第387話
フェリア達と合流した信康達は『フェルミ要塞』へと向かった。
一行は問題なく道を進む事が出来た。
だが、流石に千人にも及ぶ集団なので歩みは遅い。
信康達が昼前に出たのに、要塞に帰って来ると夜になっていた。
見張りの兵士に門を開けて貰い、信康達は要塞へと入る。
信康は馬から降りると、出迎えに来てくれたのか、ヘルムートがやって来た。
「隊長。信康・フォン・レヴァシュティン。只今任務を終えて帰還しました」
「おう、ご苦労さん」
敬礼する信康に、ヘルムートは敬礼しながら軽く答える。
「それで、今回の援軍の将は誰だ?」
「副団長のフェリア殿らしい」
「そうか。分かった」
信康から今回の援軍の将の名前を聞いたヘルムートは第四騎士団の所に向かった。
「ふぅ、隊長も大変だな。使い走りされるなんて」
傭兵部隊の隊長がする事ではないが、何となくだが今回の遠征軍の大将の第三騎士団団長に命じられてしていると思った。
(見た感じ、粘着質で嫌味を延々と言いそうな顔だったからな)
前にレズリーの幼馴染のアリーナの両親が出席するパーティーに参加する機会があり、そのパーティーの主催者であったので顔を見る機会があり、どんな顔を覚えていた。
(そう言えば、あの後アメリアの親父さんが乱入して来たな。あの親父さん、元気にしているかな?)
酔っ払ってパーティーに乱入して、一騒動を起こした。その後で少しだけ話したが、悪い男ではないと思った信康。
そう思っていると、また門が開いた。
どうやら、第五騎士団から送られてきた援軍が着いたようだ。
道案内であるリカルドの隊が先に入って行くのが見えたので、恐らくそうだろう。
先頭にいるリカルドが信康に気付いたので、馬から降りて、馬の手綱を部下に預けて、信康の下に向かう。
「お疲れ様、ノブヤス」
「そっちもな」
互いを労う二人。
「リカルド」
「何だい?」
「今回の第五騎士団の将は誰だ?」
少し気になり訊ねる信康。
オストルなのか、それともローランドなのか気になり訊ねる。
「ああ、今回の将はオリヴィエ副団長とプラダマンテという人だよ」
「そうか。・・・・・・」
信康は援軍の将の名前を聞いてホッとした。
正直に言って、あの女男と、突然服を脱いで筋肉を見せびらかす変態男が援軍だったら、気が滅入っていただろうなと思っていたようだ。
「プラダマンテは一度会った事があるが、そのオリヴィエというのは何処に居るんだ?」
変人揃いの第五騎士団の副団長なので、どんな顔なのか見たくなり、信康は周りを見る。
「ああ、あの人だよ」
リカルドが手で示した。
その先には、貴公子然とした優男がいた。
外ハネした金髪。切れ長の目元。紅色の瞳。見目麗しい顔立ち。
身長は信康とそう変わらない様だ。
白く輝く鎧。その上に裏地が赤で襟にファーが白いコートを羽織っていた。
「ううむ。何か、凄い良い男って感じだな」
「分かる分かる。あれだけ見目が良かったらそれだけしか言えないね」
信康がオリヴィエを見て思った事を呟くと、リカルドも同意とばかりに頷いた。
隣にいるプラダマンテも綺麗なので、まるで美男美女のカップルの様であった。
「これで援軍は全て集結したな。後は、軍議でどうするか決めるだけか」
「だね。砦を攻めるのか、それとも都市を攻めるのか」
どんな戦をするのか気になり、リカルドはソワソワしていた。
(今回の戦は第三騎士団が主体になったからな。恐らく、第三騎士団を主攻にするのだろう 。他の軍団は包囲する為の兵力と考えているだろうに違いない。問題は砦は北側しか攻める事しか出来ないという事だが、さて、どうするのやら)
信康がそう考えていると、突然、信康の前に馬が顔を寄せて来た。
「おっと」
信康が考え事をしている時に、馬の顔を見て驚く。
「ああ、済まない。驚かせたようだ」
その声は馬の横から聞こえて来た。
誰だと思い、信康は首を動かして、馬の横に居る人物を見る。
其処には先程話に出たオリヴィエが居た。
「これはオリヴィエ副団長閣下」
信康は敬礼する。
そんな信康を見て、オリヴィエは笑みを浮かべながら手を横に振る。
「ああ、そんなに畏まらないで良いよ。黒髪に黄色い肌。君がノブヤス・フォン・レヴァシュティンで良いのかな?」
「はい。その通りです」
「そうか」
オリヴィエは信康をジッと見る。
「ふぅむ。成程・・・・・」
「あの?」
「ああ、失礼した。君の事は、ローランドとオストルから聞いていてね。どんな人物なのか気になっていたんだ」
「そうでしたか」
第五騎士団から来たので、ローランド達と知り合いなのは別に不思議ではない。
「ローランドが君達をいたく買っていてね。騎士団に勧誘したいと言っていたよ」
「君達?」
「君と其処に居るリカルドの事だ」
「えっ⁈自分もですか?」
オリヴィエの口から、自分の名前が出るとは思わなかったからか驚くリカルド。
「ジョストメントの試合を見て、優れた技量を持っていると言っていたよ。それに良い筋肉をしていたとも」
「そ、それは、その光栄です」
後半の誉め言葉がどういう意味なのか分からず、顔を引攣らせるリカルド。
「ああ、ローランドなりの褒め言葉だから。あまり深く考えないでくれ。あれでも、ちゃんとした婚約者が居るから」
オリヴィエが苦笑しながらそう言う。
(あんな変な性格でも、婚約者が居るのか)
信康は不思議な事だなと思った。




