第49話
「誰だ? あんたは?」
信康は自分達を見る、この美少女に問い掛けた。。
しかし、美少女を知らない事がおかしいみたいで、美少女の周りにいる警備部隊の兵士達が声を荒げる。
「貴様っ、ルティシア様を知らんのかっ!?」
「初対面なのだから、知っている訳無いだろう? 無茶を抜かすな」
信康は知らない理由を正直に話した。
「見慣れない黒髪に黄色い肌。貴方はもしや、東洋の出身の方ですか?」
「ああ、そうだ。傭兵をしている、信康と言う者だ」
「ふん。傭兵風情が知らなくても当然かっ」
「この方は、神官戦士団の一つ光と法の神カプロラリスを奉じる陽光戦士団の聖女様であられるルティシア・ドゥ・グダルヌジャン様であらせられるぞっ!」
「聖女?・・・・・・誰だったかしら?」
「うーん。聖女、聖女・・・確か六つある神官戦士団の神輿役のあれか」
「はて? そんな名前の聖女なぞおったか?」
三者三様の反応を見せる三人。
「き、貴様等っ!! 我が国で六人しかいない聖女様に、その態度は無礼であろうがっ!? これだから傭兵はっ!!」
警備部隊の兵士達は激昂しているが、何処吹く風の態度を取る三人。
まだ何か言おうとした兵士達を制止したのは、聖女と言われたルティシアだった。
「お止めなさい」
「し、しかしっ、聖女様」
「私の事を知らない人にあれこれ言った所で、何とも思われないでしょう」
「ですがっ」
「それよりも、貴方の発言はこの者達を下に見過ぎです。神はおっしゃています。人を侮蔑する者はいずれ、その侮蔑で己を危なくすると」
「はっ、失礼しました」
「私ではなく、この方に謝るべきです」
「俺は別に気にしていないぞ。俺達が聖女様とやらを、知らなかった事実もあるしな・・・まぁ、自分の非を素直に謝れない奴は、教育がなってないと言われても仕方が無い気がするぞ。しつけがなっていない犬は、五月蠅く吠えるしか能が無いからなぁ」
ルティシアに謝罪する様に言われた兵士が嫌そうな顔をしたのを見て、信康が声を掛けて取り止めさせた。
それから意趣返しにそう皮肉を返すのを忘れずに言うと、警備部隊の兵士達はそう皮肉を言われて、憤怒の表情を浮かべるが、ルティシアが静止させた。
「ところで、どうして聖女様がこんな所にいるんだ?」
「この森に、なりかけが現れたと報告を受けましたので、傷の治療となりかけの浄化を行なおうと陽光戦士団一個小隊の三十名ほどを率いて来たのです。もう終わっているみたいですけどね」
ルティシアは死体になったなりかけの熊を見て、信康達を見る。
「見事な腕前です。なりかけは魔物になる前の段階とはいえ、普通の生物に比べれば格段に強い存在です。それをたったの三人で、しかも無傷で倒すとは」
「聖女様よりお褒めのお言葉を預かりまして、恐悦至極にございます。ですが大した相手でもございませんでしたよ。其処の警備部隊の兵士達は、なりかけを前に足が竦んで兎みたいに震えてましたけどね」
信康はわざとらしい位に、ルティシアに対して慇懃な態度で振舞う。警備部隊の不甲斐無さも、ついでとばかりに口にした。
信康の態度を見て兵士達は憤怒していきり立つが、ルティシアが静かに睨み付けて警備部隊を黙らせた後、コロコロと楽しそうに笑っている。
「ふっふふふふふっ。私はそんな立派な存在ではありませんから、変に畏まらなくても良いですよ。ノブヤスさん」
「そうかい。じゃあ、遠慮無く・・・本人がそう言っているんだ。まさか陽光戦士団でも無い、部外者の警備部隊おまえらが文句なんて言う訳無いよな?」
信康は畏まるのを止めた。それと警備部隊の兵士達に、牽制するのも忘れない。警備部隊の兵士達は歯茎を嚙み砕かんばかりに、噛み締める事しか出来なかった。
「グダルヌジャン、グダルヌジャン・・・はて、何処がで聞いた様な・・・・・・思い出したっ! お主、よもやジルレェの末裔かえ?」
「っ!!・・・はい。ジルレェ・ドゥ・グダルヌジャンは私の曾祖母です。まさか、曾祖母様を御存じで?」
「おお、そうか。お主の顔にあやつの面影があったので、やはりか」
「曾祖母様を知っているのですか? 失礼ながら、どの様な御関係で?」
「うむ。お主の曾祖母とは友人であったのでな。しかし、あやつは大地と緑の神であるマーフィアを信仰しておった筈じゃが?」
「私はマーフィアよりもカプロラリスの祝福を受けましたので、そちらに宗旨替えしました」
「成程な。それで、妾達はどうなるのじゃ?」
「お話を聞かせて頂きます。それが終わったら、帰って下さっても構いません。後処理は私達でしますので」
「そうか。では、参ろうぞ。二人共」
信康達は言われて、首を傾げる。
「って、何であんたが仕切るのよ。アザリーちゃ~ん」
「そうだな。一仕事したとはいえ、お前が大した事はしてないのに仕切るのはおかしいだろう。アザリーちゃん」
「ええいっ! 一々妾をちゃん付けで呼ぶ出ないわっ! 妾はお主達より年上じゃぞっ!」
そう言って怒るアザリアにほっこりしつつ、話をしに歩く信康達。
その際に信康が「片付けとけ、ネコババすんなよ」と、挑発する様に警備部隊の兵士達に言い捨てた。警備部隊の兵士達は信康が言い捨てた台詞に青筋を立てて、姿が見えなくなるまで信康の背中を睨み付けた。そんな鋭い視線を背中に感じつつ、信康はいい気味だと警備部隊の兵士達を嘲笑った。
ルティシアの話は直ぐに終わり「後日、恩賞を傭兵部隊の兵舎にお届けします」と言われて、その場で解散になった。
アザリアは「妾はもう家に戻る。ノブヤスよ、何時でも我が屋敷に遊びに来るが良いぞ。また科学について語りたいのでな」と言って、魔法を使ってアモンマデウス邸に帰って行った。
信康も時間が余ったので、何処かの賭博場で時間を潰すかと考えていた。
すると不意に、自分の腕を誰かに取られた。
自分の腕を取ったのは誰だと思い目を向けると、其処にはティファが信康の腕を取って自分の胸に挟む様に組んでいた。
「ふっふふふ♥」
「・・・・・・・何か用か?」
「さっきの戦いで疲れたから、何処か良い所知らない?」
これは誘っているのだろうと分かった。
信康は少し不完全燃焼気味だったので、発散するのは良いなと思い何処かに良い所がないかと探す。
すると、連れ込み宿が目に入った。
丁度良いと思い、信康はティファを連れて宿に入っていった。




