第408話
ガキンッ‼
鋼と鋼がぶつかり合い、火花が夜の闇を裂いた。 耳をつんざく金属音とともに、二人の戦士の足元に土埃が舞い上がる。
「ぬうううううっ……!」
「ふんんんっ……!」
握る得物に力がこもり、筋肉が軋む音すら聞こえそうだった。 だが、鍔迫り合いになるかと思われた瞬間、二人はほぼ同時に後方へ跳ねた。 踏みしめた地面が、乾いた音を立てて崩れる。
風が吹き抜ける。血と鉄の匂いを運びながら。
「…………」
睨み合う二人の間に、沈黙が落ちる。 遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえた。馬の嘶き。矢の風切り音。 だがこの一瞬、世界は彼ら二人だけのものだった。
「っしゃあああああっ‼」
ゲオルードが咆哮とともに駆け出す。 槍が風を裂き、信康の喉元を狙って突き出された。
「せいっ! せいっ! せいっ!」
一突きごとに殺意が乗る。狙いは鋭く、急所を正確に射抜こうとしていた。 だが――あまりに正確すぎた。
「ふん。勢いも狙いも悪くないが……その軌道、読みやすいな」
信康は身をひねり、槍を紙一重で避けながら冷ややかに評した。
「避けてばかりで、口しか動かせねぇのかよ!」
「その口しか動かしていない者に、攻撃を当てられない奴もいるがな」
火花のように飛び交う言葉の刃。 ゲオルードの顔が怒りに染まり、目が血走る。
「てめえっ、殺すっ!」
「自分が先に言っただろうに」
信康の皮肉に、ゲオルードの怒りは頂点に達した。 槍の動きが荒くなる。狙いがぶれ、隙が生まれる。
「くそっ、くそっ、さっさと死ねっ、くそやろうっ!」
「そんな攻撃で死ぬか。馬鹿だな、お前は」
信康は冷静に、まるで舞うように攻撃をかわし続けた。
「……見切った」
その声と同時に、信康の体が一歩ずれた。 槍の軌道を外れたその手が、するりと柄を掴む。
「しまっ――」
ゲオルードが引き戻そうとするが、槍はびくともしない。 信康の眼が、夜の闇よりも冷たく光った。
スパンッ‼
鋼が裂ける音。槍の半ばから、刃が斬り落とされた。
「くっ、これでもくらえっ!」
残った柄を投げつけるゲオルード。 だが、それは一閃で弾かれた。
ギンッ!
返す刀が、鋭く斬り上げる。
「ぐっ、ぐああああああっ⁉」
右腕が宙を舞い、地に落ちる。 血が噴き出し、乾いた土を濡らす。
「があああああっ‼‼」
膝をつき、傷口を押さえ、呻くゲオルード。 その顔に浮かぶのは、怒りか、恐怖か、それとも――
「戦場の習いだ。悪く思うな」
信康は静かに、刀をその首元へ突きつけた。
「く、くそっ……!」
血の混じった唾を吐き、睨みつけるゲオルード。
「じゃあな」
その一言とともに、刀が横に振るわれた。
ザシュッ――
首が宙を舞い、地に落ちる。 血が噴き出し、夜の戦場を真紅に染めた。
信康は静かに目を閉じ、黙祷を捧げる。 そして、ゲオルードの瞳をそっと閉じると、その首を高々と掲げた。
「敵将ゲオルード・ワイベルグガを――信康・フォン・レヴァシュティンが討ち取ったぞぉぉぉ‼」
その声が夜空に響く。 兵たちの歓声が、戦場の喧騒を突き破った。
「敵襲‼ 西の崖から敵が攻めて来ましたっ!」
「南の崖からも攻めて来ましたっ!」
風に乗って届く、真紅騎士団の報告。
「他の部隊も動けたか……よし」
仲間の無事を知り、信康は小さく息を吐いた。 ゲオルードの首を布に包み、部下に預けると――
再び、戦場へと駆け出した。更なる功績を求めて。




