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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第392話

 砦の城壁の上に居る敵兵が構えた筒から放たれた物が、攻城櫓の下で櫓を牽引している者達に当たる。


「ぎゃあっ」


「ぶふっ!」


「ぐはっ」


 牽引している者達は鎧を着用していたが、その鎧を容易く貫き殺傷した。


「ヒヒ~ンッ‼」


 人が倒れた事で櫓を牽引していた馬達が暴れ出した。


 暴れる馬により、怪我人が続出。何とか馬を宥めようと、生き残った者達が馬を宥め出した。


 混乱している所に、城壁の兵達が樽を持って来た。


「投下しろ」


 隊長の命令で、敵兵が樽を下に投げた。


 投げられた樽は櫓や地面に当たり、樽の中身を辺りにぶちまけた。


「何だ、こりゃあ⁉」


「すんすん・・・・・・これは酒か?」


「何で、こんな所で酒なんか投げるんだ?」


 味方が困惑していると、城壁に居る兵達が矢を番えた。


 その矢は燃えていた。


「放てえええっ」


 隊長の号令の下に火矢が放たれた。


 狙いは定めてないのか、適当であった。


 櫓に当たるのもあれば、地面に当たるのもあった。


 運悪くその矢に当たり火が自分の身体に移った者も居た。


 だが、恐ろしいのはそれからであった。


 突然、辺り一面が燃え始めた。


「「「ギャアアアアアアアアアアアアアッッ‼⁉」」」


 自分の身体にも火が付き、消そうにも地面は燃えているので、転がって消す事も出来ない。


 その場に居た殆どの者達が、火達磨になっていた。


「逃げろっ、こんな所にいたら丸焦げになっちまうっ」


「こんな所で死にたくねえっ」


「あちいい、あちいいよっ」


 逃げる際中力尽きて丸焦げになる者も居たが、それなりの人数の者達が燃えている場所から逃げる事に成功した。


 だが、城壁から突入しようと櫓の中で待っていた者達は違った。


 櫓は燃えているので、その熱で中は蒸し焼き状態になっていた。


「あちいいいいいっ。だれか、だれかたすけてくれっ」


「叫んでないで早く下に行けっ」


「こんな所にいたら燻製になっちまうっ」


 櫓に居た者達は下に行く。だが、櫓の中に居る者達は他の者を押し退けて我先へと進む。


 それにより、何人かが倒れて踏み潰されて死んでしまった。


 入り口につき、扉を蹴破ると、其処は燃えた大地であった。


 流石にそんな所を進むのには躊躇していたが、櫓に居る者が叫んだ。


「どうせ、此処に居れば焼け死ぬんだ。だったら、少しでも生存できる方を選ぶぞっ」


 と叫んで火の中に跳び込んだ。それを見て、他の者達も続いた。


 だが、燃えている大地の歩くのだ。櫓の中に居た殆どの者達は焼け死んだ。


 更に不幸は続いた。燃えている櫓が後ろに倒れて、櫓の後ろに居た破城槌に当たる。


 こちらの方は人的被害は出なかったが、破城槌の方は使い物にならなくなった。


「ええい、これでは何も出来ないではないかっ」


 堀近くで待機していた第一部隊隊長のカルノーは逃げてくる味方を収容しながら、何とか消火作業をしようと近付こうとしたが、逃げて来る味方と火の勢いが邪魔をして思うように進めなかった。


 このままでは、敵の思う壺だと思いながら歯痒く思うカルノー。


 其処に笛の音がなった。


「これは、我が軍の笛の音では無いぞ?」


 何処から聞こえてくると思いつつ、周囲を見ていると、左右からグリフォンに乗った飛行兵部隊がカルノー隊に迫って来た。


 カルノーの部隊に迫っている部隊はどうやら独立鷲獅子騎兵隊のようだ。


 右の部隊はゲオルードが。左の部隊はルディアが率いていた。


「「掛かれええええええっ」」


 両隊長の号令で隊員達は第一部隊に攻め込んだ。


「なぁっ⁉飛行兵部隊か?」


「隊長。挟まれましたっ」


「見れば分かるっ。全隊、本陣まで後退するっ」


「それでは逃げてくる味方が見殺しになりますっ」


「我が隊も全滅したいのか?生き残りたければ指示に従えっ」


「・・・・・・御意」


 カルノーの傍に居た副官が言いたい言葉を飲み込んでカルノーの命令に従った。


 第一部隊は防備を固めながら本陣まで後退した。


 逃げて来る味方を見殺しにして。


「本陣に行く部隊は放っておけっ。今は俺達に背を見せて逃げる負け犬を殺せっ」


「一人も逃がすな。皆殺しにしろっ」


 ゲオルード達は目標を変更して火計から逃げて来た敵兵を討ち取る事にした。


 火から逃げれたと思った所に、飛行兵部隊の襲撃を受けるプヨ軍。


 抗戦しようにも、対空装備をしていないので、皆あっさりと討ち取られて行く。


「ぐぎゃああああっ」


「たすけ、たすけ、ぐああああっ」


「いやだ、いやだ、しにたくないしにたくないっ・・・ぐううううっ」


 悲鳴を上げながら逃げ戸惑うプヨ軍。


「はっはは、弱すぎるぜっ」


「プヨ軍はこんなに弱いのかっ」


「はっはは、情けねえなっ」


 独立鷲獅子騎兵隊の隊員達は逃げるプヨ軍を笑いながら殺して行った。


 彼らにとってもはや、この戦いは戦争ではなく狩りの様なものなのだろう。


 それでも、何とか踏ん張って奮戦するプヨ軍の者達も居た。


 第一部隊が本陣まで後退すると、まだ前線で交戦している味方を兵を救おうと、グイルが第一部隊から第三部隊を前線に向かわせた。


 多数の部隊が向かって来るのを見て、独立鷲獅子騎兵隊は攻撃を止めて砦へと戻って行った。


 部隊が前線に着き、生き残っている者達を数えると、百人ほどしかいなかった。

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