第405話
同時刻。 真紅騎士団とカロキヤ軍飛行兵部隊『独立鷲獅子騎兵隊』が駐屯する砦。
その営倉の中で、ゲオルードは仰向けに寝そべり、腕を枕にして天井を睨んでいた。
砦に戻るなり、ルディアの拳が頬を裂いた。軍法会議すら省略され、斬首寸前であった。
だが、部下たちの嘆願が彼の首を繋ぎ止めた。隊長職剥奪、そして営倉入りとなった。
「…………」
天井の染みを見つめながら、ルディアの怒声が脳裏に焼き付く。
『無断で出撃し部下を死なせるとは、貴様に隊長の資格は無いっ』
隊の設立時から、共に苦楽を共にしているルディアの言葉は、刃よりも鋭かった。 怒りに震えたが、今はただ、己の愚かさを噛み締めるしかない。
「……早く、汚名返上の機会が来ればいいのに」
名誉を取り戻し、ルディアの目に再び映るために。 だが、彼は重大なことを忘れていた。 ——営倉に閉じ込められたまま、どうやって戦場に立つのかを。
その時だった。
ドドォォォンッ‼
砦が地鳴りのような音を立てて揺れた。 壁の石が軋み、埃が舞い、空気が震える。
「この揺れ……間違いねぇ、敵襲だっ!」
ゲオルードは跳ね起き、鉄の扉を拳で叩いた。
「おいっ、今すぐ副隊長に連絡しろ!俺を出せってな!」
だが、見張りの声は冷たかった。
「悪いな。副隊長から、何があっても取り次ぐなって命令だ。大人しくしてろ」
「てめぇ、巫山戯んなっ⁉」
「ふざけちゃいねぇよ。グリフォンは一匹でも貴重だ。あんたに乗せたら、また死ぬ」
「そうだぜ。俺達が見張りしてるのも、あんたのせいで乗るグリフォンが死んだからだ」
「ぬ、ぬぬぬ……」
何も言い返せない ゲオルードは拳を握りしめ、唇を噛み、静かに座り込んだ。
その頃。
ルディアは四十騎の鷲獅子騎兵を率いて、東へ飛んでいた。 南と西にも敵影があり、十騎ずつを派遣した。
残った者は、グリフォンを失ったか、傷を負って砦に残っている。
「……この数じゃ、攻撃もままならない」
舌打ちするルディア。 だが、副官の声が冷静に響く。
「今は敵の砦への攻撃を止めるのが先決です」
「……そうね。今はそれが大事よね」
ルディアは槍を握り直し、川の上空へと進む。 対岸には敵軍が展開され、砦に向けて何かを構えていた。
魔法の閃光が空を裂き、そして——
ドォォォンッ‼
砦が再び揺れた。 火花を散らし、煙を吐きながら、巨大な筒が砦を狙っている。
「何だ、あれは……?」
「大砲のようです。火薬式の……」
「いつの間に、敵はあんな物を……」
「分かりません。ですが、このままでは砦が持ちません」
ルディアは槍を高く掲げた。
「総員、わたしに続けっ‼」
その声は雷鳴のように空を裂き、鷲獅子騎兵たちは翼を広げて突撃した。
空を切る風が唸り、グリフォンの咆哮が戦場に響く。 彼らの影が、砲撃の炎を越えて、敵陣へと迫っていく。




