第389話
ヘルムートの命令を受けた翌日。
信康達は出兵の準備を続けていた。
二千の軍勢の準備だ。それなりに時間が掛かる。
その準備の仕方次第で、自分達の生死に係わるとなれば一層念には念を入れるだろう。
「兵糧はどれくらい運ぶ予定だ?」
「今回は長期戦になる事を想定して、約三ヶ月ほど持って行くつもりです」
「もう少し持って行けないか?」
「これ以上ですか。ちょっと、補給関係者と相談しないと分かりません」
「そうか。う~ん」
信康も持って行く物を確認して、副官のルノワと確認していると。
カン! カン! カン! カン!
突然、鉦の音が響いた。
「何だ?!」
信康は何事だと思い、周囲を見た。
すると、ティファとライナが慌ててやって来た。
「ノブヤスっ」
「おお、ティファにライナ。何かあったのか?」
「敵襲よっ」
ティファが息を整えながら教えてくれた。
「敵襲だと!」
「どうやら、カロキヤ軍の飛行兵部隊が殴り込みに来たようよっ」
「ほぅ、この要塞に飛行兵だけで殴り込むとは、大したタマだな」
信康は感心していた。
「感心している場合じゃないわ。こちらも迎撃するわよ」
「了解。ルノワ」
「はい。ノブヤス様」
「ちょっと、トッド隊を連れて来てくれ。後、近くにある倉庫から、一番強い弓を持って来い」
「分かりました」
ルノワがその場を離れると、ティファ達を見る。
「ライナ隊は迎撃準備が出来たら迎撃。ティファ隊はライナ隊の援護をしてくれ。俺の隊も準備が出来たら、迎撃に加わる」
「分かったわ」
「飛行兵だけで殴り込みを掛けてくるんだから、それ相応の出迎えをしないとね」
二人は自分の隊へと戻って行った。
信康達が迎撃の準備をしている頃。
要塞内にある第三騎士団が使用している一画では。
「うわあああああぁぁぁぁ⁉」
襲い掛かるグリフォンに騎乗した兵士の攻撃を受けて、騎士の一人が倒れた。
安全だと思っていた要塞内で突然の襲撃を受けて右往左往する第三騎士団の騎士達。
そんな騎士達を騎乗しているグリフォンから見下ろしながら哄笑する者が居た。
「あっはははは、弱い!弱い!これがプヨ軍の騎士か?話にならねえなっ。こんな奴ら、あんな傭兵団じゃなくて、俺達『独立鷲獅子騎兵隊』だけで十分じゃねえかっ!」
皆、グリフォンに騎乗している中で、一際大きいグリフォンに騎乗している者が大声を出した。
その者は男性で、まだ十代後半と言える年齢だ。
吊り上がった目。端正な顔立ち。茶色の短髪。
細身だが鍛えられた身体の上には、動きやすいように軽装の鎧を着用していた。
手には血塗られた槍を持っていた。
この者の名はゲオル―ド・ワイベルグガ。
今、プヨ軍を襲っている『独立鷲獅子騎兵隊』の隊長だ。
「隊長。このまま、敵を全滅させますか?」
ゲオルードに話しかける隊員は襲撃は思いの他上手くいったので、気分が高揚しているのか興奮していた。
「ふはっ、それも悪くねえな。だったら、先に騎士団長を討ち取らねえとなっ。探せ!」
「了解っ」
ゲオルードは騎士団長を探せと命じた。隊員達は目についた騎士達を得物で倒しながら、騎士団長を探し出した。
思うがままに蹂躙を楽しむカロキア軍。右往左往して軍の体を成さないプヨ軍。
このままでは砦攻略する前に、壊滅するのではと思われたが。
「攻撃開始っ」
上空を飛び回る独立鷲獅子騎兵隊に攻撃を仕掛けたのはライナ隊であった。
魔法と弓矢が放たれた。
「へっ、そんな攻撃に当たるかよっ」
飛んで来た攻撃をいとも容易く躱す独立鷲獅子騎兵隊。
攻撃を躱し、反撃しようと近付くが。
「近寄らせるなっ」
ティファの号令で、ティファの隊が槍衾を作り、容易に近づけないようにした。
「っち、予定変更。あの生きが良い奴らを先に潰すぞっ」
「「「了解!」」」
ゲオルードがそう命じると、独立鷲獅子騎兵隊の隊員達はライナ達に襲い掛かった。




