第369話
駆け出す信康達。
そして、馬の嘶きが聞こえた房に着いた。
信康は馬が繋がれている馬房を覗き込んだ。
すると一頭の馬が、泡を吹きながら痙攣していた。
口から泡を吹き出しながら、苦しそうな顔をする馬。
「これは何か盛られたみたいね。急いで解毒しないとっ!」
ステラは馬の症状から何かを盛られたのだと直ぐに理解した。
これは眠っている職員を叩き起こして、処置をしなければ手遅れになる。
そう判断したステラは慌てて、職員が寝ている所に向かった。
「・・・・・・・」
信康は馬が繋がれている馬房の前で、何とも言えない顔で佇んでいた。
(・・・・・・これは、想定外だな)
信康からしたら自分かリカルドの馬が狙われるかもしれないと思い、その対策は済ませていた。
しかしこの状況は想定外であった。
「まさか、知らない馬に何かを盛られるとは思わなかった」
信康が現在居る馬房の中に居る馬は、ブルーサンダーではなかった。
しかも青毛ではなく白馬だ。
信康は何で間違えたんだろうと不思議に思った。
其処が気になり、信康は馬の房に掛かっているプレートを見た。
「ブルースサンダー?」
そのプレートに掛かれている名前を見てもしかして名前を見て間違えたのかと思ったが、それは無いなと直ぐに一笑に付した。
馬の毛の色が似ているというのであればまだ分かる。しかしこのブルースサンダーは白馬で、ブルーサンダーは青毛だ。
これで間違えるなんて、余程の馬鹿か間抜けだ。
因みに信康が乗るブルーサンダーは、そのブルースサンダーの隣の馬房で朝食の草を食べていた。
一応グラウェンはどうだろうかと思い見てみた。
「ブルルルルルル・・・・・・」
グラウェンは嘶いていた。
と言うよりも朝食に置かれている草を、訝しそうに見ている。
「警戒心が思うより強かったか。何もしなくても、自力で大丈夫だったかもな」
信康は問題無いと目視で確認出来てホッとした。
そして、直ぐに顔を引き締めた。
「・・・・・・シキブ」
信康がシキブを呼ぶと、信康の影からシキブが姿を人型になって現れた。
自分達が居ない時に、馬が危険な目に遭うかもしれないと思い、信康はシキブの分身体を配備していた。
「はい。御主人様」
「この間抜けな犯人はどうした?」
「連中でしたら捕まえて、私の体内なかに」
シキブの話を聞いて複数犯だったかと思いつつ、出す様に命じた。
「はっ」
シキブの身体から、男性三人が縛られた状態で出て来た。
「うん? こいつ等は・・・」
信康はその三人の顔を見て、何か思い出したようだ。
「お前等、前にレズリーを襲ったチンピラ三人じゃねえかっ!」
三人は気を失っているのか、信康の声を聞いても起きる気配はない。
「何で、こいつ等が?」
これはもしかして、カルノーが加担しているのかと思った。
しかしそう決め付けるのは、流石に早計だと考え直した。そして直接話を聞いた方が良いなと思った信康は、リーダー格の男性の頬を叩いた。
「ほれ、起きろ。朝だぞっ」
軽めに叩いたが頭を揺さぶられた事で、男性も流石に目を覚ましたようだ。
「あ、ああ~・・・って、何処だ? 此処は?」
「おはよう」
「てめえは、あの時の傭兵じゃねえかっ。何で、此処に居る!?」
「それはこっちの台詞だ。俺は馬上槍試合の試合に出るから不思議じゃないが、選手でもないお前等が居る方がおかしいだろうが」
「ぐうっ」
返す言葉が無いのか、男性は唸るだけで何も言えない。
そうしていると、バタバタと複数の足音が聞こえて来た。
どうやら、ステラが職員を連れて来たみたいだ。
「ノブヤスっ、連れて来たわよ。って、其処の人達は?」
「馬に毒か薬を盛って捕まった、間抜けな犯人達だ」
信康が指差しながら言うと、男性は身体を揺すりながら抗議した。
「違うっ! 俺達は関わっていない。冤罪だ!!」
男性が身体を揺らした事で、他の二人も目を覚まして今の自分の状況を見て驚いた。
「どっ、どうなってんだこりゃっ!?」
「えっと、確かは俺達は・・・あのリカルドが乗るとか言う馬の食事に薬を振りかけて、それで中々食べようとしないから食べるのを確認しようと待っていたら、突然視界が暗くなって」
男性の一人が、経緯を思い出しながら呟いていた。
「ば、馬鹿野郎っ!?」
リーダー格の男性が叫ぶと、呟いていた男性はあっという顔をした。
「今の聞いたか?」
「ええ、バッチリと」
ステラが頷いたの見て、信康は職員達を見る。
職員達も同意とばかりに頷いた。
「さて、こんなに証人が居るんだ。もう言い逃れは出来ないぞ」
信康がそう言うと、男性達は首をガクッと下げた。
「だが、俺自身は被害といえる被害が無い。だから俺は許しても良いと思う」
信康がそう言うので、ステラ達は何を言っているのみたいな顔をする。
反対に男性達は顔を上げて、嬉しそうに笑う。
「ほ、本当か!?」
「ああ、俺はな。だが、条件がある」
「じょ、条件?」
男性達は緊張した面持ちをすると、信康は依頼者の名前を自白する様に要求した。
「話したら、本当に許してくれるんだろうな?」
「ああ、俺はな。お前等が信ずるものでも神でも何でも誓ってやる。だから、名前を言え」
信康がそう尋ねると、男性達はお互いの顔を見合わせて頷いた。
「・・・・・・昨日の夜。青の満月って酒場で酒を飲んでいたら、第三騎士団の奴等が俺達に依頼して来たんだよ」
「第三騎士団?」
「ああ、あそこね。また、面倒な事をするわね」
ステラは溜め息を吐いた。
「そいつらの名前は分かるか?」
「ああ、一人だけなら」
こういう陰謀の場合は名前を出さないのではと思いあまり期待していなかったが、一人とは言え名前が分かるとは思わなかった。
「そうか。そいつの名前は?」
「その一緒に来た奴等の中で一番偉そうにしていた奴で、他の奴等からディエゴ中隊長って呼ばれていたぜ」
「ディエゴだと?」
その名前は聞き覚えがあった。
リカルドの次兄で信康が馬上槍試合に参加する事になった事件を起こした人物の名前であった。
「はっ、兄貴が弟を陥れるか。骨肉の争いって奴は、何処でもドロドロしてるなっ」
信康は吐き捨てる様に言う。




