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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第37話

「う~ん、この大味で安っぽいチープな味がなんともたまらないわ!」


 少女は信康が買ってきた氷菓子を食べながら、味の批評をしていた。


 信康はその批評を聞きながら、氷菓子を食べる。


(大味で安っぽいチープな味ねぇ。平民は氷菓子(アイスクリーム)を食べたら、感動こそすれそんな事言う訳無いだろうに・・・・・・隠す気はあるのか?)


 どうやらこの美少女の実家は氷菓子よりも美味しい甘味を、普段から食べる事が出来る名家なのだと予想した。


 だとしたら、余程の大貴族だろう。


 この氷菓子はこうして屋台で売られているが、菓子としては高価な部類だ。


 信康も初めて氷菓子を見て、その値段を見た時は思わず納得してしまった程だ。


 その国では果物が銅貨三~五枚くらいだが、氷菓子は銀貨三枚だった。これでも安い方であり、もっと高値のする場合の方が多く基本的に大銀貨が必要になる。熱帯気候の国々ならば、金貨を払わなければならない場合も少なくなかった。


 因みに、この氷菓子は銀貨一枚と安い方だ。如何にプヨ王国では氷菓子が安く販売されているかが、分かると言うものだ。


(俺が氷菓子を初めて見て食べた時は、こんな物がこの世にあるのかと驚いたものだがな)


 信康は今でも、氷菓子の味には美味しいとしか思わない。しかしこの美少女にとっては、平民の憧れの食べ物である氷菓子など大味で安っぽい味だと言う。


 普段の生活ではどんな物を食べているのか気になるが、其処は聞かない方が良いと思い沈黙する信康。


 そもそも聞いた所で、教えてくれるとは思わないからだ。


 少女は氷菓子を食べ終えると、少女は懐からハンカチを出して口を拭う。


「ごちそうさま」


 少女は信康に一礼する。一応、買ってくれた事に感謝しているようだ。


 信康は何も言わず、氷菓子を最後まで食べた。


「どう致しまして。それで、次はどうしたい?」


 氷菓子を食べただけで満足するとは思えないので、信康は美少女に何がしたいか訊ねた。


「そうね・・・何処か面白い場所に案内してくれないかしら?」


 口調こそお願いしている様であったが、暗に何処かへ自分を連れて行けと言っている様に聞こえる。


 信康も別に暇と言う訳でも無いのだが、最初にトコトン付き合う事に決めていたので承諾する事にした。


「良いぜ。何処に行きたい?」


 信康は王都アンシの地理は頭の中に入ってはいるが、行った事が無い所が多い。


 この際その探索も兼ねて、此処はこの美少女に選ばせた。


「えっ、本当に? 貴方、紳士ね。紳士はモテるわよ」


 別にモテたくて、こんな事をしている訳では無い。暇だから、この美少女に付き合ってるだけだ。


 信康はそう思っているが、そんな気持ちを一切顔に出さない。


「そうねぇ・・・・・・・・私、馬に乗りたいわ!」


「馬ね。何処かに馬を乗せる事が出来る場所は・・・・・・・ああ、そう言えばジーンの家族が運営している牧場があったな」


 確か東区のカンナ地区に、信康はジーンの家族が運営している牧場があった事を思い出した。


 牧場に行けば、馬に乗る事が出来るだろうと思い、美少女に話した。


「牧場か、良いわね。其処に行きましょうっ!」


 美少女はそう言って、先に進んで行った。


 信康が付いてこない事に気付くと、足を止め振り返る。


「ちょっと、どうして足を止めているのよ。早く行くわよっ?」


「へいへい」


 信康は肩を竦めながら、歩き出した。




 ****************




 駅馬車に乗って、カンナ地区に向かう二人。


 少女は駅馬車に乗るのも初めてなのか、馬車に揺られながらキャッキャッと五月蠅かった。


 他に乗っている客に迷惑になると思い、信康は「お嬢様、その様に騒がれては他の方々に御迷惑が掛かります」と言って拳骨を美少女の頭に落とした。


 信康の言動のギャップに、周囲の客達はギョッとした表情を浮かべた。


 落とした直後は痛がっていたが、直ぐに「何するのよ! 私に手を挙げるなんて、無礼討ちにするわよっ!?」と言ってきたが、鼻で嗤った。


 少女は、なおも「鼻で嗤ったわね~、本当に無礼討ちにするわよっ!」と言ってきた。


 信康は面倒臭そうにに手を振り「お嬢様、駅馬車の中ではお静かに」と、意地悪そうな笑みを浮かべてデコピンをした。


 美少女は額を押さえながらその笑みを見て頬を膨らませて、「後で覚えて起きなさいよ!」と言って顔を背ける。


 漸く静かになったので、信康は騒がしくして申し訳ないと言う意味を込めて、乗っている客達に頭を下げた。


 客達も苦笑いしながら、気にするなと手を振る。


 馬車に揺られて数時間。


 カンナ地区に漸く着いた。


 馬車に降りるなり、少女は「ほら、早く行きましょう!」と今にも駈け出しそうな位に、気が逸っていた。


 信康はその少女を宥めながら、地図を見た。


 その地図を見ながら、牧場に向かう。


 歩く事数分。


 地図を見ながら、漸くジーンの家族が経営する牧場に到着した。


「きゃー牛が居るわ! 動いているわっ! 草を食べているわっ! 牛の匂いがするわっ!」


 牧場に来るなり、モーモ―鳴いている牛を見て喜んでいる少女。


 その様子を見ているだけで、生きている牛を見た事がないのだと分かる。


「本を読んでいては分からない感動! ああ・・・・・今日はなんて素晴らしい日なんでしょう。私、今日という日を忘れる事はないわ!」


 大袈裟だなと思う信康。それと同時に実家ではどれだけ箱庭生活をしなければならないのかと、この美少女の境遇に少し同情した。故郷では自分も相応の身分の持ち主だったので、この美少女の境遇がある程度理解出来たのである。


 それに貴族階級の子女が、単独で牧場に訪問などそう簡単に出来る筈が無い。この美少女が、こんなに驚くのも無理ないかと信康は思った。


 少女は牛を見ていたら、其処に馬が現れた。


 その馬を見て何か思いついたのか、少女は信康の腕を掴む。


「どうした?」


「私、馬に乗りたいって言ったでしょう? でも一人で乗った事無いから、一緒に乗りましょうよ」


「・・・何?」


 信康はそう返事した後、顎に手を添えて思案した。


 それから直ぐに乗馬未経験でありながら、一人で乗りたいだなどと我儘を言わない辺り聡明であり、美少女が言っている事も最もだと納得した。


「仰せのままに」


「やった! じゃあ、早く行きましょうっ!!」


 故郷の大和皇国に居た頃から、馬に乗っていたので信康は乗馬はお手の物だ。


 その気になれば俯せの姿勢で、馬の背中で昼寝をする事も信康ならば造作も無い。尤も当時の近臣や側近達に良く、はしたないだの危ないだのと注意されていた。


 因みに普通の傭兵が馬を飼わない理由とは、食費と宿に宿泊する際に厩舎を使うと普通に泊まるよりも高くなるので馬を飼わないのが主な理由であった。


 信康の場合は掛かる費用などどうでも良いのだが、戦場に出せば馬は戦死し易いので飼いたがらないのが理由だ。


 美少女は信康の腕を引っ張りながら、馬が繋がっている馬場に向かう。


 馬場に向かうと、牧場の飼育員に馬に二人乗りしたいと言った。


 牧場の飼育員は快く、馬に二人乗り用の鞍を着けてくれた。


 先ずは美少女を馬に乗せた。


 乗せるのにも一苦労したが、何とか乗せれた。


 次に信康が乗った。


 美少女とは対照的に信康は馬に乗り慣れているので、こちらは難なく乗れた。


 信康が難なく乗れた事に美少女は文句を言って来るが、信康は聞き流した。


 手綱を取って、まずは軽く歩かせた。


 カッポ、カッポと音を立てながら、馬は素直に歩く。


「ねぇ、もう早く走らせてよっ」


「はいはい。仰せのままにっ」


 信康は鐙で馬の腹を蹴った。腹を蹴られた馬は走り出した。


 ドドドドドドと蹄の音を轟かせながら、あらかじめ決められたコースを走る馬。


 信康は手綱を取りながら問題なく、馬を操る。


 少女は信康に抱き付きながら叫ぶ。


「キャー、はっやいわ! この風を切る感じ、これよ。これこそ。女性の誰もが夢見るシチュエーションよ!」


 そうなのかと信康は思ったが、興味が無いので何も言わなかった。


 信康は手綱を操りながら、徐々に速度を落としていって最後には並足にまで落とした。


 手綱を操り馬場に戻る。


 牧場の飼育員に手綱を預け、先に降りる。


 そして美少女の脇に、ゆっくりと手を入れる。


「えっ、ちょっ、ちょっと!?」


 別に変な事はせず、信康は少女を持ち上げて降ろした。


 牧場の飼育員に連れられて行く馬を見送りながら、美少女に訊ねる信康。


「どうだ? 馬に乗った感想は?」


「・・・・・・・・・最後以外は文句をつけようがないわ」


「そうかい」


 何も言わず少女の身体に触れた事に怒っているようだ。


 信康はそのまま怒りをぶつけるかと思った。


「・・・・・・・まぁ、馬から降ろす際はこうしないと降ろせないから、不問にするけど本当だったら不敬罪で、裁判ものよ!」


「おっと、それは失礼した・・・んっ? 不敬罪?」


 信康はわざとらしい位に、綺麗な敬礼をした。しかし直ぐに気になる単語を美少女が口にしたので、信康は思わず復唱した。


 不敬罪とはその国の王族や皇族を侮辱や愚弄した際に適用される犯罪であり、判決は軽くて多額の罰金や爵位剥奪、国外追放。判決が重ければ、死罪や族滅すら下される事もある重罪だ。


 プヨ王国において、不敬罪の対象はプヨ王族しかいない。信康が口にした単語を耳にした美少女は、ハッとした表情を浮かべた。


「も、もうこの話は終わりっ! 早く次の所に行きましょうっ!」


「・・・・・・はいはい。今度は何処に行きますか?」


「プヨ国立公園に行きたいわっ」


「プヨ国立公園?」


 信康は公園など行った事が無いと思い、何処にあったかなと考えた。


「貴方、国立公園に行った事がないの?」


「ああ、俺には無縁な所だからな。行った所で、する事も無ければ用事も無い」


「そうなの。じゃあ良い機会だから、国立公園に行きましょう。其処でね、どーしてもしたい事があるのっ」


「承知した。じゃあ、行くぞ」


 二人は牧場を後にする。




 ****************




 二人は再び駅馬車に乗って、中央区のケル地区に向かう。其処にプヨ国立公園があるからだ。また駅馬車に乗ったが、今度は美少女は大人しく揺られていた。その様子を見て、安堵する信康。


 馬車に揺られる事、数時間。馬車の停車駅で降りると、其処から少し歩いてプヨ国立公園に向かう。


「で?・・・目的地の公園に着いたが、何をするんだ?」


「此処の公園にある名所と言うか、名物を見に行くのよ。早く行くわよ~」


 美少女が我先に駆け出して行った。


「早く早くっ!」


 すると、美少女は既にプヨ国立公園内にある名所であるテティスの泉へと駆け出していた。そして信康ばかりに注目していた所為で、足元が疎かになる。


「あっ・・・」


「おいっ!? あっ」


 美少女は石畳が浮き上がった所に、足を引っ掛け体勢を崩した。信康は咄嗟に如何にかしようとしたが、いかんせん距離が離れていた為に何も出来ない。


「きゃああっ!?」


 美少女の悲鳴と同時にテティスの泉に落水し、バシャーンと大きな水音がプヨ国立公園に響いた。


「おいっ!?・・・大丈夫か?」


 信康はテティスの泉に落水した美少女を見る。見た感じは怪我をしていなかったのは不幸中の幸いであったが、代わりに全身がテティスの泉の水で濡れてしまっていた。


 美少女の身体が濡れている事で着用している服が身体に張り付いてしまっており、水で濡れている状態も相まって美少女の肢体が艶めかしく見えた。


(・・・年齢の割に、身体の成長が著しいなっ。良家のお嬢様だから、良い食事めしを喰って栄養も十分摂ってるって事だな・・・おっと。下らん事を考えている場合では無かったっ)


 美少女の濡れた肢体を見て、思わず生唾を飲み込みながらそう感想を述べる信康。しかし直ぐに我に返ると、信康は直ぐに美少女の下まで駆け付けた。


「いや~ん。折角の服がぐしょぐしょ・・・」


 美少女は自身の状態を見返しながら、涙目で嘆いていた。信康は直ぐに上着を美少女に着せて、水で濡れている美少女の身体を隠した。


「怪我をしていないのが、不幸中の幸いだったな。しかし今季いまが夏とは言え、このまま濡れた状態にして置く訳にも行くまい・・・近くに洋服ふく屋が無いか探して、其処で適当に見繕うか」


「えっ!? でも私、大してお金は持って来て無いわよっ! 抜け出すのも大変だったし・・・」


「だったら自然に乾くまで、この公園でじっとして居られるか?」


「うっ、それは嫌だけど・・・」


「だったら決まりだな。心配するな。服で良けりゃ、俺が何着でも買ってやるさ」


「えっ!? 本当にっ?」


「此処まで付き合っておいて、詰まらん嘘は吐かん。ほら、行くぞ」


 信康はそう言うと、美少女に左手を差し出した。


「・・・うん」


 美少女は少しだけ頬を赤くして、信康が差し出した左手を右手で掴んでぎゅっと握り返した。そして空いている右手で、信康の上着を無意識に掴んでいた。


「離すなよ。それから周囲の奴等にジロジロ見られると思うが、気にしなくても良いからな」


「うんっ」


 美少女は信康の気遣いを嬉しく思いながら、手を掴んでプヨ国立公園を後にした。信康が言う様に周囲の通行人から何事かとばかりに見られたが、二人は気にせず歩き続けた。


 そしてプヨ国立公園を去ってから数分程歩くと、漸く目当ての洋服店を発見した。


「邪魔するぞっ」


「いらっしゃいませっ・・・っ!」


 先ずは信康だけが先に店内に入ると上品なデザインをした制服を着た店員が出迎えたが、直ぐに二人の様子を見て不審そうな視線を向ける。


 信康は店員の反応を見て、思わず苦笑する。片や得物を帯刀している男性。もう片方は店の扉の前で、男物の上着を着ているびしょ濡れ状態の美少女である。


(まぁ不審に思われても仕方ねぇわな。取り敢えず警備部隊を呼ばれても面倒だから、早く状況を説明するか)


 信康は面倒な騒動に発展する前に、急ぎ自分達の事情を店員に説明を始めた。


「俺達は怪しい者ではない。こちらのお嬢様なんだが・・・先程足を滑らせてしまって、公園にあるテティスの泉に落ちて服を濡らしてしまわれたんだ」


「成程・・・おい、誰かタオルを持って来てくれ!」


 店員は美少女が濡れた理由を理解すると、真偽はともかく急いで他の店員にタオルを持って来る様に指示を出していた。信康はそんな店員の素早い行動に好感を抱いて、直ぐに目的を告げた。


「それからこちらのお嬢様に、下着も含めて一式見繕って貰いたい。金に糸目は付けないから、このお嬢様に相応しい服を頼む。・・・可能ならば、靴も用意して貰えると尚更助かる」


「ちょっ、ちょっと!? そんな事言って大丈夫なのっ!?」


 信康が店員に向けて口にした要望を耳にして、扉の外で待っていた美少女は動揺した様に声を荒げた。しかしそんな美少女の反応に対して、信康は何も言わず任せろとばかりに笑みを浮かべるだけだった。


「・・・畏まりました。紹介が遅れました。私はこの店の店長(オーナー)を務めている者にございます。以後良しなに」


 店員は自分がこの洋服店の店長だと自己紹介すると、一礼してから美少女をタオルを持って来た店員と共に店内に招き入れて直ぐに着替え室まで連れて行った。


 そして店長は店員達に指示を出しながら、次々と美少女に似合いそうな服飾を次々と着替え室へと持って来させた。信康は遠くから様子を見守っているのだが、自然と熱が帯び始めているのが肌で分かった。


(次々と店員が入れ替わる様に参加してんな・・・なまじ素材が良いから、盛り上がっているんだろうな)


 信康がそう思っている間にも、美少女の着せ替えは続いていた。


「お嬢様、こちらの服の採寸サイズは如何ですか?」


「う~ん、もうちょっと大きいので」


「下着の方は如何ですか? お嬢様」


「これは少し大きいから、もう一段下のを」


「畏まりました」


 美少女と店員達がそんなやり取りをしながら、信康が待つ事数十分。


「じゃ~ん、おっまたっせ!」


 着替え室から出て来たのは、薄い黄色のシックな服を着用した美少女だった。


 初夏なので、短いスカートだ。ストッキングも履き替えたのか、黒のストッキングから桃色になっていた。靴も新しい物を用意してくれた。


 どうやら、この洋服店は色々とあるみたいだ。


(ふむ、適当な店に入った心算だったが・・・やはり店の外装と内装を見た限り、高級服飾店ブティックに入ったみたいだな。俺ならまだしも、こいつにはふさわしいとも言えるが)


 そう思案する信康の前で、美少女は一回転して着ている服を見せびらかしていた。美少女の様子を見るに、現在来ている服を気に入った様だ。美少女の背後に控える店長達も、満足気に美少女の様子を見詰めていた。


「どうどう? この服、似合っているかしら?」


「良く似合っておいでです。流石は店長が、お嬢様の為に見繕ってくれただけの事はありますな」


「ちょっと、どうして其処で余計な一言を付け加えるのよ?」


「そんな事は良いので、上着を返して下さい」


「そ、そんな事はって、失礼ね・・・と言うか、何で敬語なのよ?」


「人前だからだよ。お前が気にするな。第一、慣れてる(・・・・)だろ?」


 信康が小声でそう言うと、美少女は首肯して頷いた。


 それから、貸していた上着を返却して貰い、そのまま上着を着用した。多少は濡れているが、信康は気にしなかった。そして胸ポケットを探り、前に使った虚空の指環(ヴォイド・リング)を取り出して、指に嵌めた。


「お客様、お支払いの方をお願いします」


「店長、幾らだ?」


「靴と下着と服を合わせまして、総額・・で金貨八十枚になります」


 店長から請求された金額が金貨八十枚と聞いて、驚く信康。信康の反応を見て、美少女は思わず焦燥しながら信康に訊ねた。


「ね、ねえ、貴方・・・は、払えるんでしょうね?」


「・・・・・・任せろ」


「はぁ!? 本当に大丈夫?」


「大丈夫だ。支払いの方だが・・・これでどうだ?」


「ん?・・・こ、これはぁっ!?」


 店長は信康から渡された物を見て、驚愕した。店長の周辺に居る店員達に至っては、店長以上に驚愕している。しかしそれも当然の反応である。何故なら信康が店長に渡したのは、国際共通金貨だからだ。


 国際貨幣統一連盟と言う国際組織に加盟している国家のみと言う大前提が存在するが、加盟国であれば全世界で使用可能な通貨である。それは欧米であろうと東洋であろうと、場所を問わない。


 この国際共通金貨だが、全部で五種類が存在する。


 値段が高い順で言うと星竜金貨、青星金貨、赤星金貨、白星金貨、黒星金貨という順になる。


 その貨幣価格は一番価値が低い黒星金貨でも、一枚で白金貨二百枚分。白星金貨一枚で白金貨四百枚分。赤星金貨一枚で白金貨六百枚分。青星金貨一枚で白金貨八百枚分。一番価値が高い星竜金貨で白金貨一千枚分となる。


 何故、これ程の価値がある通貨が誕生したかと言うと、理由は三つ程存在する。


 一つ目は異なる通貨価値による取引の遅延を防ぎ、そして円滑に進める為だ。


 二つ目の目的は、国家間同士の超大規模または大規模な取引で、必要な通常通貨を集める為に起こりうる市場での通貨不足を防ぐ為だ。


 国内で通貨不足が発生すれば自国経済に大きな影響を及ぼしてしまうのだから、それだけは何としても防がなければならない。


 自国経済が乱れれば、内政の乱れにも繋がり外国に付け入る隙を作ってしまうのである。


 三つ目は、通常通貨では枚数が多過ぎる事による、精算の遅延や間違いを防ぐ算段もある。


 取引で使われる通貨の枚数が多ければ多い程、間違いが生まれ易い危険性を孕むのだから。


 それに国家間の取引で、その様な失態が発生すれば、即座に外交問題に発展してしまう。


 そして、使用する通貨の枚数が少なければ少ない程、運搬や保管がし易いと言う利点も生まれる。


 店長は動揺しながら、受け取った国際共通金貨を凝視していた。


「はっ!?・・・お、お客様。では少々お時間を頂きますので、今暫くお待ち下さい」


 店長は動揺を必死で抑えながら一礼すると、両手で国際共通通貨を大切そうに持ち抱えて調べ始めた。


 何故なら信康が渡したのは、国際共通通貨の中でも一番高い星竜金貨だったからだ。


 国際共通通貨には特徴があって金貨に星の模様が刻まれて、光を当てるとそれぞれの金貨が名称に因んだ通りに青、赤、白、黒に輝く。


 しかし、星竜金貨は星の中に竜の絵が刻まれており、光を当てると七色に輝くのだ。


 店長は信康に渡された星竜金貨を、偽物かどうか確かめる為に軽く噛んだ。その際に周囲の店員達は、緊張から唾を一塊飲み込んだ。


 星竜金貨を噛んでも剥がれる事は無かったので、メッキではないと分かった。店長は丁寧に星竜金貨を拭くと、次に重さを計った。


 国際共通貨幣は、厳密に重さも決まっているので偽物なら直ぐに分かるのだ。


 秤の皿に星竜金貨を乗せて、反対の皿に幾つか重しを乗せていく。幾つかの重しを乗せて、漸く秤が平行になった。これで信康が手渡した星竜金貨は、本物だと分かった。


「ほ、本物・・・・・・・・・」


 店長の隣に居る店員は生まれて初めて、星竜金貨を見て震えだした。店長も店員程では無いにせよ、身体を震わせている。


「調べは終わったか? 納得して貰えたなら、ありがたいのだが?」


「はっ!? た、大変失礼を致しました。あの、お客様。大変恐れ多いのですが・・・当店だけで、星竜金貨による御釣りの支払いは大変難しく、その・・・もう少々ばかり小さい硬貨の方を、御用意する事は出来ませんでしょうか?」


「そうか、それは悪かったな・・・ならば黒星金貨での支払いでどうだ? それなら行けるだろう? それから精算する前にお嬢様へ、これからの季節に相応しい服を後もう三着。濡れた衣服を入れる袋。俺にも青を基調とした服を一式見繕ってくれ。最後に(・・・)あれも貰いたい」


 信康は其処まで言うと、ある場所に指差しをした。信康の指先にあったのは、マネキンに着せていた男物の青い上着だった。


「は、はい。黒星金貨でしたら御釣りの方も、即座に御用意して御覧に入れましょう。君達っ! 今直ぐ他の店員もの達も、此処に呼んで来るんだっ!」


 店長は慌てた様子で、他の店員も呼んで店内を総動員で信康と美少女の対応を始めた。


 店員の一人はマネキンに着せていた青い上着を脱がせると、信康に試着して貰って採寸が合うか確認して貰った。


 信康には少しばかり小さかったので、直ぐに一回り大きい同様の上着を持って来てきちんと試着して貰った。そして用意した紙袋に濡れた服を入れて貰い、上着も包んで別の袋に入れて貰った。


 更に店長が自らの審美眼を総動員させて、信康と美少女に相応しい服装を瞬く間に用意してそれらも革袋に収めた。最後に店員達が白金貨や大金貨、金貨が入っているであろう革袋を何十個も重そうに運んで来た。


 用意された革袋の中身を一つ残らず調べて、店長が提示した御釣りの金額の硬貨総数がある事を確認して満足した信康。


 そのまま用意された革袋を全て虚空の指環の中に収納すると、虚空の指環を胸ポケットに入れた。


「よし、これで良いな。お嬢様、帰りましょうか」


 信康は満足そうな笑みを浮かべて、美少女に声を掛ける。唖然としていた美少女は声を掛けられて、気を取り戻した。


「う、うん」


 信康は美少女を連れて、高級服飾店を後にした。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 店長が店員達と共に、高級服飾店を出て行く信康達の背に一礼して見送った。


「さっきの店員達の顔は、実に見ものだったな。まぁちょっと店長には悪い事をした気もするが・・・別に良いか。これで何時あの高級服飾店ブティックを利用しても、ちゃんと賓客扱いになるのは間違いない」


「・・・ねぇ、聞いて良いかしら?」


 信康達が高級服飾店を出て少し歩くと、美少女が声を掛け来た。。


「貴方はどうして、星竜金貨なんて持っているの? あれ一枚だけで、莫大な財産になる様な代物なのに・・・」


「ああ、あれな」


 信康は言葉を区切って、理由を教えた。その前に誰も聞き耳を立てていないか、周囲を確認した。その様な人物が居ない事を確認して、信康は語り始めた。


「言っていなかったが、俺は傭兵だ。このプヨに来る前に、とある戦争に参加してな。その時に手に入れたものだ」


「手に入れたって、この星竜金貨を持っているとしたら、大富豪か大貴族かそれこそ王族が、持って、いる・・・・」


 少女は言っていて、直ぐに信康が持っている理由が分かったみたいだ。


「まぁ、お前の考えている通りだ。その国が滅んだ際にドサクサに紛れて王城にあった財宝と、地下にあった宝物庫から戦利品として俺が頂いたのさ。公式では確か、行方不明って事になっているな」


「成程ね。でも国際共通通貨があると言う事は、西洋か欧州のどっかにある・・・あった国でしょう?」


「ご明察。その通りだ。お前なら名前ぐらいは、聞いた事があるかも知れないな」


「聞いたついでに教えて頂戴、その亡国くにの名前を」


「国名はマギアランド王国だ」


「ああ、ブリテン王国に滅ぼされた魔法大国ね」


 マギアランド王国。


 小さい島国だが、魔法の研究が盛んな魔法大国と知られていた。


 凄まじい事に、産業を全て魔法で行っていたのだ。


 総人口は五百万と、それなりの強国であった。


 そんなマギアランド王国だったが、隣国のブリテン王国と国境問題が発展して戦争になった。


 開戦当初は数年は続くと、誰もがそう思う程の大戦だった。


 しかし、蓋を開けてみればたったの七週間で、ブリテン王国が勝利しマギアランド王国は滅亡と言う形で決着が着いた。そんな経緯からか、この戦争は七週間戦争と呼称されている。


「ブリテン王国って確か、真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)が本来所属している大国よね」


「そうだ。よく知っているな」


「あっ!? おっほほほほ、これでも父が軍関係者と親しいから」


「そうかい。まぁ分かる様に俺はその七週間戦争で、ブリテン側で参戦していたんだよ」


「へぇ。それで王城の宝物を根こそぎ奪って行くなんて、抜け目ないわね。貴方」


 苦笑する信康。そして再び周囲を見回して、誰もこちらの話に聞き耳立ててない事を確認した。


 誰も聞いていない事が改めて分かると、信康は美少女の耳の顔を近付ける。


「此処だけの話なんだが・・・俺はな、その時の戦争で真紅騎士団の連中と肩を並べて戦ったんだ」


「へぇ。まぁ同じ陣営に所属していた傭兵なのだから、そうでしょうね」


「そんな経緯があってな、幹部の連中とは顔馴染みなんだよ」


「えっ!? それは凄いわね・・・因みに誰と話したの?」


「団長の『破軍』と副団長の『絶影』。それと他の十三騎将で『血染』と『隠密』と『赤き稲妻』と『剛力』の四人だな。他の連中とも全員顔合わせはしてるし、会話もしているが・・・まともに会話した記憶があるのは、この六人だけだ」


「・・・・・・・・・・貴方、どんな活躍をしたの? もしかして真紅騎士団の十三騎将の一人だったとか?」


「しつこく誘われたが、断ったよ・・・・・・活躍に関しては色々あったから、話すのは勘弁してくれ」


「・・・・・・まぁ、良いわ。一応聞いておきたいけど、どんな人達だったの? 貴方が話した幹部達は?」


「そうだな」


 信康は空を見上げながら、思い出す。


「『血染』は十三騎将の中でも三人しかいない女幹部で、名前はナーサディア・アレクセナロヴァっていう美女だよ」


「女性も居るんだ」


「ああ、特殊工作部隊を率いているぞ。それとアイツの出自も特殊だったな」


「特殊?」


「傭兵をする前は娼婦だったんだ。珍しいだろう」


「・・・・・・そうね」


 娼婦という言葉を聞いて、美少女は顔を赤らめた。初心だなと思うが、信康は指摘はしなかった。


「だが、その腕は確かだ。少なくとも、俺が討ち取ったダーマッドよりも、遥かに強いだろう。と言うかダーマッドが、十三騎将最弱と考えても良い位だな」


「そんなに?・・・そう言えばプリシラお姉様が勲章を渡しに、傭兵部隊の兵舎に行ってきたって前に言っていたわね。ノブヤスって、貴方の事だったんだ」


「・・・・・・何か言ったか?」


「うんうん、別に。他には?」


 美少女に急かされたので、信康は思い出しながら話すのを再開した。


「他はそうだな・・・『隠密』って奴は、ヴォルフォールって言ってな。それしか名乗らなかったから、今となっちゃ名前なのか家名なのかも分からん。ナーサディア同様、真紅騎士団クリムゾン・ナイツの裏方役で隠密部隊を率いている男だった。最後に会った時には重い病気を患っていたが、まだ元気にしているかねぇ?」


 信康はそう言って、ヴォルフォールの安否を案じた。現状は敵対関係にあっても、ヴォルフォールは悪い人物では無かったので、つい気になったのである。


 信康はそれから再び、自身が知っている十三騎将について続きを話した。


「次に『赤い稲妻』はネイファ・スギョンラントンって言うんだが、十三騎将の中で一番若い奴だったな、歳はその時は十四と言っていたな」


「十四歳で戦場に出ていたの!?」


「別に珍しくも無いぞ。俺なんか、十一歳で初陣に出ていたからな。あいつ、よく俺に突っかかって来て面倒だった。其処は最終的に『剛力』が鉄拳制裁をして、ネイファの奴を黙らせてくれたがな」


 ネイファは陣地で信康の姿を見つけると、言いがかりをつけて喧嘩をふっかけてきた。


 信康はそんなネイファを宥めたり、偶に相手をしたりしていた。それで『剛力』のカールセンがネイファに拳骨を落として謝るのが、その戦場では一種の風物詩になっている。


「『剛力』ってのは元十三騎将の一人で、名前はカールセン・オルドレイクという爺様だよ。確か現在いまは、真紅騎士団の訓練教官になっているな」


「・・・御爺様なんだ。所で『剛力』なんて厳つい異名が付いた由来って、貴方は知っているの?」


「ああ、知っているぞ。確か、とある攻城戦だったか・・・大の大人が三十人掛かりで動かす破城槌を一人で持って、城門をぶち破ってそのまま城内に突入して大暴れした事からついたそうだ。まぁ本人曰く自分の全盛期だった頃の話で、老いた現在いまの自分では同じ真似なんか出来ないって謙遜していたが」


「はぁ~凄いわね」


「だが、話してみたら好々爺みたいな人だったな。怒らせたら怖い御仁だったが」


「へぇそうなんだ・・・あれ? オルドレイクって何処かで聞いた事がある様な・・・・・・?」


「・・・・・・一番不思議だったのが、『絶影』だったな」


「っ!・・・どう不思議だったの?」


「アナベル・ゼーミルビスって名前で、参謀総長も兼任している知勇兼備の名将だ。糸みたいな細目で、俺の顔をジッと見て来るんだよな。何故か」


 一時は、もしかして自分の尻を狙っているかと内心思って警戒していた信康。ひょんな事からそう思っている事をアナベルに察せられると、アナベルに爆笑されたのは印象に残っている。


「最後の団長の『破軍』だが・・・正直、この人はよくわからん。名前はヴィラン・ダングラールって言って、其処は勿論分かっているんだが・・・」


「分からない?」


「ああ。誰と会う時でもフルフェイスの兜を被ったままだから、顔が分からなかったな。素顔を見た事がある奴は、真紅騎士団の中でも限られた奴だけだろうな」


 ヴィランに会食に招かれて食事を共にする機会があったのだが、その時も兜を被ったまま食べていた。信康は何時外すんだとか、まさか寝ている時まで着けていないだろうなとかずっと疑問に思っている。


「ふ~ん、ねえ、聞いても良い?」


「何だ?」


「貴方・・・その親しくしていた十三騎将達と戦場で遭遇してしまったら、ちゃんと戦えるの? 知っている相手と戦うのって、辛くない?」


「戦えるぞ」


 信康は悩む事無く、美少女の質問に即答した。


「確かに何も感じないのかと訊かれたら、それには嘘になる。しかし傭兵には、傭兵の義があるからな」


「何? そのようへいのぎ? って」


「簡単に言えば、一度契約したら裏切りませんよと言う事だ」


「でも、傭兵って報酬次第で裏切ったり敵になる事もあるのでしょう」


「それはそれで間違っていない。何せ自分の命を切り売りするのだから、少しでも高い方につくのは当然だ。だがそれでも傭兵が契約期間中に裏切るのは、滅多にしない事だ」


「そうなの?」


「ああ・・・もしそんな馬鹿な真似をしたら、それは傭兵としての信用に係わる。だからそんな事をする奴は、敵味方問わず、そいつを殺すのが傭兵の暗黙の規則(ルール)なんだよ」


「そうなんだ。知らなかったわ」


「まぁそんな事をするのは、傭兵の掟を知らない駆け出しルーキー位だけどな」


 信康はその後も、その美少女と話し続けた。


 やがて、時は夕方から夜になった。信康は虚空の指環を胸ポケットから取り出すと、美少女の服が入っている袋を全て渡した。


「こんな時間になるまで付き合わせて、ごめんね」


「俺も楽しかったよ。それに嫌だったら、此処まで付き合ってはいない。だから気にするな」


「そう、なら良かった・・・もう暗くなったし、そろそろ戻らなきゃ流石に怒られちゃうわ。服も何着も買ってくれて、ありがとうね」


「俺が好きでやった事だ。まぁお前からしたら、安物だろうがな」


「そんな事無いわよ。それに買ってくれたのだから、感謝は当然します」


「そうかい」


「そう言えば私達って、お互いに自己紹介を済ませていなかったわね。私はアリスフィ・・・じゃなくて、えっと・・・アリスよ。貴方は?」


「俺は信康だ」


「うん・・・ノブヤスね。やっぱり東洋から来ただけあって、名前の響きが違うわね」


「まぁ、そうだな」


「ノブヤス。後日になるけど改めてから礼をさせてね。連絡を寄こしたら、あの公園で待っていて頂戴」


 そんな事しなくて良いからと言おうとした信康だが、アリスは先に言う。


「因みに、貴方に拒否権は無いわ」


「・・・・・・・はぁ、御意・・・ついでにこいつも持って行け」


 信康はそう言うと、虚空の指環から静寂(サイレンス)の魔符を三枚程アリスに手渡した。静寂サイレンスの魔符である事が分からないアリスに、信康は使用方法について説明した。


「静寂の効力が付いた使い捨ての魔符でな・・・静寂と唱えれば一定時間、透明になれる。お前の自宅の警備体制セキュリティ次第では使えんかもしれんから、本番で使う前に試して行けよ」


 アリスは信康から貰った静寂の魔符を凝視した後、大事そうに握り締めた。


「色々貰って悪いわね・・・じゃあまたね! とっても楽しかったわっ! 今日は本当にありがとうっ!!」


 アリスは満面の笑みを浮かべて感謝すると、夕闇の中走り去った。


 その背が見えなくなると、信康も傭兵部隊の兵舎に戻る。傭兵部隊の兵舎に戻ると何故か全員が、テーブルに突っ伏した状態であった。一体どうしたのだろうと思っていたら、テーブルに突っ伏していたリカルドが顔をあげた。


「や、やぁ。ノブヤスお帰り」


「おう・・・で? お前等全員、揃いも揃ってどうしたんだ?」


「実は今日、ノブヤスが出掛けた後に王宮から使者が来て緊急招集されたんだ」


「えっ、本当かよ」


 それなら、誰か呼びに来ても良いだろうにと信康は思う。


「まぁ・・・兵舎に居ない人が多かったから、呼びに行って減らすよりも今いるだけ連れて行く事になったんだ」


「そうか。それで、なんで緊急招集されたんだ」


「第四王女様が行方不明になっちゃったから、その捜索に俺達傭兵部隊も駆り出されたんだよ」


「第四王女の捜索ね」


 この国には王子は居ないが、王女が四人ほど居る。


 長女の第一王女プリシラ。


 ガリスパニア地方にその勇名を轟かせる姫騎士だ。


 この前、信康に勲章を渡しに来た女傑である。


 次に第二王女ギネヴィ―ナ。


 ギネヴィーナは病弱で、普段からプヨ王宮を出ないと言われている。


 公式行事に出席しても、ヴェールを被って素顔を見せる事は無いそうだ。


 次は第三王女ユーフォリア。


 普段のユーフォリアはプヨ王国の筆頭外交官として、ガリスパニア地方内外にある国々を飛び回っている。


 王族ながら外交官としての実績もあり、更には文武に練達と謳われている。 


 最後に第四王女アリスフィール。


 アリスフィールは自由奔放で有名な王女であった。今回の様な騒動を度々起こしており、宮臣を振り回しているらしい。


 しかしその天真爛漫で明るい性格は、国民から絶大な人気を誇っている。


「そっか・・・で、戻って来れたと言う事は、無事に見つかったんだな?」


「ああ。一日中走り回って、皆クタクタだね」


「そいつは大変だったな」


「全くだよ。散々な一日だった」


「・・・その王女様の似顔絵とか無いのか? お転婆王女様の顔、是非見てみたいな」


「ああ、それなら此処に似顔絵があるよ」


 リカルドが紙を信康に渡した。


「どれどれ・・・・・・むっ」


 その似顔絵を見た瞬間、信康の眉がピクリと動いた。


 似顔絵に書かれている絵は、先程まで信康と逢瀬をしていたアリスにそっくりだった。


 それこそ瓜二つだ。


(やっぱり俺と一緒に歩き回ったのが、第四王女のアリスフィールだったか。不敬罪とかプリシラお姉様とか言っていたし、間違いないな)


 信康は確信を持てたので、少しすっきりした気分だった。それと同時にアリスもといアリスフィールに付き合った御蔭で、つまらない捜索活動に加わらなくて良かったと心底そう思った信康であった。

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