第54話
シエラザードは部屋の前で別れた信康は、貰った影分身の魔符を見る。
(この影分身の魔符は、どんな効果なのだろうか?・・・想像は付くが、はっきりさせないとな)
部屋に入ったら、ルノワに訊こうと思った。
扉を開けると、其処にはルノワが居た。
「お帰りなさいませ。ノブヤス様」
「・・・・・・・・」
部屋に入るとこうして出迎えられるのは、傭兵になってからされた事があまりなかったので、少々驚いている信康。
驚きながらも、内心悪くないなと思う。
「どうかしましたか?」
「・・・・・・いや、何でも無い」
信康はルノワの髪を手に取り口付けをしてから、リビングに行く。ルノワは自身の髪を口付けされて、少し照れ臭そうに髪を弄った。
「ああ、おかえり」
リビングには、ティファがくつろいでいた。
信康は返事の代わりに、手を挙げる。そして、ソファーに座る。
「今、晩御飯を温めますね」
「助かる。ありがとう」
ルノワがキッチンで料理を温めている間に、信康は貰った影分身ドッペルゲンガーの魔符を見る。
「何だい。それは?」
信康はこの影分身ドッペルゲンガーの魔符を貰った経緯を、ティファに簡単に話した。
ティファはそれを聞いて、その影分身ドッペルゲンガーの魔符を興味深く見ている。
「それが影分身ドッペルゲンガーの魔符ねぇ~」
ティファは本物かどうか、疑っているみたいだ。
信康はティファを見て、苦笑する。
シエラザードが偽物の魔符を渡すとは、信康には思えなかったからだ。そんな事をしても、シエラザードに利益など一つも無いのだから。
其処へ丁度、晩御飯を温め終えたルノワが晩御飯を皿に盛ってやって来た。
「ルノワ、これは何か分かるか?」
「ええ・・・これは影分身ドッペルゲンガーの魔符ですね。魔符の中でも希少性が高く入手し難い物を、どうやって手に入れたのでしょうね? そのシエラザードと言う方は」
ルノワは一目見るなり、それは本物だと言う。
信康達は関心しながら見る。
「自分で作ったそうだぞ。それはそれとして、どうやって使うのだろうな? 肝心の使い方は、聞いていなかったのは失敗だったか」
「持って影分身ドッペルゲンガーとか、叫ぶんじゃないの?」
信康達は使い方を予想しあった。二人の予想を見て、苦笑するルノワ。
「違いますよ。この魔符を身体に張り付けるのです。そして分身を何人召喚したいか、思い浮かべるのですよ」
「思い浮かべる、ねぇ」
信康は影分身ドッペルゲンガーの魔符を、改めて見る。
(晩ご飯を食べ終えたら、試してみるか)
そう思い、まずは晩御飯を食べる信康。
「しかし本当にその方は、この魔符をどうやって作ったのでしょう。通常の魔符は一回切りの使い捨てですのに、この符に込められている魔力ですと無制限に使えますよ。その代わり、副作用で疲労するみたいですが」
「魔符って、使い捨てじゃないの?」
ティファが訊ねると、ルノワは首を振る。
「其処は魔符の製作者の力量によりますね。その辺の腕前では使い捨てですが、魔女族ウィッチとか熟練の魔法使いウィザードや魔術師マジシャンになりますと無制限に使えます。符術士ともなれば、その価値は普通の魔符とは雲泥の差がありますよ」
「ふ~ん。そうなのか」
信康はルノワの説明を、感心しながら聞いていた。
晩御飯を食べ終えた信康は、少し食休みをしてから貰った影分身ドッペルゲンガーの魔符の効果を試す事にした。
「さて、試すか」
信康は影分身ドッペルゲンガーの魔符を、自分の腕に張り付ける。
「で、これでどうしたらいいんだ?」
「影分身ドッペルゲンガー、と唱えれば出来ます」
「そうか。では影分身ドッペルゲンガー」
そう唱えると、信康の周りから煙がボンッと発生した。
煙は直ぐに晴れた。晴れた先には、信康がもう一人居たのだ。
「「おお、俺がもう一人居るぞっ!?」」
信康達異口同音に、同じ言葉を喋る。
そして信康が右手を挙げたら、分身の信康も右手を挙げた。
右腕を下ろすと、同じタイミングで右腕を下ろした。
そんな事を繰り返していたら、ティファが二人の頭を叩く。
「いい加減にしな。もう分かったんだろう?」
「うん、まぁどう動かしたらいいか分かった」
今度は分身の信康は、喋らなかった。
それを見るにこの影分身ドッペルゲンガーの魔符の、使い方が分かったという事だろう。




