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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第384話

 プヨ歴V二十七年十月十日。



 プヨ王国王都アンシ。



 王都アンシの中心部にあるプヨ王宮。


 王宮内にある中庭にて、閲兵式が行われていた。


 中庭を見下ろす位置にあるバルコニーには、プヨ国王であるヴォノス王。第一王女プリシラに、第二王女ギネヴィーナ。リョモン帝国から帰国したばかりの第三王女ユーフォリアと、第四王女アリスフィールが出席していた。


 今回は病弱で珍しい第二王女ギネヴィーナも出席している事に、誰もが驚いていた。


 宮臣達はギネヴィーナ王女のを顔を一目見ようとしたが、顔をヴェールで覆っているので顔が見えない様になっているので全員揃って不満そうな顔をしていた。


 顔をヴェールで覆っているので、それを口実に好き勝手な事を言っていた。


 やれ、顔に出来物があるとか、病弱な顔を見せないようにしているとか色々な事を話していた。


 古くから王宮に仕えている一部の臣下達は、ギネヴィーナが顔をヴェールで覆っている理由を知っているので、ギネヴィーナの姿を見るなり人知れず涙を零していた。


 そしてギネヴィーナと共に話に出ているのが、第三王女のユーフォリアだ。


 腰まで伸ばした金髪。女性にしては平均的よりも、やや高い身長。御洒落も兼ねているのか、右目に銀で縁取られた片眼鏡を着けていた。


 凛とした美貌。アーモンドの形をした目。水色の瞳。


 少し寂しい胸。腰から尻のラインはキュッと締まっていた。


 良く言えばスレンダー、悪く言えば発育が恵まれなかった身体と言えた。


 ヴォノス王の娘達四人中で、一番胸が小さいと言えた。


 宮臣達が王女達を見ている間も、式は続いていた。


 その時式は今回の出兵で総大将を担当する第三騎士団団長のグイルが、中庭にて第一騎士団団長グレゴートから総大将の証である宝剣プレシャスを受け取っている所であった。


 パリストーレ平原の会戦で大醜態を晒した父親のロゴスが刑死となりプヨ五大貴族に次ぐ名門貴族の筆頭分家の地位も剥奪された苦境に陥ったが、本家であるドルシスファン侯爵家の支援もあって如何にか第三騎士団の団長に就く事が出来たと専らの噂だ。


 その噂は事実でありドルシスファン侯爵家はこれで一門としての義理は果たしたと感じたのか、グイルが団長になった翌日には本家から使者が来て『これで同じ一族としての義理は果たした。今後の支援など当てにするな』と伝えて来た。


 それはつまりこの後グイルがどれだけ助力を乞おうとも、ドルシスファン侯爵家は支援など一切しないと絶縁宣言に等しい事を言ってきたのだ。


(見ていろよっ。この戦で功績を立てて、いずれは本家を凌ぐ権力を手に入れてみせるっ!)


 ドルシスファン侯爵家の言い分に憤慨し、そう勢い込むグイル。


 グレゴートからプレシャスを受け取ったグイルは、直ぐにプレシャスを抜剣した。


 少し引き抜くのに時間が掛かったが、その抜いたプレシャスを天に掲げた。


「敵に奪われた我等が領地を取り返す為に、出陣!!」


 グイルが出陣の号令を出すと、プヨ王国軍二個軍団六万が出陣した。


 今回は第三騎士団が主力と言う事で、第三騎士団が最初に列を作り進んだ。その数は一個軍団三万。パリストーレ平原の会戦で壊滅後、再編成と募兵を続けて得た全兵力である。


 第三騎士団の最後尾が中庭を抜けると、今度は鋼鉄槍兵団一万がその後に続いた。


 パリストーレ平原の会戦で打撃を受けた鋼鉄槍兵団であったが、無事に再編成を終えていた。そして今回もお目付け役と言う事で、アルディラが副将を担当する事となっている。


 その次に第四騎士団が、プヨ王国東部の駐屯地から派遣した一個連隊五千。


 その第四騎士団に続けて第五騎士団が、プヨ王国西部の駐屯地から派遣した二個大隊二千。カロキヤ公国の同盟国であるトプシチェ王国の警戒の為、この兵力の派遣が精一杯であった。


 次に神官戦士団が行進を始めた。今回の神官戦士団の編成は夜と闇の神エレボニアン教団の漆黒戦士団四個大隊四千と、空と風の神ウラモイトールン教団の神風戦士団四個大隊四千の合計二個連隊八千。


 そしてその神官戦士団の後ろには、傭兵部隊一個連隊五千が続いた。


 その傭兵部隊の中の一つで、信康の第二中隊があった。


 信康は馬上から振り返り、バルコニーを見る。


 すると、其処にはギネヴィーナとアリスフィールが居た。


 二人は信康を見るなり、小さく手を振った。 


 信康は手は振らない代わりに、胸を叩いて一礼した。


 そして第二中隊の所に戻った。


(さて、今度の戦はどんな結果になるのやら)


 そう思いながら、信康は愛騎を進ませた。

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