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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第50話

 数時間後。


 二人は連れ込み宿を後にした。


 宿に出る際、ティファは時分の腕を信康の腕に絡めていた。


「・・・・・・・ふっふふ」


「どうかしたか?」


「別に何でもないわ。ねぇ、ノブヤス」


「何だ?」


女傑族(アマゾネス)について、何処まで知ってる?」


「女傑族について? うーん。其処まで女傑族に関して、俺は詳しくは無いからなぁ・・・そうだな。身体能力が高くて勇猛果敢で色欲に忠実って事は知っているぞ。あっ、それと家名が無いなんて話も、聞いた事があるな」


「そうかい。ふっふふ」


 ティファは嬉しそうに笑う。そして、信康の耳元に顔を近づけ囁く。


「女傑族には家名が無いと思われているけど、それは間違いよ。家名は存在するけど、それを知っているのは家族か伴侶だけだからなの」


「・・・・・・それ以外が知ったら?」


「たとえ知ったのが偶然であったとしても、殺されても文句を言えないわね。理不尽な話だけど」


「それは怖いな」


 信康は苦笑する。


「私はティファ。ティファ・オトーレースよ。これからもよろしくね。だ・ん・な・さ・ま♥」


「・・・・・・はい?」


 信康は目を見開いて驚いた。


 それから少しして、宿を出る二人。


 ティファとは宿の前で分かれたが、信康の住居を教えた。


 するとその日の夜に、信康の元にやって来たティファ。自分の服やら何やらを入れた背負い袋を負ぶさってだ。そしてなし崩しのまま、信康の部屋に押し掛けた。


 信康は部屋に同棲者が出来たので、カルレアには家賃を倍出すので住まわせてくれと夜分遅くに頼みに行く羽目になった。


プヨ歴V二十六年六月四日。


 テイファが信康の部屋に押し掛けて来た、次の日。


 信康は風呂から上がり、髪を乾かしてリビングに来た。


「ふぅ、サッパリした。さて、出掛けるか」


 そう言うと、手に持っている紙を見た。ティファと分かれて部屋に帰ったら、扉の郵便受けを見たら一枚の紙が入っていたのだ。


 引っ越して来たばかりの自分に手紙を出す者などいないと、不審に思った信康。しかし手紙の宛先は信康の名前があり、開封してみると「お礼がしたいから、明日の五月三十一日に公園に来て。アリス」と達筆な字で書かれてあった。


 どうやって自分がこの部屋に居ると分かったと、一瞬だけ背筋が凍った信康だったがアリスフィールはお礼がしたいだけなので悪く思わなかった。そもそも信康としてはお礼など別にどうでも良いのだが、向こうとしてはお礼をしたい様なので、行く事にした。


「今日も出掛けるぜ。なるべく早く帰る予定だから、晩御飯を俺の分も作って置いてくれ」


「は、はい。分かりました」


「お土産よろしくね」


 リビングではルノワとティファが寛いでいた。。


「じゃあ、行って来るわ」


 それだけ言うと、信康は部屋を退室した。


 信康は部屋を退室すると、丁度二〇六号室の扉が開いた。


 そして出て来たのはかなり大きい男物の外套を身に纏い、目と耳以外布で巻いて女性か男性か分からなくした格好の人が出て来た。


 耳が長いので、この部屋の住人のコレットという物だと分かった。


(レズリーの聞いた通り、変な格好をしているな。これじゃあ事前情報が無かったら、性別すら分からんな)


 顔は隠しているし、大きめの外套を纏っているので外見を見ただけでは性別も分からない。


 とりあえず、朝の挨拶をする信康。


「おはよう。それから初めまして、俺は信康と言う者だ。一昨日から隣のルノワ共々、このアパートの一室を借りている。少しの間だが、よろしく頼む」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 信康の自己紹介に対してコレットは何も言わず、頭だけ下げて下へと行ってしまった。


 レズリーの言った通りかと、素っ気ないコレットの態度を見て思えた。


(このアパートに居る間だけじゃ、親しくなれる気がせんな)


 そう思いつつも反応だけしてくれるので、悪い人ではないと思いつつ自分も、下に行こうとした。


 今度は右斜めにある部屋。二〇四号室のドアが開いた。


 この二〇四号室の住人であるシエラザードには、まだ会っていなかった。


(レズリーの話だと、凄い巨乳の人だと言っていたな。どんな人だが楽しみだ)


 信康はドキドキしながら、シエラザードが出るのを待つ。


 そして出て来たのは、絶世の美女としか言えない女性だった。


 浅黒い肌。腰まで伸ばした暗褐色の髪。中肉中背で手足が細い。


 それでいて、胸と尻がデカい。


 スリットが入った白いスカートのツーピースに、横腹に大きな隙間がある水色の上着。


 引き締まった腹部が大胆に晒されている。


 まるで踊り子のような格好だ。これから場末酒場で踊りに行くと言われてもおかしくない格好だ。


 頭には黄金の髪飾りをしており、口元は白いヴェールで隠しているので、顔は良く分からない。


 だが、垂れた目をしているのは分かった。


 緑色の瞳が信康を見つめる。


「おはようございます」


「・・・・・・おはようございます」


 予想を上回る美女だったので、言葉を失う信康。


「貴方に会うのは初めてですね。私はこの二〇四号室に住んでいるシエラザードと言います」


「俺は信康だ。今後ともよろしく」


 信康は手を出して握手を求めた。


 シエラザードははその手をジッと見て、そして握手してくれた。


 後に信康の頭脳を担い権謀術数を振るう、超重臣の一人として名高い五角の一人。


 『麗女』の異名で畏怖される事になる、シエラザードと信康の初めての邂逅であった。

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