第380話
信康邸へと入った瞬間、人型形態のシキブが信康達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、御主人様」
「ああ、ただいま」
信康はヴェルーガ達に紹介する為に、身体をずらした。
「紹介する。こいつはシキブだ。家政婦だ」
「初めまして、皆様方。シキブと申します」
そう言って挨拶をした後に、ヴェルーガ達に向かって頭を下げるシキブ。
そんなシキブを物珍しい目で、ヴェルーガ達は見ていた。
「ねぇ、ノブヤス・・・この娘、不定形の魔性粘液よね?」
「おっ? そうだ。ヴェルーガ達は流石に言わなくても分かるか」
信康はヴェルーガの知識の深さに感心していた。
「でも、大丈夫? SS級の魔物だけど
「心配しなくても大丈夫だ。シキブは何もして来ないぞ。それとも俺の言う事は、信じられないか?」
「別に。あれだけ流暢に人語を話せる知性を持つノブヤスの従魔が、私達に無暗やたらと危害なんて加えて来ないって思っただけよ」
「それにしたって、冷静だな」
「普通ならそうでしょうね。あたし達はこう見えて、結構驚いたもの。それにしても何処でこんな、凄い娘を見つけて来たの?」
「俺の師匠がくれたんだよ」
ディアサハから与えられた事実を、信康は隠す理由も無いので正直に話した。
「へぇ、随分と気前が良い御師匠様なのね」
ヴェルーガはマジマジとシキブを見て、笑顔を浮かべる。
「初めまして、あたしはヴェルーガ。こっちは娘のエルストとネイサンよ」
「どうも」
「こんにちは」
ヴェルーガはシキブ自己紹介しながら、自分の後ろに居るエルストとネッサンも紹介する。ヴェルーガに紹介された二人は、シキブに頭を下げた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
シキブはヴェルーガ達に頭を下げる。そして頭を上げると、信康を見る。
「御主人様。御客様が来ております」
「客?」
心当たりの無い客に、信康は首を傾げた。
「はい。何でも『ノブヤス様の女』と申しておりました」
「女か・・まぁ良い。早速会おう。何処に居るんだ?」
信康は誰だろうと思いつつ、シキブに尋ねた。
「応接室で御待ち頂いております。其処の廊下から、二番目の部屋です」
「分かった。シキブはヴェルーガ達と何をするか、話をして決めてくれ」
「分かりました。それともう間もなく夕飯が出来上がりますので、少ししたらお持ちします」
シキブ達に見送られ、信康は客間に向かった。
廊下を歩きながら、信康は考えた。
(女か。誰だろうな?・・・考えるだけ無駄だな。心当たりが多過ぎる)
信康はそう思って考察を諦めると、会えば正体は取り敢えず分かるかと思って応接室を目指した。
応接室の前に着くと、信康は襟を正した。そしてドアノブに、手を掛けて回した。
「お待たせし・・・た・・・・・・っ!?」
客間に入室すると、待っている女性を見て信康は驚いた。
「やっほ~久し振り~」
長椅子に座り、信康の方に顔を向けて手を振るのは一人の美女だった。
年齢は信康と同い年か年下と思われる。
可愛らしい顔立ち。パッチリとした目。肌は信康と同じ黄色だが、水色の瞳。
着用しているのは、黒い革のショートパンツ。脚には膝下まである、長いブーツを履いている。
上は黒いジャケットに紫色のビスチェを着ているので、娼婦みたいな恰好であった。
胸はかなり大きく腰は折れそうな位に、細くて桃みたいな質量のある尻を持っていた。
「お前だったのか? 鈴蘭」
「そだよ~縫からちょっとは聞いてない?」
鈴蘭にそう尋ねられた信康は、第二訓練場で縫が話していた事を回想する。
「そう言えば縫に同伴している奴等が居ると聞いていたが、あれってお前等の事だったのか?」
「うん。あたしだけじゃなくて、皆で信康に会いに来たよ」
鈴蘭の話を聞いて、信康は鈴蘭だけでなく千賀地姉妹全員で来たのかと驚いた。
鈴蘭とその姉妹の父親は義父である千賀地正成であり、信康の実父である吉康の懐刀と畏怖された超重臣だ。
諜報に長けており孤児だった鈴蘭達を養女にして、実子である長女共々鍛えに鍛え上げ超一流のくノ一に仕立て上げた。
「お前等が、俺に・・・?」
「うん。ただ会いに来ただけじゃなくて、手伝いにも来たんだ」
鈴蘭の話を聞いて、信康は驚くばかりであった。




