第46話
二人は森の中でポツンと立っている一件の家屋を見て、目を疑う。
「幻かしら?」
「馬鹿言え。こんな所に家の幻を作る、理由が分からんわ」
「そうよね」
こんな森の中で、家屋があること自体が変なのだ。
なので、幻で家屋を作る必要がない。
二人は取り敢えず家屋に近付き、壮麗で立派な扉の前に立つ。
誰か住んでいるのか確認の為に信康がノックをしようとしたら、中から声が聞こえて来た。
「誰じゃ? 今日は誰か来る予定は無い筈じゃ」
「ちょっと尋ねたい事があるので、中に入れてくれないか? 話をする為に出てきてくれるなら、それでも良いのだが」
信康がそう言うと、少しの間静かになった。
少ししたら、扉がギィィィと音を立てて開いた。
信康は開いた扉から、中を覗く。
中がエントランスになっていた。階段まで赤い絨毯が敷かれていた。
しかも、この家の間取り無視した広さだ。天井には大きいシャンデリア付いている。
信康は一度、外に出て家を見る。
何処からどう見ても、普通の一軒家だ。
しかし中は何処かの貴族の屋敷の如き豪邸になっていた。
「・・・・・・魔法か」
信康は魔法を使って屋敷を普通の家屋と見前違える様に、魔法で幻影を作っていると分かった。もし偽装しなければあわよくば、空き巣に入ろうと考える輩が出て来るのでその対策だと思われる。
この幻影を作ったのは、かなりの魔法使いだなと信康は思う。
(どれ程の魔法使いだろうか・・・気になるな)
考えていたら、階段から誰かが下りて来る。
この屋敷の住人だなと思い、その住人が扉の前まで来るのを待った。
そしてその人物が信康達が見える所まで来ると、驚きの声が上がった。
「えっ?」
「なんだと?」
二人が声を出して驚いた先には、紫髪の美幼女だった。
肌は白く、額にちょこんと小さくて黒い角が生えているので、魔族と思われる。
「・・・・・・・幼女?」
ティファの口から、思わず幼女の単語が出た。因みに信康は、心中に留めるだけに成功している。口に出せば、要らぬ怒りを買うと思ったからだ。事実、その通りになる。
「な、なぁっ!? お、お主等ぁっ!! 会うなりこのアザリアの事を幼女と言うとは、無礼であろうっ!? それに妾はこれでも、齢三百十三じゃあっ!!」
二人の前に居るアザリアと名乗った美幼女は、火を吹きそうな位に怒り出した。
「やはり実年齢と容姿が比例していなかったな。不老長寿の種族は、こう言う事が頻繁にあるからな。ティファ、謝れよ」
「えぇ。でも、可愛らしいわね。ごめんなさいね~アザリーちゃん♪」
ティファは目の前に居るアザリアの態度を見て、更に可愛いと思ったみたいで優しくアザリアの頭を撫でる。
「ええいっ、ちゃん付け止めぃっ! だから人を子供扱いするでないわ! 」
アザリアは自分の頭を撫でている、ティファの手を振り払う。
手を振り払われても、ティファは頭を撫でようとしている。
アザリアはそれを察してか、一歩後ずさる。
「おっほん・・・それでお主等、妾に何用があって来たのじゃ?」
アザリアにそう声を掛けられて、二人はこの屋敷に来た理由を思い出す。
「俺は信康と言う。職業は傭兵だ」
信康がそう言うと、ティファは驚く。
そして、信康の耳に手を当てて小声で話す。
「ちょっと、名前なんか名乗って良いの?」
「名前を名乗って、何か支障でもあるのか? 別に被害は無いだろうし、名乗らなければ失礼だろう?」
「・・・・・・そうね。別に支障なんて無いし、問題無いわね」
ティファはそう言うと、幼女に顔を向ける。
「私は女傑族のティファ。ノブヤスと同じく、傭兵をしているわ」
「ほうほう、ノブヤスにティファじゃな。妾は アザリア・アモンマデウスじゃ」
名前を聞いて信康は目の前に居るアザリアが、魔族の中では貴族に匹敵する名家の出だと分かった。魔族で家名を持つのは、貴族階級だけだからだ。
「ええっと、何と呼べば良い?」
「妾は事は気軽に、アザリーと呼んでくれれば良い」
「分かった。アザリーちゃん」
「よろしくね。アザリーちゃん」
「何でちゃん付けするんじゃあっ!? 普通に名前で呼ばんかっ!」
「すまんすまん。こっちの方が似合っている気がして」
「同感」
信康がそう言うと、ティファは何度も頷く。
「無礼な奴等じゃのう。じゃがまぁ良い。それで何が用があって、我が家に来たのじゃ?」
「悪かったよ、すまんかったな・・・実は現在、この森で仕事で来ていてな。それでこの森を探索していたら、この屋敷を偶然発見したんだよ」
「誰が住んでいるのかと気になって、扉を叩いたの」
「それで今に至る訳じゃな」
「で、何でこんな所で暮らしているんだ? 人嫌いでこんな所に家を建てたのか?」
「そんな理由がある訳無かろうが。妾の実験で周辺に余計な被害を出さない様に、此処で暮らしているだけじゃ」
「実験? アザリーは錬金術なのか?」
「少し違うな。妾は錬金術師では無い。科学の実験をしている科学者なのじゃ」
「「科学?」」
二人は意味が分からず、首を傾げる。
「ふむ。意味が分からない顔をしているようじゃな。丁度良い。妾が分かり易く教えてやる故、屋敷に入るが良い」
「いや、任務があるから・・・」
「・・・・・・・駄目か?」
しょんぼりしてしまったアザリアを見て、二人の心に罪悪感が矢となって突き刺さった。
少し逡巡して、二人は互いの顔を見合わせて苦笑する。
「じゃあ、ちょっとだけなら」
「そうか。そういうのであれば、特別に教えてしんぜよう」
顔を輝かせながらアザリアは、アモンマデウス邸に二人を招き入れる。




