第377話
信康は拝領した屋敷を出て、何処で家政婦を見つけようと歩いていた。
「あら? 貴方、ノブヤスじゃない」
すると信康が思案している横から、声を掛けられた。
信康が振り返ってみると、其処に居たのはライリーンであった。
「大会の方、お疲れ様だったわね」
「ありがとうよ」
ライリーンが労うと、信康は感謝して返事をした。
そして斬影に騎乗している信康の隣に移動して来たので、信康は速度を緩めてライリーンの速度に合わせる。
「こんな所に居ても大丈夫なの? 仕事はどうしたのよ?」
「今日は屋敷を貰ったから、その手続きで休みなんだよ」
「屋敷?・・・ああ、そう言えば貴方は聖騎士に叙勲されたのよね」
信康の話を聞いて、ライリーンは聖騎士叙勲の事を思い出した。
「今更かもしれないけど、おめでとう」
「ありがとうよ」
あまり感情が籠っていないライリーンの祝福を受けて、信康は苦笑しつつも感謝した。
「・・・屋敷を貰ったと言う事は、家政婦でも雇うと言う事かしら?」
ライリーンの鋭い指摘に信康は思わず、驚いた様子を見せながらライリーンを見た。
「・・・まぁそんな所だ。ただ誰に頼んだら受けてくれるか、其処が悩み所でな」
そう言って困ったとでも言いたげな様子で、溜め息を吐く信康。すると信康はライリーンを見て、不意にこう言い始めた。
「・・・何だったら、ライリーン。俺の屋敷で、家政婦として働く心算は無いか? 給金だったら弾むぜ?」
信康は軽口でも言った心算で、ライリーンを勧誘してみた。
「興味ないわ」
「お前ならそう言うよな」
信康は予想通りの反応なので、苦笑いしていた。
「使用人が欲しいのなら、使用人組合に言けば良いのよ」
「使用人組合?・・・成程、確かにそれが一番道理だな」
妙案だと言わんばかりに、信康は手を叩いた。
「良し。その案で行こう。ライリーン、ありがとうな」
信康はライリーンに感謝してから、使用人組合を目指して移動を始めた。
信康の背中を見送ったライリーンだったが、ハッとした後にポツリと零した。
「・・・肝心の場所は、ノブヤスに分かるのかしら・・・?」
ライリーンはそう言って心配になったが、信康があれだけ迷いなく歩いているのを見て大丈夫だと思い気にせず歩き始めた。
するとその足は学園寮に戻る道では無く、何処か別の場所に行く様子であった。
ライリーンが向かった先は、何故か路地裏であった。ライリーンがその路地裏に到着すると、一人の男性が姿を見せた。
「待たせたかしら?」
「いえ、大丈夫です。お嬢」
男性がライリーンの事をお嬢と呼ぶのを聞いて、ライリーンは思わず溜め息を吐いた。
「いい加減にそのお嬢と言うのは、止めてくれないかしら?」
「すいません。長い間、そう呼んでいたので癖で」
男性はライリーンの指摘を受けて、申し訳無さそうに頭を掻いた。そんな男性の様子を見て、ライリーンは再び溜息を吐いた。
「まぁ、今更よね。もう良いから、何か情報は手に入った?」
「はい。先ずはこれを」
男性は懐から一枚の紙を出して、それをライリーンに渡す。
ライリーンはその紙を手に取って、中身を見る。
「・・・・・・どうやら出兵の方は、収穫祭が終わった直後にするみたいね?」
「はい。先日の夜に第三騎士団団長が、王国議会にアグレブへの出兵認可を上奏しました。議会もその上奏を受けて討議しているみたいですが、出兵は時期的に収穫祭が終わってからと決議するのが濃厚だそうです」
「そう・・・・・・」
ライリーンはその紙を、男性に返却した。
「この紙だけど、『血染』に渡して。それから引き続き、情報収集を続けて頂戴」
「はい、分かりました」
男性は言いたい事を言い終えた様子で、ライリーンに一礼してから即座に姿を消した。
「・・・・・・今度の戦はどうなるでしょうね」
ポツリと零した後にライリーンは、そのまま妖精の隠れ家へと足を運ぶ事にした。




