・・・・・・」
信康は周囲を警戒したが、何の気配もない。
「歩きながら話そう。話す前に言っておくが、アメリアには言うなよ」
「はぁっ? 何であんなチンピラと、アメリアが関係してるんだよ?」
「さっきの奴に訊いたら、カルノーという貴族の男にあの妖精の隠れ家の営業妨害を頼まれたそうだ」
「あん? カルノーってアメリアの婚約者だよな?」
「その内、アメリアが仕事をしている時に騒ぎを起こして、そこを颯爽と現れてあいつ等を追い払って、アメリアの中にあるあいつの株を上げるっていうのが、俺の予想だ」
「はぁ~。馬鹿の考える事は、浅薄というか考え無しというか何と言うか」
レズリーは頭が痛そうに抱えた。
「もう良いだろう。さっさと帰るぞ」
「・・・・・・・ああ、そうだな。それとこれ、アメリアあいつには言えないな。もし知られたら、会う度に謝られそうだよ」
「だろう? また仕掛けるかも知れないから、暫く用心棒代わりに店にいてやるよ」
信康の提案を聞いて嬉しそうだったレズリーだが、直ぐに表情を曇らせた。レズリー曰く、報酬の方はきんけで払えないそうだ。
「無料で良いと言いたい所だが、流石にそれは傭兵として沽券に関わるからな。護衛料の方だが・・・そうだな。俺が一日護衛する代わりに、一日王都を案内してくれ」
「えっ?・・・そ、それって。デートって事か?」
「そう言う訳でも無いが・・・因みに俺が出来ない場合は、代わりに知り合いに声を掛けても良いか?」
信康にそう訊ねられたレズリーは、何人来るのか気になった。
「二人。ルノワとティファだ」
「ティファって誰か分かんないけど、あんたが誘うなら大丈夫なんだろう」
「腕は確かだから、安心しろ。早速だが、明日からで良いか?」
「ああ、頼むよ」
アパートメントに戻ったら、二人に声を掛けておこうと決めた信康であった。




