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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第393話

 生き残った兵達を纏めたプヨ軍は本陣に戻り、砦に向けて使者を放った。


 内容は死者を回収したいので一時的な停戦の申し出だ。


 死体を野晒しにするのは人情的に抵抗がある上に、疫病の原因になる。いくら冬の季節で死体の腐敗が遅いとは言え、出来るだけ早く回収して適切に処理しなければならなかった。


 敵もそれが分かっているのか使者の申し出を受けた。


 プヨ軍は夜が明けるまでに死体を回収した。




 被害状況を聞くために、軍議を開くプヨ軍。


「報告します。攻城櫓並びに破城槌は完全に壊されており、撤去は難しいと思われます。人的被害ですが、死者二百。負傷者は軽傷と重傷を含めて五百名になります」


「・・・・・・思ったよりも多いな」


 グイルは報告を聞いて、重い息を吐きながら報告に答えた。


 内心では全くの真逆で、思ったよりも少ないなと思ったが決して口には出す様な間抜けはしない。


 もし言ったら不謹慎でもあるし、総大将の器量に係わるからだ。


「ですが。編成し直せば再び攻撃は出来る位の人数は残っています」


 そう言い出したのは、三十代位の男性であった。


 口髭を生やしたあっさりとした顔付き。栗色の短髪。身長も高く鍛えているのか、それなりに筋肉がついた身体をしていた。


 この者の名はモルート・フォン・ロイシュザー。


 第三騎士団副団長をしている。 


 性格は少し捻くれた所はあるが、頭は良い。


「うむ。そうだな・・・編成にはどれくらいかかる?」


「一両日中には」


「そうか。編成を急がせろ」


「はっ」


「さて、皆々方。初戦は負けはしたが、まだ挽回は出来る。なので、策があれば遠慮なく言って欲しい」


 グイルがそう言うと、軍議に参加した者達は皆、口を開かなかった。


 今の状況では砦攻略は難しいと分かっているからだ。


 攻める事が出来る所は北側のみ。その上、敵兵は銃を所持。更には砦攻略に掛かっていると、横からカロキヤ軍の飛行兵部隊が攻撃を仕掛けてくる上に、先の戦いで壊れた攻城兵器の残骸で進むのが困難になり、攻城戦をするのも難しくなったという現状だ。


 如何なる名将でもこれほど難しい戦場ではお手上げだろう。


 それが分かっていないのか、グイルは苛立った声を出す。


「ええい、誰でも良いから、何か良い策はないのかっ⁉」


 声を荒げても、皆は何も言わない。


 その後、誰も良い意見を言わず、時間だけがダラダラと過ぎて行った。


 


 このまま続けても意味が無いと分かったのか、モルートが「今日は此処までにして、後日改めて軍議を行いましょう」と告げて、軍議は解散となった。


 傭兵隊のヘルムートは副隊長のリカルドは傭兵隊の陣に戻った。


 ヘルムート達が戻って来るのを見た見張りの者達は一礼した。


「お疲れ様です。隊長」


「軍議の方はどうでした?」


「ああ、うん。時間だけが過ぎて行ったと言った所だな」


 苦々しい顔をするヘルムート。


 同じ思いなのか、リカルドも同じような顔をした。


「そうですかい」


「他の部隊長達はどうした?」


「皆、自分のテントに居ると思います」


「そうか。済まないが引き続き、見張りを頼む」


 ヘルムートは見張りに敬礼し、自分のテントに戻った。


「では、自分はこれで」


「ああ、そうだ。リカルド。済まないが、部隊長達に明日の早朝に軍議を行うと伝えておいてくれ」


「分かりました」


 リカルドは敬礼して、その場を離れた。


 ヘルムートは自分のテントに入ると、そのまま眠りについた。




 翌日。




 信康達は早朝から、作戦会議用のテントに集まった。


「ふわっ・・・・・・隊長。こんなに朝早くから集めて、何をするんだ?」


「多分、昨日の軍議の事を話す為に集めたんだと思うよ」


 欠伸交じりでバーンが喋ると、リカルドがバーンの疑問に答える。


「そうかい。でもよ。俺達に話しても何の意味があるんだ?」


 バーン達の話を聞いて、話に混じるロイド。


「そうだな。所詮、俺達は部隊長だ。俺達の意見を聞いて、軍議に上げるとかするのか?」


 カインも話に加わった。


「無理だな。今回の総大将は、騎士以上の身分じゃないと話は聞く事はないだろうな」


 信康はグイルの顔と会った時の言動を思い出して、皆に話す。


「知り合いなの?」


 ライナは気になったのか訊ねる。


「向こうは知らないだろうがな」


 信康は隠す事はないので言う。


「騎士団長とも知り合いとは、顔が広いのですね」


 サンドラは感心していた。


「ノブヤスだからね、どうせ、女を誑し込んでそのコネで知り合ったんでしょう」


「ノブヤス。気を付けないとその内、本当に刺されるわよ」


 ティファはどうせこんな所だろうと言い、ヒルダは心配そうに忠告した。


「そういう訳ではないのだけどな。それとヒルダ。そんな心配は無いから大丈夫だ。多分」


 あながち、外れてはいないかと思いつつ信康は答えた。


 そう話していると、ヘルムートがやって来た。


「待たせたか?」


「いえ、そんなに待っていません」


 リカルドがそう言うと、皆、立ち上がる。


 ヘルムートが上座に座ると皆座った。


「お前等に集まって貰ったのは他でもない。昨日の事で報告を」


「伝令っ」


 ヘルムートが話をしようとしたら、伝令がやって来た。


「何事だ?」


「はっ。本陣より伝令です。持ち場から勝手に離れた者達が砦を攻撃しているが、皆加わる事はするなとの御達しです」


「持ち場を離れた?何処の部隊だ?」


「第三騎士団の第二部隊です」


「はぁ、部下の手綱ぐらいしっかりと握っていろよ。了解したと総大将に伝えろ」


「はっ」


 伝令がその場を去って行ったのを見て、ヘルムートは今一度溜息を付く。そして、リカルドが青ざめた表情をしている事に気付かずに話を続けようとした。


「で、話の続きなんだが」


「隊長っ」


「どうした?リカルド」


「僕の部隊も砦攻撃に参加しても良いですかっ!?」


「なに?」


 リカルドの一言に、その場は驚きに満ちていた。

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