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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第374話

 『豊穣天覧会』が終了した数時間後。



 青い月(ブルームーン)の店内。



 其処では傭兵部隊の諸将が、貸し切った店内で打ち上げを開いて酒を飲んでいた。


「んぐ、んぐ・・・・・・ぷはああっ、やっぱり納得いかねええっ!?」


 バーンは木で出来た木製の酒杯に入っていた麦酒を飲み干し、叩き割らん勢いで酒杯をテーブルに叩きつけながらそう叫んだ。


「そう怒鳴るなよ。もう、終わった事なんだから」


 信康は頼んだ葡萄酒をチビチビと飲みながら、怒れるバーンを宥める。


「そうよ、バーン。当事者のノブヤスがそう言うのならまだ分かるけど、どうしてあんたが何時までも文句を言ってんのよ」


 ヒルダレイアも店内を貸し切ったとは言え、五月蠅くするバーンを静かにさせようとした。


「でもよっ。流石にあの判定はないだろうがよっ!?」


 バーンがテーブルをガンガンと叩きながら文句を言う。


 テーブルを叩いた事でテーブル上に乗っていたモノ達が振動で揺れたり跳ねたりしたが、その席に座っている諸将は気にしていなかった。


「まぁ、バーンが怒る理由も分からなくもないな」


「う~ん。どちらかと言えば、ノブヤスがそう言って納得しているとしても、バーンの言う通り納得するのは難しいと思わなくも無いな」


 ロイドが酒を口付けながらバーンに同意するかの様に頷き、リカルドは頬を掻きながら何とも言えない顔をしていた。


「だろう!? お前等も、そう思うだろうっ!」


 バーンは我が意を得たとばかりに声を大きくする。


「バーン。声が大きいわよ。此処は兵舎の食堂じゃあないのだから、もう少し静かにしましょう」


 サンドラが声が大きくなったバーンを窘めた。


「でもよっ」


 流石に大きな声を上げた事に反省しているのか、バーンは頭を掻きながら声を小さくした。


「気持ちは分かるけど・・・当人のノブヤスが抗議しないのだから、貴方が文句を言っても駄目よ」


「そうね。あんたがどんだけごちゃごちゃ言おうが、ノブヤスがもう認めたんだから誰も文句を言えないわ」


 ライナとティファまで酒を飲みながら、バーンを宥めた。


「・・・・・・」


 二人からにそう言われたバーンは、不貞腐れた様子で新しく酒を頼んだ。届いた酒を何も言わず口付けた。


 バーンがこんなに怒るのには理由があった。


 それは、数時間前の事だ。


 豊穣天覧会の馬上槍試合個人部門決勝戦。


 三本勝負の最後で、信康とシーリアの槍が砕けた。


 二人の槍は試合続行不可能と言えるぐらいに砕けていたので、このまま試合を続行するかそれとも今までのポイントで勝敗をつけるかで審判達が揉めた。


 それで此処はヴォノス王に決めて貰おうという話になった。


『点数は同点。最後の勝負で双方の槍が砕けた。よって此処は引き分けとし、レヴァシュティン卿並びにレダイム卿の両名を同率優勝とする』


 そう前代未聞の宣言を行った。


 これにより豊穣天覧会の馬上槍試合史上、初である同率優勝という結果となった。


 大会が終わると、バーン達が信康達を捕まえて無理矢理打ち上げに誘った。


 しかしカインだけは参加せず、何処かに行った。


「確かに、点数ではノブヤスが勝っていた。それを、国王陛下が引き分けにしたんだ。普通は怒っても良いと思うがな」


 ロイドは信康を見る。


 当の信康は頼んだ酒をチビチビと飲んでいた。


「お前、悔しくないのか?」


「別に」


 信康がそう答えて、酒が入っていたグラスをテーブルに置いた。


「正直に言って、優勝したら面倒な事になりそうな気がしたからな。同率優勝で十分だと思うぞ」


「うん?どうしてだい?」


 リカルドは其処までする意味が分からないのか、首を傾げながら訊ねる。


「考えてもみろよ。俺達はこの前聖騎士に叙勲されたばかりだぜ。それだけでも目立っているのに、それに加えて俺は一昨年の優勝者のジャンリムを倒しているんだぞ。これだけでもかなり目立っていると言えるだろう。それに加えて、優勝してみろ。貴族のやっかみが増えそうな気がするぜ」


「う~ん。無いとは言えないわね」


「それに相手は、プヨ五大貴族レダイム侯爵家の次期当主だぞ。もし勝ったら宗家は何も言わなくても、その係累が因縁付けて来そうだ」


 信康の言葉を聞いて、全員が唸った。


「これで無いと言えないのが悲しいわね」


「貴族ってのはプライドだけはあるから厄介だよな」


 ヒルダレイアとバーンが過去に貴族関係で何かあったのか、重い溜め息を吐いた。


「だろう。だから、俺は同率優勝でも構わない」


 信康がまた、酒を飲み始めた。


 信康がそう言うのであればと思い、全員がそれ以上は何も言う事なく酒を楽しんだ。



 プヨ歴V二十七年十月四日。朝。



 信康は若干残った酔いで頭を顰めながら、ヘルムートが居る部屋へと向かった。


「総隊長。信康が来ました」


『おお、来たか。入れ』


 入室を許可されたので、信康はドアノブに手を掛けた。


「失礼します」


 ドアを開けてそう声を掛けてから部屋に入る信康。


 そして、ヘルムートが座っている所まで行く。


「総隊長、何か用ですか?」


「ああ。色々とあって時間が掛かったが、お前の家が用意されたぞ」


 信康はそんな話もあったなと、今更ながら思い出した。

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