第397話
信康達が本陣に戻り、次の命令を待っている頃。
真紅騎士団とカロキヤ軍飛行兵部隊『独立鷲獅子騎兵隊』が駐屯している砦。
その砦にある軍議の場で、カールセンがバルドと幕僚と共に今後の事を話し合っていた。
「今の所、プヨ軍はこの砦を陥落させようと攻撃を掛けているが、そろそろ兵糧攻めを掛けて来られても大丈夫なようにするべきではないか?」
バルドがカールセンに訊ねた。
「いや、敵軍はまだ兵糧攻めをする事はないじゃろう。むしろ、もう一回ほど攻め込んで来るじゃろうな」
「その根拠は?」
「今回攻め込んできた部隊の数があまりに少ない。恐らくこちらがどれだけの戦力を擁しているか知らべるべく派遣された威力偵察の部隊じゃろう」
「ふむ。だとしたら、次はどう攻めるか?」
「崖を上がって攻め込んで来るという事も考えた方が良いもしれんぞ」
「ふふ、成程。其処から攻めて来るとは思わないと思って攻めるか。奇策ではあるが、普通ならば防げないな」
「じゃな。はっはは」
バルドとカールセンが笑みを浮かべた。
軍議に参加している幕僚達は、その笑みの意味が分からず困惑していた。
一頻り笑うと、バルドは自分の幕僚に目を向ける。
「兵達の状況はどうだ?」
「はっ。怪我している者は居ますが、今の所、死者は一人も出ていません。後は疲労により疲れてはいる者は居ますが、交代し休憩をしておりますので、何とかやっていけると思います」
「そうか。兵糧の方は?」
「そちらは問題ありません。籠城が二か月続いても問題ない量が蔵に備蓄されています」
「うむ。後は」
バルドが何か聞こうとしたら、扉の方から騒がしい声が聞こえて来た。
「何の騒ぎだ?」
バルドが幕僚に訊ねると、幕僚も首を傾げる。
そして、直ぐに騒がしい理由が分かった。
ドシャアアアアンッ‼
扉が激しく音を立てて開いた。
そして、部屋に入って来たのはゲオルードであった。
「此処に騎兵部隊の指揮した隊長は居るかっ」
ゲオルードはバルド達を見回しながら訊ねた。
「儂じゃが? 何か用か、小僧?」
カールセンが顎髭を撫でながら涼しい顔で反応した。
「てめえかっ。よくもうちの奴らに敵を押し付けやがったなっ」
「押し付けた? ああ、儂らが先に砦に後退した事を言っているのか?」
「ああ、そうだ。お蔭でうちの奴らに被害が出たぞっ」
ゲオルードは喚きながら机を叩き、カールセンを見る。
「戦に出れば被害が出るのは当然じゃろう。何を憤っている?」
「撤退した部下達が、あんたが後退したから敵の集中攻撃を受けたって聞いたんだ。砦に後退するのなら、前もって決めた後退の合図を出してから、砦に後退すべきだろうっ」
ゲオルードは癇癪を起した子供の様に喚き散らした。
バルド達はそんなゲオルードを見て辟易した。
「そんな合図を送る暇があったら送っておるわ。送れなかったのは、そんな合図を送る暇がなかったからじゃよ。そんな事も分からぬのか?お主は」
「んだとっ!」
「やれやれ、喚くだけなら子供でも出来るぞ。うちのネイファと良い勝負じゃな」
呆れたように溜め息を吐くカールセン。
「こんの糞爺っ」
カールセンの態度を見て、腹が立ったのか剣の柄に手を掛けるゲオルード。
それを見て、幕僚たちは腰に差している剣に手を掛けた。
そんな中でバルドは腕を組み目を瞑りながら溜め息を吐き、カールセンは面白そうな顔で顎を撫でていた。
一種即発かと思われた中で、女性の声が聞こえて来た。
「ゲオルード!」
「っ、ルディアっ」
軍議の間に入って来るなり大声を上げてゲオルード制止させるルディア。
「軍議の最中に、何をしているのっ」
「・・・・・・なんでもねえよ」
「嘘をおっしゃいっ」
「ああ、もううるせえっ」
ゲオルードは怒鳴り声を上げると、そのまま部屋から出て行った。
ゲオルードを見送ると、ルディアはバルド達に頭を下げた。
「すいません。皆さんの指揮にケチつける様な事をして」
「いや、こちらも出来るだけ損害を出さないようにしたのだが、思った以上に出たのでこちらこそ申し訳ないと思っている」
言外に気にするなと言うバルド。そんな大人の対応をするバルドを見て、どうしてゲオルードがあそこまで怒っているのか訳を話した。
「実は、今回攻撃に参加した部隊の中で、ゲオルードが目を掛けている者が居まして、その者が撃墜されたと聞いて怒っているようです」
「ほぅ、そういう訳か」
バルドは理由が分かり納得した。
「これは儂の勘なんじゃが、その目を掛けられていた者は女か?」
カールセンがそう尋ねると、ルディアはコクリと頷いた。
「ほほ、若いのう」
男のゲオルードが目を掛けていた部下が女。
という事は、男女の仲であったという事だろう。
「独立鷲獅子騎兵隊は男女比率が女性の方が多いので、隊員達でもそういう仲になっている者達も多いのです」
「ふふ、まるで大昔の何処かの国にあったなんとか部隊じゃな」
「何ですか。それは?」
「確か、昔夫婦と恋人だけで作られた部隊があったそうじゃ。何でも自分の愛する者を守る為に無類の働きをしたなんとか部隊という話を聞いた事があるんじゃよ」
「はぁ、そうなのですか」
曖昧過ぎてよく分からない説明を聞いてルディアはとりあえず頷いた。
「まぁ、若い内は色々と遊ぶのが一番じゃ。大いに励むがよい」
カールセンがそう言うと、ルディアは何とも言えない顔をしながら一礼して部屋から出て行った。
軍議をしている部屋から出て行ったゲオルードは自分に充てられた部屋に入る。
「ああ、くそっ。むかつくぜっ」
ゲオルードが部屋に入ると、半裸の女性達がベッドに居た。
「隊長~、気持ちは分かるけど、あの子の事は忘れて明日の事を考えましょう」
「そうですよ。隊長。明日の戦で、あの子の仇を取れば、あの子も浮かばれますよ」
「その通りです。隊長」
ゲオルードにそう言いながら、女性達はゲオルードの身体に抱き付き、首筋や頬を舐めたり胸や手に頬ずりをしてきた。
この者達は独立鷲獅子騎兵隊の隊員で、ゲオルードの情婦である。
実は独立鷲獅子騎兵隊の女性隊員の二割はゲオルードの情婦になっていた。
「そうだな。あいつの仇を取れば、あいつもあの世で喜ぶかっ」
情婦達にそう言われて、ゲオルードは気持ちを切り替えた。
そして、目の前にいる情婦の一人の胸を揉んだ。
「あん♥ 隊長の揉み方いやらしい♥」
「いやらしい奴には一番良い揉み方だろう?」
ニヤニヤと笑うゲオルード。
そして、傍に居る情婦の唇に自分の唇を重ねる。




