第361話
ステラが意識が飛びかけているのを見た信康は駆け出していく」
「・・・・・・はっ⁉」
「隙有りだ」
ステラが持つ馬上槍を 信康は蹴飛ばした。
更に隣に落ちていた、愛剣も蹴飛ばして遠ざける。
「さて、負けたと認めるか? それとも、まだ続けるか?」
信康はそう訊きながら、爪を琵琶の弦に当てる。
それは、何時でも弾く事が出来ると言うのと同じであった。
「・・・・・・負けたわ」
どんな方法で意識を飛び仕掛けたのか分からないが、もう敵わないと分かっていた。
なので、素直に負けを認めたステラ。
「そうか。なら良い」
信康は爪を琵琶の弦から離した。
そして黄乾闥鬼之鎧を解除して、鬼鎧の魔剣を納刀した。
「ねぇ・・・どうして私は、意識が飛んだの? それも音が原因かしら?」
「その通りだ。あんたはもう察してると思うが、あの黄乾闥鬼之鎧の能力は音を操る事が出来るんだよ」
信康は其処まで言うと、更に解説を続ける。
「音の強弱で衝撃波を生み出すだけでは、芸では無いのさ。更にその音で、相手の五感を狂わせる事も可能なんだ」
「甘い匂いがしたのは、どうして?」
「あれは、黄乾闥鬼之鎧から噴き出す香気だよ」
ステラは信康の話を聞いて、得物の間合いの範囲外から徹底的に攻撃されたのだと理解した。
「じゃあ、約束を果たさせて貰うぞ」
信康は厭らしい笑みを浮かべながら、ステラに近付く。信康の様子を見て、ステラは冷や汗を掻き始めた。
「そ、それなんだけど、ちょっとだけ良いかしら?」
「何だ?」
「やっぱりするのなら、処女だから普通に寝台でしたいな~と思うのだけど・・・」
そう言って自身の要望を伝えて来るステラに、信康は不敵な笑みを浮かべて舌舐めずりをした。
「ステラ。此処は一つ、逆転の発想をするべきだぞ。寝台でする機会など、この先幾等でもある。初めての経験だからこそ、こう言った普通じゃない場所でやった方が良いんだ。その方がより思い出として、記憶に残るからな」
「わ、私は初めてだからこそちゃんしたいんだけどなぁ〜」
「往生際が悪いな。諦めろ」
信康がそう言っても、不満そうな顔をするステラ。
そんな顔を見て、信康は溜め息を吐いた。
「もう面倒だ。大人しくしろ」
「え、え、ちょ、まっ」
ステラは何か言っていたが、信康は無視して覆いかぶさった。
そして、暫くすると嬌声が聞こえて来た。
同じ頃。
カマリッデダル伯爵邸では、密かに動きがあった。
「・・・練習場の中の様子はどうだ?」
カマリッデダル伯爵邸の使用人の中で、尤も地位が高いと思われる初老の使用人が、別の使用人にそう訊ねた。
「はい、執事長。密かに侍女に確認に行かせた所、御二人は仲睦まじくしている様子との事です」
「そうかっ。それは良かったっ」
執事長と呼ばれた使用人は、胸ポケットからハンカチを取り出して眼尻を拭った。
「グスっ・・・これで漸く、ステラ御嬢様にも御相手が出来たか」
「はい。大変喜ばしい事です」
「うむっ。ステラ御嬢様が生まれて二十四年。私よりも強い者しか夫にしないと言って聞かず、今日までずっっっと御一人であった」
執事長は其処まで言うと、ハンカチで鼻を擤んでいた。
「よもやこのままずっっと御一人なのかと心配だったが・・・漸く、待ち望んだ御相手と巡り合えたか。これであの世におられる、御館様や奥方様達に待ち望んだ吉報を墓前に御報告出来るぞ」
執事長はそう言い終えると、泣き崩れそうになっていた。
「・・・しかしレヴァシュテイン卿は聖騎士の称号を持っているとは言え、出自は外国人の傭兵です。大丈夫ですかね?」
「確かな実績があり、それにより聖騎士と認められているのだ。出自などこの際、どうでも良い。というよりも、このまま行かず後家と言われるよりも遥かにマシだ!」
「それもそうですね」
「これは早速、シャルカール様に御連絡致さねばっ!」
執事長はそう言うと、急いで手紙を認め始めた。




