第404話
ヘルムートが作戦の決行を告げた日から二日後。
まだ、朝を迎えるには早い時刻。
信康はテイファ、ライナの二隊と共に砦の北近くを流れている川の傍に居た。
西と南では、既に崖を上がっている頃と思われる。
そんな中、信康達は川を見ていた。
「ねぇ、ノブヤス。そろそろ渡らないと、攻撃に遅れるわよ」
「そうよ。そろそろ川を渡らないと、軍法違反とか言われるかもしれないわよ」
テイファとライナは早く川を渡ろうと急かした。
「もう少しだけ待て。そうしたら分かるから」
信康は川を見ながら、何かを待っている様であった。
それが何なのか分からず、ティファ達は互いを見て首を傾げた。
そうして時間だけが過ぎて行くと。
「只今戻りました」
ルノワが音もなく、信康達の傍に現れた。
音もなく現れたのでライナ達は驚くが、信康は何とも思わない顔で訊ねる。
「ご苦労さん。で、どうだった?」
「はい。第三騎士団は攻城の準備はしています」
「そうか。じゃあ予定通り、陽動は行われるか」
ルノワの報告を聞いて、ホッと安堵の息を漏らす信康。だが、次の報告を聞いて顔を顰めた。
「攻城櫓と破城槌を幾つも作っております」
「なに? 数はどれくらいだ?」
「大まかにしか数えていませんが、およそ二十機」
「っち、あの野郎。砦を俺らに押し付ける気だな」
信康の呟きを聞いてライナは意味が直ぐに分かったのか、溜め息を吐いた。
「はぁ~、やる事がせこいわね」
「? どういう事?」
信康とライナの反応が分からず、テイファは首を傾げた。
「砦の北門には何がある?」
「そんなの、前の攻城戦の時に使った攻城兵器の残骸がまだ残っているわ」
「だろう。だから、この場合、攻城兵器を作るよりも、陽動しつつ攻城兵器の残骸を撤去するが一番良いんだ。撤去したら敵も困るから、その撤去作業を妨害する為に攻撃に集中するから陽動になる。更に、もしこの作戦が失敗しても少しでも残骸を撤去出来たら、攻城兵器を繰り出す事が出来る」
「ふむふむ、成程。でも、それだったらどうして向こうは攻城兵器を作っているの?」
「そんなの簡単だ。俺達にこの砦を攻撃させている間に、アグレブに向かうんだよ」
「えっ⁉」
「じゃなかったら、攻城兵器なんか作らねえよ」
「そうでしょうね。でも、この攻撃が失敗したら、あの騎士団長どうするつもりかしら?」
「俺があいつの立場だったらこう言うぜ。『我らが陽動を行う前に、貴様らの攻撃が勘付かれた。これは貴様のミスだ。だが、わたしは寛大だ。そのミスの取り返す機会をやる。我々がアグレブを奪還するまで、その砦を包囲していろっ』ってな」
「うわぁ、最悪ね。そういう事言うの?」
「嫌ね。自分の功績に傷をつけたくない人が、総大将ってのは」
テイファとライナは心底嫌そうな顔をする。
「それは同感だ。まぁとりあえず、騎士団がどんな風に動くか気になったから、こうしてルノワに調べさせていた。こう動くのなら、俺達もそう行動すると考えて砦を攻略すれば良いだけだ」
「あら?何か考えでもあるの?」
「無論だ。じゃなかったら攻撃に参加しないで、陣地で守りを固めるとか言って本陣にいたよ」
「ふぅん。そうなの、で、どんな方法を使うの?」
「ああ、それはな」
「隊長。ノブヤス隊長っ」
「どうした?」
「せ、せせせ、せいじょうさまが、ま、ままりましたっ」
「はぁ?せいじょう?ままり?」
伝令に来た伝令の言葉の意味が分からず首を傾げる信康。
「意味が分からん。少し落ち着け」
信康は部下を少し落ち着かせようと深呼吸しろと言おうとしたら。
「ふふ、お邪魔でしたか?」
伝令役の隊員と信康が話をしていると、女性の声が聞こえて来た。
その声を聞いて、信康は身なりを正した。
「これはこれは、聖女様方がこのような所に来られるとは」
「こんな所に呼び出して、何の用よ?」
信康一礼した。その相手は、空と風の神ウラモイトールン教の聖女シャナレイ・フォン・ドゥ・ヨースティンとクラウディアの二人であった。
「ふふ、他ならぬノブヤス様のお呼び出しですから、てっきり逢引のお誘いかと思いましたが違ったようですね」
手で口を隠しながらコロコロと笑うシャナレイ。
それを聞いてクラウディアはジロリと信康を睨んだ。
クラウディアの強烈な視線を浴びつつも、信康はシャナレイを見る。
「御冗談を。それで、手勢はどれほどお連れですか?」
「ええ、其処のダークエルフの方に言われた通り五百ほど」
「あたしの所は、多めと言っていたから千ほど連れて来たわよ」
「十分だ。助かる」
「ねぇ、ノブヤス。聖女様方を呼んだという事は、何か作戦を考えたようね」
「どんな作戦なの?」
「ああ、そんなの簡単だ」
信康は笑みを浮かべながら教えた。
「別にあの砦は今後使うとは思えないからな。此処から強力な魔法を放って再利用出来なくなる程、徹底的に砦を破壊する」




