第395話
「な、なんだとっ⁉」
ムスナンは目の前の光景を見て目を見開いていた。
魔鉄を使った鎧と盾で装備しているのに、その盾と鎧を容易に貫通した敵軍の銃撃を見て、自分の目を疑った。
「第二射、放てえええええっ」
城壁にいる敵軍の隊長が第二射を命じた。
その号令の後、銃声と共に銃口から発射された銃弾は、砦に近付くムスナンの部隊の者達を撃ち殺していく。
「守りを固めつつ、一時後退せよっ」
一瞬だけ現実逃避しかけたムスナンであったが、直ぐに気を取り戻して部隊に指示を出した。
部隊員達も盾で守りを固めながら銃弾の射程外まで後退する。
其処を狙っていたとばかりに、砦の門が開いた。
門が開くと出て来たのは赤い鎧を着た一団であった。
「真紅騎士団だっ⁉」
後退している部隊員がその鎧を見るなり叫んだ。
敵の攻撃を受けて士気が下がっている中で、更に下がる要因が出て来た。
「……突撃っ‼」
真紅の鎧を着た一団の中で、特に豪奢で重鎧を着用し、顔の部分だけ出ている兜を被った男が持っている大斧を振り下ろし突撃の号令を下し、先頭を駆け出した。
部下達もその後に続いた。
「ぬらああああああっ‼」
先頭を駆ける男が大斧を振り回した。
その一撃で盾が吹っ飛び、盾を持っていた者も身体を盾ごと横一文字に切り裂かれた。
「ひいいいいいっ⁈」
殺された者の隣にいた者が悲鳴を上げた。
「我こそは、真紅騎士団十三騎将が一人『鉄壁』のバルドなりっ。この首が欲しくば掛かって来いっ」
名乗り上げるバルド。
その名乗りから少し遅れて、バルドの後ろを掛けていた部下達が第二部隊に攻撃しだした。
たちまち、乱戦となった。
その名乗りを聞いて、バルドに襲い掛かる者が現れた。
「その首、貰ったっ」
その者は剣を構えて、バルドに切り掛かる。
バルドはその攻撃を大斧で弾き返した。
「馬鹿が。あの世で自分の腕の無さを悔めっ」
バルドが大斧を振り下ろして、その者を真っ二つにした。
身体を縦半分にされたその者は、血と内臓を辺りに飛び散らかせながら死んだ。
「進めっ。敵を一人も生きて返すなっ」
バルドが血塗られた大斧を天に翳して号令すると、部下達も『おおおおおおっ』と歓声を上げながら攻勢に出た。
その勢いに押されてなのか、第二部隊は砦周辺から押し出されて行った。
「ええい、敵の数はそれほど多くない。踏ん張らんか、貴様らっ」
ムスナンが顔を真っ赤にしてほぼ逆上状態で剣を振り回しながら部下に命じていた。
それの効果があったのかどうかは分からないが、敵軍の攻勢が少しだけ緩んだ。
「よしっ。予備戦力を出せ。このまま一気に敵部隊を押し返せっ」
ムスナンは敵軍の奇襲に備えていた予備兵力を前線へと向かわせた。
真紅騎士団が砦から出て来たのは予想外であったが、城門は開いている。
ならば、このまま敵軍を押し返して、そのまま城門から突入する事も可能だと予想するムスナン。
そんな事を考えている所に、笛の音が響いた。
「隊長。右から敵軍の飛行兵部隊が攻めて来ますっ」
「動じるなっ。弓兵を出して近づかせるなっ」
飛行兵が攻撃して来たという報告を聞いて、ムスナンは弓兵を右翼に差し向けて、飛行兵に攻撃に備えた。
そのお蔭で、矢の雨の前に飛行兵部隊は近付く事が出来なくなった。
ほくそ笑むムスナン。
だが、左から笛の音が響いた。
「何だ?」
「隊長。大変ですっ。左から土煙が上がっていますっ」
「何だとっ⁉」
部下からの報告を聞いて、左を見ると土煙が上がっていた。
ムスナンは目を凝らしてよく見ると、騎馬の一団がこちらに向かっているのが見えた。
良く良く見て見ると、赤い鎧を着ているのが分かった。
「真紅騎士団の新手かっ」
「隊長。どうなさいますかっ⁉」
「ええいっ、予備兵力もない上に、弓兵は飛行兵部隊に掛かりきりだ。左翼だけで防げっ」
「無茶です。隊長っ」
「五月蠅い。左翼の者達には死んでも守れと伝えろっ」
「は、ははっ」
部下が左翼の所で指揮している分隊長の下に向かう。
ムスナンの命令が左翼の分隊長の元に届いて直ぐに、真紅騎士団の騎兵部隊が左翼とぶつかった。
「わっははは、これがプヨの騎士団か。儂が暫く居ない間に、こんなに脆くなったとはなっ」
騎兵部隊の先頭を掛け、手には大金槌を持って振り回しているカールセンはプヨ軍を蹴散らしていく。
その凄まじい突破力により、左翼は突破された。
左翼を指揮していた分隊長はカールセンに一撃を受けて戦死した。
突破したカールセンの部隊はそのままムスナンの本隊まで攻め込んだ。
「貴様が敵将かっ。このカールセンと勝負しろっ」
「小癪な爺めっ」
ムスナンは剣を抜いて、カールセンの金槌と自分の剣をぶつける。
一合、二合、三合と火花を散らせながら鍔迫り合いをしていたが、カールセンの剛撃を防ぐたびにムスナンの手が痺れる。
十合交わした所で、ムスナンの手から剣が弾け飛んだ。
「しまっ」
「終わりじゃっ」
カールセンはその隙を見逃すことなく、ムスナンの頭に一撃を食らわせた。
振り下ろされた剛撃で、兜と共に頭を凹んだ。ムスナンは血を出しながら、馬上から落ちた。
「敵将。討ち取ったりっ」
カールセンが勝ち名乗りを上げると共に駆けて来た真紅騎士団の者達が歓声を上げ、第二部隊の者達は落胆と絶望に満ちた吐息を放った。
そして、カールセンはムスナンの首を取る事なく、馬で踏み潰してそのまま右翼へと駆け出した。
弓兵部隊の背後を攻撃する為だ。
カールセンの狙い通り、弓兵部隊を背後から攻撃したカールセンの部隊。
その攻撃に合わせて、飛行兵部隊も攻撃しだした。
このままでは、第二部隊は全滅すると思われた所で。
「『帰命したてまつる。あまねき。諸金剛尊よ。梵天よ。焼き尽くせ』」
そんな詠唱が聞こえたと思うと、飛行兵部隊に赤い光線が襲い掛かった。
その光線に飲まれて、飛行兵部隊の隊員達が撃墜していった。
「何だ?」
「敵の攻撃か⁉」
驚く敵軍。
「ふぅ、ギリギリ間に合ったか」
そう安堵の声を漏らしたのは鳥を模した赤い鎧を着ている信康であった。




