第415話
プヨ歴V二十七年十月二十二日。夜。
城館では都市解放を祝って、盛大な祝賀会が開催されていた。
プヨ王国軍の上級将校は全員、クルシャシス辺境伯家当主が開催する祝賀会に参加していた。
城館からは楽しそうな音楽を鳴り響き、その音楽に合わせて踊りと談笑が行われていた。
そんな城館の近くにある兵舎の庭では、兵士達が酒を飲みながら騒いでいた。
「ひゃっほ~美味い酒だ~」
「料理も美味いぜ。こんなに美味い料理は初めてだ。はっはは」
兵舎には祝賀会には参加出来ない兵士達の為に、酒と御馳走が振る舞われていた。
祝賀会で出される物より一段も二段も質が下がるが、十分に上等なその酒と御馳走に満足して御機嫌な様子で舌鼓を打っていた。
信康はその中に入り、静かに酒を飲んでいた。
その隣には当然の様にルノワが信康の酌をしていた。
「・・・・・・」
信康の前にあるテーブル代わりにしている箱にはコップを三つほど酒を淹れてあった。
信康はそれを見ながら、酒を飲んでいた。
飲んでいるのはこの都市で作られている酒精度が高い蒸留酒。
葡萄の搾りカスを蒸留した酒で、信康は振る舞われた酒の中でこの酒が一番口にあったので、これを飲んでいた。
静かに飲んでいる信康を見ても、他の者達は何も言わない。
何かの儀式だろうと思い、誰も訊ねなかった。
そんな中でリカルドが気になっているのか、チラチラと信康達を見る。
その視線を感じて、信康は酒を飲むのを止めてリカルドに話し掛ける。
「何か聞きたい事があるのなら聞くぞ?」
「あ、ああ、気を使わせて済まない」
何故か、頭を下げて謝るリカルド。
別に気を使う事ではないのだがと思いつつ、信康は苦笑する。
「それでノブヤス。君は何をしているんだい?戦が終ったらする東洋の儀式かい?」
「違う。ただの献杯だ」
「献杯?」
「ああ、カインと死んだ知り合いに対しての、な」
信康がそう言うのを聞いて、首を傾げたリカルド。
「カインの分は分かるけど、その知り合いというのは?」
「正確に言えば知人の親だ。事故に遭って亡くなったそうだ」
本当は違うが、正式にそう発表されているのだからそういう事で通す事にした信康。
レズリーには本当の事は話すつもりだ。
「・・・・・・そうか。それはその知人さんは災難だったね」
この都市で起きた事故と聞いて、何となく何があったのか察したリカルドは痛ましそうな顔をする。
信康も同意するかのように頷いた。
「知人には首都に帰ったら教えるつもりだが、その前に弔うぐらいはしても良いと思ってな」
「これが君の故郷でする弔い方かい?」
「そんな所だ。そう言えば・・・第一中隊と第九中隊は、どうしたら良いと思う?」
この二中隊は指揮官を失っているので、この先どうするか信康は悩んでいた。
どちらも壊滅状態になっているので思い切って解散させて、同じく壊滅してしまった第三中隊及び第四中隊と統合させようかと考えていたのだ。
信康が自分の思案をリカルドに提案すると、リカルドは難色を示す表情を浮かべていた。
「そんな事をしたら部隊が減った分、予算も削られてしまうよ? どっちの副隊長も生きてて優秀だから、その二人を中隊長にして新しく隊員を募集するのが一番良いと思うな」
「言われてみれば、それもそうか」
リカルドの意見を聞いて、尤もだと思う信康。
信康は自費で麾下中隊に湯水の如く資金を提供しているが、他の中隊はプヨ王国軍から割り当てられる予算が全てだ。
これで迂闊に二中隊を廃止して予算が減れば、諸将からの反発は免れないだろう。
(リカルドに意見を求めて、正解だったな。正義感が強過ぎて直ぐ頭に血が上り易いけど、自頭は良いんだよなぁ)
リカルドが最善と言える意見を述べてくれたので、信康の中でリカルドの評価は上昇していた。
(先ずはこの四中隊の立て直しを、やはり最優先事項にするか)
心中でそう判断した信康は、うんうんと頷いていた。
信康は直ぐにサンジェルマン姉妹を捜して、今後の方針を纏めた手紙を早急に傭兵部隊の兵舎に届けさせる事にした。
兵士達が兵舎にある庭では、まだ賑やかな声が聞こえて来た。
しかし信康は所用を済ませた後に、一足先に兵舎にある部屋で休む事にした。
「取り敢えず四中隊の立て直しに専念するけど、兵士ってのは弱兵はともかく強兵は一朝一夕で出来ないからなぁ。先が思いやられるな」
信康はそう言うと、溜息を吐いた。
そして、部屋の前に着いたのだが、扉が若干開いている事に気付いた。
部屋を掃除した者がちゃんと閉めなかっただけだろうと思い、気に留めなかった。
部屋に入ると、代理とは言え総隊長になったのは早計だったかと思いつつ信康が寝台を見ると、何故かこんもりと膨らんでいた。
何か居ると思い、信康は怪訝に思いながらもジリジリと近付く。
そして寝台の布団を退けた。
「あら、お帰りなさい♥」
寝台の上には、全裸のシャナレイが居た。




