第406話
大砲から放たれた砲弾が砦に当たるのを見て、信康は大砲を見る。
「意外に使えるな。この木砲は」
信康の故郷では、木で作られた筒に焙烙球を打ち出す木砲という物があった。
なので今回の攻城戦に使えると思い、前日から部下に出来るだけ太い木材を採って来いと命じていた。後は記憶の中にある木砲通りに作るだけであった。
本来は砲弾を撃つ事は不可能ではない。しかし今、信康達が居る所から砦に当てる事は距離的に無理だ。
其処を部下のイセリア達が持つ技術で補強した。
『オッホホホ、異国には面白い技術があるものね。まさか、木材で大砲の砲身を作るなんて、砲身を貴金属で作る事はあっても木材で作るなんて考えもしなかったわ。まぁ、木材で作ったから普通の砲身に比べたら、簡単に焼き切れるわね。でも、其処を妾達の魔法で強化したから、例え一万発以上撃っても砲身が焼き切れる事は無いわ。オッホホホホ』
『補足ですが。撃ち出される砲弾も、前にノブヤス隊長が解析してくれと言われた弾丸を参考に作りました。あの弾丸はどうやら製造過程の段階で魔力を練り込まれている様で、それのより威力が増して貫通力が上がったようです。で、その弾丸を参考にして作った砲弾は、製造過程の段階で魔力を練り込みました。これにより威力は格段に増しました』
と魔学狂姉妹が木砲を作る際に教えてくれた。
『ちなみに、今回は幾つ作ったんだ?』
『戦争に使うかもしれないと思い、一応三百発ほど』
『そんなにか⁉』
思ったよりも多く砲弾が作られたので驚く信康。
部下に木材を採らせに行かせたが、木砲に足りえる木材は二つしかなかった。
なので、木砲は二門しかない。という事は、一門で最低でも百五十発撃つ事になる。
信康は弾込め作業をしている木砲を見ながら感心した様に呟く。
「もう五発ぐらい撃っているが、イセリアの言った様にこれなら焼き切れる心配は無さそうだな」
流石は魔学狂姉妹だなと思う信康。
「隊長。敵飛行兵部隊が強襲して来ますっ。数は四十」
「随分と減ったな。夜襲を撃退したのが効いたようだな」
信康は独立鷲獅子騎兵隊の数を聞いて、隊長を逃がしはしたが苦労した甲斐はあったなと思った。
「ライナ、テイファ隊を迎撃に行かせろ。それと、シャナレイ聖女様に風の魔法を使用しろと通達」
「はっ」
伝令の隊員が駆け出した。
「川の方はどうだ?」
「はっ。渡る準備は完了したとの事です」
「良し。クラウディアの方はどうだ?」
「そちらも問題ないとの事です。それと、隊長」
「何だ?」
「お知り合いとは言え、聖女様を呼び捨てにするのは流石に不味いと思います。此処には自分しか居ませんが、他の者が聞いたら不快に思うかもしれません」
「ふむ。それもそうだな。気をつけよう」
自分の女なのでつい呼び捨てにしたが、他の人からしたらとんでもない事なんだなと思う信康。
そう思っている間に、独立鷲獅子騎兵隊とテイファ、ライナの二隊が交戦した。
高低差を活かした攻め方で、陣を突き崩そうとする独立鷲獅子騎兵隊。
その攻撃を受けるテイファ、ライナの二隊の魔法攻撃の援護で防いでいる。
拮抗するかと思われたが次の瞬間、不可解な事が起こった。
突如、強風が吹き荒れた。
あまりに強い風により、独立鷲獅子騎兵隊はグリフォンの制御を失いかけた。
その隙を見逃さないとばかりに、テイファとライナの二隊は攻勢を激しくした。
当初は拮抗するかと思われたが、今は独立鷲獅子騎兵隊が押されていた。
「ふふ、予想通りだ」
先程、信康がシャナレイに出した指示でシャナレイは自分が連れて来た神官部隊に風の結界を張らせた。
空気の断層により、独立鷲獅子騎兵隊は騎乗しているグリフォン達の制御を奪ったのだ。
これで、敵の飛行兵部隊の足止めが出来る。
「・・・ちっ。予想では、此処に敵の飛行兵部隊が全員来ると思ったが、何事も全て予想通りとは行かないか」
忌々しそうに親指の爪を噛む信康。
「仕方がない。伝令、ライナとテイファの二隊にクラウディア聖女様の隊と交代しろ」
先程部下に指摘されたので、聖女様とつける事にした。
「はっ」
伝令が向かうのを見届けると、信康は次の命令を下す。
「ティファ達と合流したら渡河する。そしてそのまま砦に攻めるぞっ」
「「おおおおおおおおおおおおおっ‼」」
信康の号令を下すと歓声が上がった。




