第379話
傭兵部隊の兵舎を出た信康とヴェルーガは、ケソン地区にあるカルレアのアパートメントへと向かった。
それからヴェルーガは愛娘のエルストとネイサンのを連れてカルレアに会い事情を話すと、そのまま契約を解除して部屋を引き洗ってから信康と合流した。
信康と会うとエルストは直ぐに顔を逸らしてが、ネイサンは信康を見るなり笑顔を浮かべて頭を下げた。
そんな対照的な二人の態度を見て信康は苦笑しつつ、一緒に信康邸があるファンナ地区へと移動を始めた。
そうして歩いて行く内に、信康達は目的地である信康邸へと到着した。
「わぁ、立派な御屋敷ね」
「凄く・・・大きいです」
「こんなに凄い御屋敷を貰ったんだ」
ヴェルーガとネイサンとエルストの三人は、信康邸が想定以上に豪華だった事に驚いた様子で見上げていた。
「こんだけ大きいから、流石に家政婦でも雇わないとな。居ないと格好付かないし、管理も大変だろう?」
「これだけ大きかったら、そうだよね~」
信康の言葉に、ネイサンは同意して頷いた。
「確かにそうかもしれないけど、ちゃん給料は払えるの?」
エルストはポツリと零した。すると信康は、呆れた様子で溜息を吐いた。
「はぁ・・・払うに決まってんだろ。そうじゃなきゃ、お前等を雇ったりしねぇっつの」
エルストが信康に興味半分で給料の事を尋ねてきので、信康は答えた。
「どのくらい出せるの?」
ヴェルーガ達は大なり小なり興味があるのか、信康の回答を黙って待っていた。
(まだちょっと決めかねているんだけどなぁ。使用人とか家政婦の給料事情とか知らねぇし・・・プヨ全体の平均月収は金貨三枚らしいから、それに色を付けりゃ良いか)
信康は心中で数少ない判断材料から、ヴェルーガ達に支払う給料の金額を素早く決定した。
「そうだな・・・娘達の方は金貨五枚で良いか。衣食住は保証するし制服とか諸々の費用も俺が負担するから、出費の心配はしなくても良い。ヴェルーガが家政婦長だから、倍の大金貨一枚を月収として払うぞ」
『・・・えっ?』
信康は自信満々な様子で給料を明言したのだが、ヴェルーガ達は信康の回答を聞いて固まっていた。
そんなヴェルーガ達の様子を見て、信康は密かに冷や汗を搔き始めた。
「ん、んん? 何だ? どうかしたのか?」
「高過ぎない? 金貨五枚なんて他の貴族の家だったらそれこそ、管理職の家政婦長で漸く届く月収なんだもの。普通の家政婦なんて金貨三枚もあれば良い方で、普通は金貨二枚で下級貴族だと金貨一枚と大銀貨五枚が平均月収よ」
「なっ!? そうなのかっ?!」
ヴェルーガから家政婦の給料事情を聞いて、信康は予想外に低い金額に驚愕していた。
「何でそんなに、家政婦の給料は低いんだ?」
「住み込みで衣食住が保証されてるからその分、給料が安くなっているの。勤続年数とかで勿論給料は上がって行くし、技能次第で給料は高くなるでしょうけど・・・平均で見ても大体がそんなものね。もしその条件で組合に求人でも出してみると良いわ。明日には就職希望者で、屋敷の前に行列が出来てるわよ」
ヴェルーガの話を聞いて、信康はその状況を想像してうわぁと言わんばかりに表情を浮かべた。
「こほん・・・事情を知らなかったとは言え、俺は前言撤回する心算は無い。お前等ならそれだけ払っても惜しくはないし、金ならあるから問題など無いぞ」
信康はそう言うと虚空の指環を装備して、一つの革袋を取り出した。
その革袋には金貨が詰め込まれている様で、ヴェルーガには金貨十枚。エルスト達には金貨五枚をその場で手渡した。
「ノブヤスさんっ。これは一体・・・」
「取り合えず、来月の給料を先に渡しておく。今後からは初日に払うから、その心算で認識しておいてくれ」
ネイサンの困惑を他所に、信康は給料の支払い日に関してそう宣言した。
ネイサンはそれでもまだ困惑気味であったが、黙って信康に頭を下げて感謝していた。
「良し。早速だが、入ろうか」
信康はそう言うとヴェルーガ達を連れて一緒に、信康邸へと入って行った。




