第373話
少し休憩を挟んでから、馬上槍試合の決勝が開始された。
信康はブルーサンダーに跨りながら、試合会場に向かう。
会場に着くと、信康の反対側にはシーリアが居た。
「これより豊穣天覧会馬上槍試合の個人戦部門の決勝戦を行う! ノブヤス・フォン・レヴァシュテイン卿。シーリア・フォル・レダイム卿。両卿ともに所定の位置へ」
審判にそう言われて、二人は所定の位置に着いた。
「試合を始める前に、両卿は国王陛下へ拝礼せよっ!」
試合会場から少し離れた所に、天覧席と言う貴賓席がある。
その席は、プヨ王国現国王のヴォノス王が居た。
元々豊穣天覧会とは収穫された作物を祝う祭りで行う競技を、プヨ国王が観戦したと言う由来からその名前が付けられた。
なので豊穣天覧会で行われる各競技の決勝は、プヨ国王が見る事になっている。
信康達の位置からは、あまりに遠いので顔は見る事が出来ない距離であった。
「今年はヴォノス王陛下だけではなく、ギネヴィーナ殿下とアリスフィール殿下も天覧を賜った。両卿は国王陛下並びに王族の皆様方に、無様な姿を決して見せぬ様に」
審判がそう言って振り返り天覧席に向かって拝礼したので、信康達も天覧席に向かって拝礼した。
(陛下だけではなくギネヴィーナもアリスも観ているのか。そう言えば、見に来てくれると言っていたな)
わざわざ見に来てくれた事を、信康は内心では嬉しく思っていた。
審判が顔を上げて、信康達を見る。
「両卿、所定の位置へ」
審判にそう言われて、信康達は柵の中に入り位置に着いた。
信康達が位置に着いたのを確認した。
「では、これより豊穣天覧会馬上槍試合トーナメントの個人戦ジョスト部門の決勝戦を開始する。始め!」
審判が手を上げると、直ぐに開始の合図がなった。
信康達はその音がして、直ぐに馬を駆けさせた。
二人はあまり速く駆けさせていない。
速くすると、馬の体力も無くなるのが早い。
二人共に長期戦になると予想して、馬の体力を少しでも残そうと判断したからだ。
そして、二人が槍の間合い入った。
(最初は譲って、次で勝負だ)
そう考えた信康は限り限りまで、自由自在を突き出さなかった。
そうこうしていると、シーリアが馬上槍ランスを突き出した。
信康も少し遅れて、自由自在を突き出した。
その結果。
シーリアの馬上槍は信康の胴体に当たり、信康の自由自在はシーリアの左腕に当たった。
「「ぐっ!」」
二人の当たった場所は違えど、衝撃は走る。
その衝撃を堪えて、二人はそのまま馬を駆けさせた。
二人が柵の端に着くと、観客席から歓声が上がった。
左腕に当てた信康は十点。対するシーリアは胴体に当てたので五十点。
点数にかなりの開きが出来た。
試合会場の中央にある掲示板に、信康達の名前の横に点数が書かれた。
しかし信康は一切、気にした感じは無かった。
(最初は捨てる心算だったからな。寧ろ儲けた位だ。勝負は次だ)
信康は最初の位置に戻る。
その際、シーリアも隣を通った。
シーリアは兜越しに信康を見て、ポツリと零した。
「今度は負けないわ」
その言葉には色々な感情が乗っていた。
勝利への渇望。自分を負かした相手に勝つ事を望む気持ち。そして、それにより自分が更に強くなるという願望。
言葉一つなのに、何故か重みがあった。
(これは手を抜いて負けたら、怒られると言うか怨まれそうだな)
そんな事を思いながら、信康は定位置に戻る。
二人が位置に着いたので、審判が手を上げた。すると、開始の合図が響いた。
二人は馬を駆けさせた。
今度は、信康の方が若干速かった。
その差は、二人が槍の間合いに入ると分かった。
信康が自由自在を突き出すと、シーリアの胴体に当たったが、シーリアの突撃槍の腕に当たる。
これにより、信康は六十点。シーリアは六十点になった。
両者同点となった事で、観客席から歓声が上がった。
これで勝負がどう転ぶか分からなくなったからだ。
信康達は元の位置に戻った。
位置に着く前に、深く呼吸をした。
勝っても負けても次で最後。
なので、全力を出して悔いは残さないようにしようと思っていた。
(・・・・・・よしっ)
気合を入れた信康は位置に着いた。
それを見た審判は、手を上げる。そして、開始の合図が鳴った。
「「っ!」」
その瞬間、二人は駆け出した。
音が鳴ったと同時に駆け出したので、どちらかが遅れたという事はない。
後はどちらが早く自分の得物を突き出し、相手に当てるかだけだ。
二人の馬は蹄が地面を蹴る音を立てながら駆ける。
それにより、二人の距離が縮まって行く。
今にも互いの得物が当たるのではと思い、観客席で観ている観客達は拳を握りながら試合を観ている。
やがて二人はが得物の間合いに入った瞬間。
二人は同時に得物を突き出した。
ほぼ同じタイミングで突き出された槍。
穂先はそのまま突き出されて行く。その突き出された自由自在の矛先には、シーリアの馬上槍ランスがあった。
お互いの槍の穂先がぶつかった。その瞬間。
パキイイイィィィン!!!
そんな甲高い音を立てて、二人の槍が砕けた。
信康達はそのまま馬を駆けさせて、柵の端まで来ると馬の足を止めた。
自分が持っていた、自由自在を見る。
穂先から棒の部分まで、見事に砕けていた。
(ここまで見事に砕けるとはな。もしかして、師匠の呪いか?)
信康は残骸となった自由自在を見ながら、そんな事を思っている間も審判達が集まった。
槍を変えてもう一戦するべきか、それとも今までの獲得した点数で判定するべきか。
話し合いの結果、どちらにするべきか決まらなかった。其処で豊穣天覧会である事から、此処はヴォノス王に決めて頂こうと言う話に決まった。




