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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第402話

 ゲオルード達が矢の攻撃で撃墜されていく中、ゲオルードは頭を抱えながらも矢を叩き落としていた。


「くそっ、くそくそっ。どうして俺が夜襲を掛けると見抜きやがった⁉」


 それは訊ねると言うよりも、純粋な疑問の様であった。


 今夜が新月なのを見て思いついて行動した。


 なので、誰も夜襲を掛けて来るとは予想も出来なかったはずだ。


 それなのに、まるでゲオルードが来る事を予想したかのような布陣で攻撃して来た。


 それが分からず、ゲオルードは声を大にして言う。


「てめえっ、どうして、俺達が夜襲を掛けると分かった⁉」


 ゲオルードは矢を叩き落としながら、信康に訊ねた。


 信康は隠す事は無いのか事も無げに話し出した。


「なに、捕まえた捕虜の口から聞いただけだ。お前の性格をな。そして、もし自分が人質になったら何が何でも助けに来てくれると言っていたぞ」


「っ⁉ そいつはどうした⁉」


「聞きたい情報は聞いたのでな、もう総大将に渡したよ。見目が良いから顔は傷付けてない様に情報を吐かせたから、今頃、第三騎士団の奴らの慰み者になっているだろうな」


「てめえっ、ぶっ殺すっ」


 ゲオルードは怒りで痛みを忘れたのか、頭を抑えるのを止めて、槍を構えながら信康に突撃して来た。


「阿呆が」


 信康はそう言ってから、琵琶の弦を爪弾いた。


 ジャアン!


 その音がしたと思ったら、見えない衝撃波が生まれて、ゲオルードに当たった。


「うおっ⁈」


 その衝撃波で吹き飛ばされるゲオルード。


 転がり続けて衝撃を殺して、ようやく立ち上がった時には信康からかなり距離が出来た。


「てめえ、今、何をしやがった?」


「教えるか。まぁ、特別に見せてやるがな」


 信康はそう言って、また琵琶の弦を爪弾いた。


 ジャン!


 その音がしたと同時に、見えない何かが走った。


「?」


 独立鷲獅子騎兵隊の隊員が首を傾げると、何も起こらない事が不審に思ったのだろう。


 だが、次の瞬間。自分が騎乗している鷲獅子(グリフォン)の首が横にずれた。


「??」


 その事を不思議に思っていたら、自分の視線が横にずれている事に気付いた。


 そして、気付いた。


 自分と(・・・)グリフォン(・・・・・)が攻撃(・・)を受けて(・・・・)横に(・・)切り(・・)裂かれた(・・・・)事を。


 隊員は「馬鹿な・・・・・・」と呟きながら事切れた。


 隊員が自分が騎乗しているグリフォンと共に墜落しているのを見て、ゲオルードは何が起こったか分からなかったが、とりあえずは見えない攻撃でやられたという事だけ分かった。


「っち、これじゃあ、迂闊に近づけねえ」


 見えない攻撃という事は、避ける事が難しいという事だ。


 ゲオルードの得物は槍だが、信康との距離がかなり離れている。


 これではゲオルードの攻撃が通らない。


「もう戦果は十分だから、逃がしてやるぞ?」


 信康が揶揄うと、ゲオルードは顔を真っ赤にさせた。


「ふざけんな!これでも喰らえやっ」


 ゲオルードは自棄になったのか、持っている槍を投げた。


 狙いは正確、威力も問題ない。だが、その槍が信康に当たる事はなかった。


 信康の周りに風が舞い上がった。その風により、槍は弾かれた。


「何だ⁈」


「無駄だ。部下に風魔法を掛けてもらったからな。お前等の飛び道具の攻撃は一切、俺には届かないぞ」


「くそがっ」


「さて、そろそろ終わりにしてやろう」


 信康が琵琶の弦を爪弾いた。


 ジャアアン‼


 その音が響いた同時に、見えない攻撃がゲオルードに迫る。


 不味いと思いつつも、その攻撃が見えない以上、避ける事が出来ない。


(万事休すか)


 そう思った瞬間、横から何かに押された。


 押された事で、ゲオルードは横に飛ばされ、地面に倒れた。


「って、なんだ?」


 ゲオルードは体を起こして、何があったか見る。


 すると、先程まで自分が居た所に、自分が乗っていたグリフォンが居た。


「お前・・・・・」


「GURI・・・・・・」


 グリフォンはゲオルードを見ていたが、突如、身体が真っ二つになり、赤い血を吹き出しながら倒れた。倒れたグリフォンは目の光が無くなった。


「ふむ。畜生の身で主人を守るか。見上げた心意気だ。そう言えば、あの女騎士が乗っていたグリフォンもその女騎士を守っていたな」


 死んだグリフォンを見て、信康は思い出したかのように呟いた。


 そして、口角をあげながら言葉を続けた。


「最もそんな反抗的な事は出来なくなったがな。今はこんな姿になったからな」


 信康は懐から、何かを出した。それはグリフォンの羽であった。


 それを見て、ゲオルードは顔を真っ赤にさせた。


 グリフォンは自分の背に乗せた者を裏切らない。その者を守る為にどんな事でもする。


 それを主人を守らないという事は殺されたという事になる。


 更に、グリフォンは自分が認めた者以外に羽は与えない。それ以外の者が羽を持つという事は、つまり、そのグリフォンを殺したという事だ。


「くそやろううううううううっ⁉‼」


 ゲオルードは腰に差している剣を抜いて、信康へと駆け出した。


 隊員達はゲオルードを制止しようとしたが、飛んでくる矢を防ぐので精一杯で制止する事が出来なかった。


 駆けて来るゲオルードを見て、信康はほくそ笑んだ。


 そして、琵琶の弦を弾こうとしたら。


「『火炎球(ファイヤーボール)』」


 上空から、炎の球が信康に向かって来た。


「むっ」


 泰然としていた信康の顔が顰め出した。


 慌てて飛んでくる魔法攻撃を防ぐ為に、弦を弾いた。


 衝撃波で魔法の球を防いだ。


「どうにか間に合ったかっ」


 そう声を掛けるのは、ルディアであった。


「ルディア。どうして此処にっ」


「五月蠅い、馬鹿者っ。今は撤退の事だけ考えろっ」


 ゲオルードに一喝するルディア。


 そう言われて、ゲオルードはただ頷いた。


「おい。ゲオルードを乗せろ。それで、撤退するぞっ」


「逃げれると思うなよ」


 ルディアが声高にそう言うと、信康が琵琶の弦を弾いた。


 ジャン! ジャアアアン‼


「くっ、落ち着け。ヤコレフっ」


 自分が騎乗しているグリフォンに声を掛けて落ち着かせようとしたが、その隙を見逃さない信康は琵琶の弦を弾こうとすると。


「っ、させるかっ」


 ゲオルードの副官がグリフォンを操り、信康に突撃しだした。


 防御を捨てた事で、グリフォンにも自分にも矢が幾つも突き刺さるが、構わず突撃してきた。


「ふん。見事な忠誠心だな」


 信康は向かって来る独立鷲獅子騎兵隊の隊員の意図が分かり、信康は琵琶を弾くのを止めて後ろに跳んだ。


「撃て撃てっ、これ以上近づけるなっ」


「はっ」


 信康がそう命ずると、トッドが返事をした。


 そして、矢が大量に放たれた。


「くっ、無念。だが、ただでは死なんっ。皆、わたしに続け、何としても隊長達を無事に逃がすのだっ」


 副官がそう叫ぶと、ゲオルード共に夜襲に参加した者達が副官と共に敵陣に突撃した。


 副官も敵陣に向かう前に、ゲオルードを見る。


「隊長。御先にっ」


 それだけ言って、副官は矢が飛んでくる敵陣に突撃した。


「ま、まて、おまえらああああっ」


 ゲオルードが叫んでも、副官達は突撃を止めなかった。


 その間に、ルディアからゲオルードの回収を頼まれた隊員が、ゲオルードを自分の後ろの乗せて、上空へと飛び上がった。


「よし、撤退っ」


 ルディアがそう号令すると、ルディア達が砦へと撤退した。


 砦への撤退中、隠れていた第四騎士団の天馬騎士達が攻撃仕掛けた。


「一人も逃がすな。掛かれっ」


 ルカの号令の下に麾下の天馬騎士達はルディア達に攻撃する。


「隊長。副隊長。御武運をっ」


 天馬騎士達の迎撃に、隊員達が駆け出した。


 ルディア達は隊員を犠牲にしながら、砦へと撤退した。


 ルディア達が砦にたどり着くと、自分と共に砦に着いたのはゲオルードの部隊と救援の為に連れて来た部隊を合わせても五十騎しか居なかった。


 独立鷲獅子騎兵隊の人数は二百。


 ゲオルードが夜襲の為に率いたのは五十騎。


 ルディアが救援の為に率いたのは百騎。


 砦に残した戦力は五十騎。


 つまり、今回の夜襲で独立鷲獅子騎兵隊は半数になったという事になる。


 これは砦の機動戦力が半減したという事だ。

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