第412話
命からがら逃げ出したヘルムート達は、生き残った者達を纏めて傭兵部隊と合流した。
敵の追撃は無く、無事に本隊と合流したヘルムート達。
そして直ぐに治療が始まった。
負傷者は天幕の中に集められて治療が行われていた。
「うう・・・・・・」
「いてえ、いてえ・・・・・・」
「ぐぐぐ・・・・・・」
負傷した者達は傷口を包帯で巻かれた状態で横になりながら呻き声をあげていた。
「生き残った負傷者の具合はどうなんだ?」
自分の部下であるトレニアに訊ねる信康。
トレニアは治療の手を止めてないで、話し出す。
「重傷者は少ないのですがその分、軽傷者が多いです。そしてその少ない重傷者の四割近くが、何時死んでもおかしくない程の傷を負っています」
「助かりそうか?」
「最善を尽くす・・・としか」
それを聞いて、信康は任せるしか無いなと思った。其処へマジョルコムが、信康の下へやって来た。
「中隊長。ヘルムート総隊長が、諸将を招集する様に命じたそうです」
「分かった」
マジョルコムに言われて信康は、ヘルムートの下に諸将を集める様に指示した。
天幕の中には、ヘルムートが横になっていた。
身体の至る所が包帯で巻かれていたが眠っているのか、目を瞑り規則正しい呼吸をしていた。
しかし本来あるべき筈の左腕は、肘から先が切り裂かれて喪失していた。
『・・・・・・・・・・・・』
天幕の中にはカインを除いた、傭兵部隊の諸将は集められていた。
そして全員が、ヘルムートの姿を見て言葉を失っていた。
「総隊長。傭兵隊部隊の諸将が集まりました」
リカルドが代表して、横になっているヘルムートに声を掛けた。
その声を聞いて、ヘルムートは直ぐに目を開けた。
「おお、きたか・・・・・・」
ヘルムートは身体を起こすが、痛みが走ったのか左腕を抑えた。
「総隊長っ!」
「大丈夫だ。少し痛んだけだ」
近付くリカルド達を手で制すヘルムート。
「さっさと休みたいから、要件だけを言うぞ。この傷では戦闘も指揮を執るのもままならない。だから俺は転移門ゲートを使って、負傷した者達も連れて一足先に王都に戻り治療に専念する。其処で副隊長の中から、総隊長代理を選ぶ心算だ」
ヘルムートが声を掛けると自然と傭兵部隊の副隊長である、信康とリカルドとヒルダレイアの三人に視線が集中した。
次の総隊長を選ぶのに、三人居る副隊長から選ぶのは道理であるので誰も驚かなかった。
そんな中で、リカルドが手を挙げる。
「リカルド。お前が総隊長代理になりたいのか?」
「まさか。総隊長、僕はノブヤスを推薦します」
リカルドがそう言うのを聞いて、全員が信康を見る。
「俺?」
信康も驚きながら自分を指差す。
「ああ。そもそも傭兵部隊の第二位なんだから、別におかしくないだろう? それにノブヤスは頭も切れるし、武勇の方も文句なんて着けようが無い。選択肢として、これ以上の案は無い筈だけど?」
「リカルドの言う通りね。あたしもノブヤスを推薦するわ」
リカルドの提案に、ヒルダレイアも賛同した。
「と言う訳で僕達はノブヤスを推薦するけど、皆はどうかな?」
リカルドが他の諸将に、意見を求めた。
「俺は文句ないぜ。ノブヤスだったら問題なしだ」
「こっちもだ」
バーンとロイドは賛成した。
「大賛成よ」
「ええ、異議無しね」
「私も同意します」
ティファ、ライナ、サンドラの順に、賛成意見が述べられた。
これにより全会一致で、信康が総隊長代理に推薦された。
「お前等な・・・・・・」
信康は頭を掻いた。
「という訳で、どうかな? まぁ、無理にとは言わないけど」
「リカルド・・・・・まぁ、良いか」
溜め息を吐いた信康はヘルムートを真っ直ぐ見る。
「不肖信康。その総隊長代理の任、謹んでお受け致します」
信康は胸に手を当てて一礼する。
代理とは言え、総隊長を務めるという重責が自分の肩にのしかかるのを感じていた。
「そうか。じゃあ、後の事は頼む」
ヘルムートはそう言うと「ちょっと横になる」と言って、そのまま眠った。
ヘルムートが眠ったのを確認した信康達は、ヘルムートを起こさない様に天幕を出た。
テントを出た信康達は会議を始めた。
「負傷者達だけで、首都に帰させるのは流石にキツイだろうから、誰か部隊を率いて一緒に帰還してくれないか」
「そうだね。流石に負傷者達だけ帰還させたら、無事に帰れるかどうか分からないからね」
負傷しているので、敵の奇襲部隊に襲われでもしたら目も当てられないし、腹を空かせた魔物や野党などが襲う可能性もあった。
「誰か、一緒に帰還したいという奴は居るか?」
信康が訊ねると、意外な者が手を挙げた。
「バーン?」
「俺が隊長達と一緒に首都に帰還する」
「良いのか?」
「ああ。今回、隊長が負傷したのは俺達が敵の策に嵌ったからだからな」
「あれは、敵将の戦術が凄かっただけだよ」
「それでも、これぐらいはしないと気分が悪い」
「分かった。じゃあ、バーン隊は隊長達と首都に帰還してくれ」
「おう。首都に帰還したら、アグレブ奪還の勝報を楽しみにしているからな」
「ああ、頑張らせて貰うよ」
その後、信康は死んだカインの残存部隊はとりあえず生き残ったカイン隊副隊長に指揮を取らせる事にして、会議を終わらせた。
信康はその足で各軍団の将に会い、自分が傭兵部隊の総隊長代理になる経緯となった事を告げる。
各軍団の将は文句なく認めてくれた。
信康はテントに戻ると、部隊の再編に掛かった。
数日後。
バーンがヘルムート達を連れて首都に帰還した。バーン達を見送った信康は部隊の再編に掛かった。
部隊の再編が終ると信康は本陣に向かい、その事を告げに行くと。
「遅いっ。部隊の再編ぐらい、もっと早く終わらせられないのかっ」
「はぁ、すいません」
「愚図が。貴様ら傭兵はその為に金で集められた者達だろう。再編ぐらい、さっさと出来ないのか。それとも貴様らはそんな事も出来ないのか?」
総大将のグイルが再編に時間を掛け過ぎだと嫌味を言い続けた。
その後もグチグチと嫌味を言い続けたが、信康は反論しないで黙って聞いていた。
すると、其処に人が入って来た。
「失礼します」
「何だ!? 今は話中だぞっ」
「はっ。それがアグレブのクルシャシス辺境伯家から使者が参りました」
「なに?」
怪訝な顔をするグイル。
「・・・・・・兎も角、通せ」
「はっ」
兵士が敬礼して、その場を離れた。
少しして、兵士が使者を連れてやって来た。
「私がプヨ軍総大将のグイル・フォル・ヴァイツェンだ。クルシャシス辺境伯家の使者との事だが、何の用で来た?」
「我が主が、これを」
使者は懐から、封に入った手紙を出した。
グイルはその手紙を副官に取らせてから、副官から手紙を受け取った。
そしてその手紙を開けて中身を見た。
「・・・・・・カロキヤ軍がアグレブを解放して公国に撤退した、だとぉっ!?」
手紙に書かれた内容を見て驚くグイル。
それは信康とモルートも同じであった。




