第47話
「つまり、こうなる訳じゃ」
アモンマデウス邸の中にある一室で、部屋にある塗板に白い棒の様な物で化学と錬金術の違いを懇切丁寧に書いて信康とティファに教えていた。
信康達は用意された椅子に座りながら、アザリアの話を聞いていた。
座って話を聞いていたら、家政婦が部屋に入って来てお茶やら、茶菓子とかを持って来てくれた。
ただ、話を聞くのは苦痛だろうと思って、家政婦にお茶の用意をさせていた様だ。
意外に気が回る子だなと思いつつ、信康は茶を片手にアザリアの話を真剣に聞いていた。
テイファは話を聞いても分からなくなり、もう出て来たお菓子に舌鼓を打っていた。
アザリアが自分の持論を交えた研究を、信康に説明と共に話し出して一時間。
漸く書く手と話す口を止めて、椅子に座る。すると家政婦が来て、何も言わず茶を持ってきた。
その茶を飲みながら、アザリアが話し掛けてきた。
「どうじゃ? 妾のしている事が分かったか?」
「全然、分からない」
テイファはあっけからんに言う。
聞いたアザリアも察していたのか、苦笑するだけで何も言わなかった。
「後半は専門的過ぎて、現在いまの俺では内容の半分も理解出来なかったが・・・取り敢えず分かったのは、非金属を金属にするのが錬金術で、それを更に発展させたのが科学と言う事で良いだろうか?」
「ふむ、少し違う所もあるが概ね合っておるな」
自分が説明した事に理解した者が居て嬉しいのか、顔を綻ばせるアザリア。
信康は少し気になった事も尋ねる。
「その科学の力を使えば、火薬を作る事も出来るのか?」
「勿論。可能じゃ。流石に銃器類を作るとなるとそれは工学の管轄故不可能じゃが、火薬程度で良ければ朝飯前じゃぞ」
「おっ、それは良い事を聞いたな。じゃあ、頼んだら作ってくれるのか?」
「無償タダでは無理じゃし、妾が嫌じゃ。妾も暇では無いのでのぅ。まぁこれ次第じゃな。この出会いに免じて、相場より安く引き受けてやっても良いぞ」
右手で輪っかを作った。これは金次第と言いたいのだろう。信康も当然、無償で火薬の製作依頼をしようなどと厚かましい考えは無いので、アザリアの提案を承諾した。
「分かった。別に今すぐ欲しいという訳では無いから、またの機会に頼んでおこう」
「では、見積もり書でも作っておくとしよう。作れるのは火薬だけでは無いので、言ってくれれば作ってやろうぞ。尤も、内容次第じゃがな。火薬じゃがお主は傭兵故に、戦争にでも使うのか?」
「別に火薬の活躍の場は、戦場だけでは無いぞ。まぁ使う必要があれば、是非戦場で使いたいがな」
「成程。要は戦況次第という事じゃな」
「まぁ、簡単に言えばそうだな」
その後は他愛の無い話をしながら、信康とティファは任務を忘れてアザリアと茶を飲む。
茶を飲みながらまったりとしていたら突然、ピイィィィッと言う笛の音が聞こえた。
「この笛の音はっ!?」
「どうやら、なりかけが見つかったみたいね」
信康達は茶を喉に流し込んで、傍に置いてある得物を手に取る。
「御馳走様。今度、お礼に何か買ってから遊びに来るわ。アザリーちゃん」
「だ・か・ら、ちゃん付けするなっ。この戯けっ!!」
「今度お礼に何か美味いもんでも、買って来てやるよ」
信康は手を伸ばして、アザリアの頭を撫でる。
「ええい、子供扱いするでないわっ」
だがそうは言うものの、振り払う様子はない。
「じゃあな」
信康達は部屋を出て玄関に向かった。
そして二人が玄関を出て、笛の音がした方に行こうとした。
「これ、待たんか」
二人の背に声を掛ける者が居た。
アザリアだった。
黒いローブに三角帽子を被った格好は、魔女の恰好そのものだった。
「このところ、身体を動かしていない故な。妾も参加させて貰おう。何が起こっているかは知らぬが害獣にせよ犯罪者にせよ、妾の庭先で我が物顔で闊歩されては迷惑千万なのでな」
ふんすっと鼻息を荒くするアザリア。
信康達は顔を見合わせる。
「・・・・・・連れて行くか。この森に住んでいるから、地形には詳しいだろう。それに魔法使いウィザードは、単純に頼りになる」
「そうね。じゃあ、行くわよ。アザリーちゃん」
「だからっ、いい加減ちゃん付けは止めんか!?」
ギャーギャー言うアザリアを宥めながら、信康達は笛の音がした方に向かう。




