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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第390話

 信康が部隊の準備を終えて襲撃を受けた所に着いた頃には、ティファとライナの部隊でカロキヤ軍の飛行兵部隊と一戦している所であった。


「何とか間に合ったか」


「隊長。俺達も迎撃に加わりますね」


 トッドが持っている連弩を構えながら訊ねる。


「いや、ここでは撃つな」


「何でですか?」


「此処で撃つと味方にも被害が及ぶ。俺達は敵部隊の側面まで移動して、其処から俺の合図と共に放て」


「分かりました」


 信康達は移動を開始した。


 信康達が移動している間も、両部隊の交戦は続いていた。


「ああ、くそっ。面倒くせえ。おい、まだ敵陣は突破出来ないのかっ」


 上空で静止しているゲオルートは自分の部隊が敵軍の槍衾に苦戦している様子を見てイラついていた。


「それが敵陣を突破しようとしたら、魔法と矢の攻撃が来るので躱すのが精一杯です。それに徐々にですが、敵軍の指揮系統が回復して、散発的ですが反撃をしています」


「おいおい。もう指揮を出来るぐらいに回復したのかよ。ああ、これだったら、もっと痛めつけておくんだったな」


 隣にいる副官の報告を聞いて、ゲオルートは頭を掻いた。


 これからどうするかと考えていると、一騎近付いてきた。


「伝令!ルディア副隊長から言付けです。『戦果は十分、そろそろ帰還しろ』との事です」


「ああん? まだ敵に大打撃を与えてないのに、帰還しろだとっ。そんな事が出来るかっ」


「しかし、そろそろ帰還しませんと、帰り道で兵達と鷲獅子(グリフォン)達も疲労で最悪、墜落する者が出て来るかもしれません」


 幾ら空を飛べる鷲獅子(グリフォン)とは言え、生き物である以上は疲労はする。


 この要塞から自分達の拠点までそれなりに距離がある。


 そろそろ切り上げないと、帰還している最中に墜落死するという馬鹿げた事になる可能性があると伝令が告げる。


「ぬううぅぅ、仕方がないか。引き上げの合図を」


 ゲオルードが言い換えている最中に。


「放てえええええっ」


 大声と共に大量の矢が飛んで来た。


 隙間ない矢の雨に、ゲオルードと副官と周りに居る達は何処かを矢で掠めながらも避けれたが、何人かは避ける事が出来ず、もろに受けて全身が針鼠の様に矢が刺さる。乗っている鷲獅子(グリフォン)も同様で、地面に墜落する。


「ちいぃぃ、よくもやりやがったなっ」


 ゲオルードは部下が墜落していくのを見て憤慨して、今矢を放った部隊に突撃をした。


「隊長っ⁉」


 上官がいきなり突撃したので、置いてけぼりをくらう部下達。


 呆然と自分を見送る部下達を尻目に、突撃するゲオルード。


「一騎、来ますっ」


「矢を放て。敵を近付かせるなっ」


 トッドが連弩を構えて矢を放った。


「しゃらくせえっ」


 ゲオルードは飛んでくる矢を槍で打ち払ったり、避けたりしてグングンと近付く。


 その近付いて来るゲオルードに向かって、信康は矢を番える。


 ギチギチっと音を立てて弓弦が引き絞られる。


 信康は狙いを定めていると、ゲオルードは矢を番えている信康を見て、槍を構えて突撃する。


 後少しという所で、槍の穂先が信康に届くという所で、信康は矢を放った。


 狙い違わず、矢はゲオルードが乗っている鷲獅子(グリフォン)に当たった。


「Gyuuuuuuuuuuuuuuuuu‼」


 矢はグリフォンの喉に当たり、グリフォンは悲鳴と共に地面に落下した。


 ズサササササ‼


 グリフォンが落下して、地面から土煙を上げた。


 幸いなのか、それともグリフォンが乗り手を助けたのか、乗っていたゲオルードは地面につくなり転がって衝撃を和らげた。


 少しして、立ち上がるとそのままグリフォンの傍に駆け寄るゲオルード。


「お、おおおっ、メッサ―!起きろ!メッサ―っ!」


 ゲオルードは目を開けたまま動かないグリフォンを揺らすが、メッサ―と呼ばれたグリフォンは動こうとしない。


 幾ら揺すっても起きないメッサ―を見て、ゲオルードは膝をついて泣き出した。


「お、おおおおおおおぉぉぉぉぉ‼めっさーがおれのめっさーがしんじまったっ⁉ちくしょう、ちくしょうううううっっっ‼」


 此処は戦場だというのに、膝をついて大泣きするゲオルード。


 信康達も攻撃して良いか迷った。


 一頻り泣くと、まだ涙で濡れる顔を袖で拭い信康を睨む。


「てめえ、よくも俺のメッサ―をっ」


「・・・・・・そんなに大切なら戦場に連れて来るなよ」


 信康が肩を竦めながら言うと、その態度を見て更に熱り立つゲオルード。


「許さねえっ。てめえは、俺が今、ぶっ殺すっ」


 ゲオルードは持っている槍を構え、穂先を信康に向ける。


「そうかい。出来るのなら、やってみろ」


 信康がそう言うと、トッドが前に出ようとしたが、信康が手で制した。


「隊長⁉」


「いい。それに、俺の相手をする(・・・・・・・)暇など無い(・・・・・)


 信康の言葉に、ゲオルードはどういう意味だと聞こうとしたら。


「敵兵が居るぞっ」


「殺せ殺せっ」


「味方の仇だっ」


 ゲオルードに第三騎士団の騎士達が殺到した。


 剣や槍、果ては棒を持ってゲオルードに襲い掛かって行く。


「っちいぃ、退け、手前らっ」


 ゲオルードが槍を振るって騎士を倒しても、倒しても次から次へと襲い掛かって来る。


 その間に、信康は後退していた。


「良いんですか? あいつ、それなりに偉い役職に就いていると思いますよ」


「第三騎士団にも手柄をやらないとな。俺達はテイファ達の隊を援護するぞ」


「はっ」


 信康達はテイファの隊を援護しに向かった。


「てめっ、待ちやがれっ」


 ゲオルードが呼び止めても、信康は足を止めずそのままティファ達の下に向かう。


「くそがっ‼ 掛かって来い根性なしっ」


 悪態をついたが信康は耳にも留めなかった。


 そうしている間も騎士達はゲオルードを攻撃する。


 このままでは、やられると思われたが。


 ドカン‼ ドカン‼


 爆撃音が響き、地面に土煙が上がった。


「何をしているのっ。ゲオっ!」


 上空から女性の声が聞こえた。


 整った顔立ち。切れ長の目。砂色の瞳。


 平均的な身長で、形の良い乳房。括れた腰。キュッと引き締まった尻。


 頭にはグリフォンの羽で出来たサークレット状の兜を被り、鎧は白いビキニアーマーを着用していた。


「ルディア。助かったぜっ」


 ゲオルードにルディアと呼ばれた女性はルディア・ウラジミルヴァクという独立鷲獅子騎兵隊の副隊長だ。


「相棒のメッサ―はどうしたの?」


「・・・・・・殺られたっ」


 口に出すのも嫌だと言いたげであったゲオルード。


 それを聞いて、ルディアは一瞬だけ辛そうな顔をした。


「仕方がないわね。後ろに乗りなさい。撤退するわよ」


「待てっ、俺はまだメッサ―の仇は取ってねぇ!」


「これ以上此処に居ても無駄死によ。あんたの意地で部隊全員を巻き込むはやめてくれるっ」


「・・・・・・分かった」


 ゲオルードは悔しそうな顔をしながら、ルディアのグリフォンに乗り込む。


「総員、撤退しろっ」


 ルディアが号令を下すと、まだ戦闘中だった独立鷲獅子騎兵隊の隊員達は戦闘を止めて、上空へと舞い上がった。


 ルディア達も上空へと舞い上がる。


 途中、信康を見つけたゲオルード。


「あいつっ」


 ゲオルードは持っている槍を信康に投げた。


 投げられた槍は鞘から抜かれた刀で叩き落とされた。


「其処のお前、顔を覚えたからなっ。俺はゲオルード・ワイベルグガだっ。次会ったら、必ず殺すっ」


 信康は返事をせず黙って、ゲオルードを見送った。


 ゲオルード達は急上昇させる。


 疾風のように現れて、暴風の様に暴れ回ったゲオルード達要塞から離れて行った。


 ゲオルード達が要塞から離れて行くのを見送ると、要塞内の者達が歓声を上げた。


 何とかであるが、敵を撃退したからだ。


 その後は被害状況の纏めた。


 死傷者は百名ほどであったが、殆どが第三騎士団の者達であった。


 そして、第三騎士団を編成し直して再び出撃準備を整えた。




 ゲオルード率いる「独立鷲獅子騎兵隊」の襲撃があった数日後。


 プヨ歴V二十七年十二月五日。




 ようやく出撃準備が整い、プヨ軍は進軍のラッパを鳴らして要塞から出撃した。 

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