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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第345話

 オストルの案内でその馬上槍試合を何度も優勝経験事がある女性に、信康達は急遽会いに行く事にした。


 しかし実際に会いに行く前に、信康は許可を貰うべくヘルムートに会って伺いを立てた。


『勿論、良いぞ。お前等二人共、外泊届を忘れずに出しとけよ。まだ期限があるとは言え、準備不足など許されんからな。あの馬鹿共を完膚無きまで叩き潰して、第三騎士団の面目を丸潰れにしてやれ。良いなっ!』


 ヘルムートがそう言って承諾してくれたので信康とリカルドはは準備を整えた後に、中年女性の管理人に外泊届を提出してから傭兵部隊の兵舎を出てファンナ地区を目指して歩いていた。


 面々は案内役のオストルを筆頭に、信康とリカルド。そしてその女性に会ってみたいと言う理由だけで、ヒルダレイアとカインが同行していた。


 これは余談だがバーンも信康達に同行しようとしていたのだが、外泊届をヘルムートに破り捨てられ鉄拳制裁を受けていた。


 ヒルダレイアとカイン曰く、無断外泊の罰が終わっていないので当分は外出も外泊も禁止なのだそうだ。因みに二人も当事者では無いので、外出届しか提出していない。


「オストル。お前が言ってる女性には、弟子とか居たりするのか?」


「勿論居るよ。これがまた、粒揃いでね。あの第四騎士団団長フェリビアも、愛弟子の一人なんだよ」


「へぇ、あの『槍の姫将ランス・ザ・プリンセス』の師匠なんだ」


 信康はフェリビアの名前が出たので、フェリビアの事を思い出した。


 パリストーレ平原の戦いで一時期は同じ戦場で共闘した程度の関係でしか無く、直接戦う姿も見てすらいないがそれでもかなり強いと言う事は分かる。


 その強さの一端がその師匠に師事した事で得たのかと思うと、余計に指導を受けた方が良いなとおもった信康。


「そう言えば、その女性の名前は聞いていなかったな」


「ああ、うん。ステラ・フォン・カマリッデダルと言う名前だよ」


 オストルから聞いたステラの名前を、信康は脳裏に刻み込んだ後に爵位の方も尋ねてみた。


「ステラは子爵位を持つ貴族だよ。因みに弟の団長は当主様だから、ステラより一つ上の伯爵なんだ」


「確かカマリッデダル伯爵家は、プヨ五大貴族のユキビータス伯爵家の筆頭分家だったりする名門ですよね? 宗家当主と爵位が同じだなんて、凄いとしか言えないです」


 ヒルダレイアは目をキラキラさせながら、オストルの話を聞いていた。


 信康とリカルドとカインは黙って二人の話を聞いていたが、不意にカインがリカルドの肩を軽く叩いた。


「リカルド、一つ聞いて良いか?」


「何だい? カイン」


「プヨ五大貴族は聞いた事はあるが、詳しくは知らないんだ。良かったら、教えてくれないか?」


 カインがリカルドにプヨ五大貴族について解説を求めると、リカルドは直ぐに承諾した。


「プヨ五大貴族と言うのは簡単に言えば、数ある貴族の中でも代表される五つの大名門貴族の事だよ。プヨ建国に貢献したって不朽の功績を持っているんだけど・・・其処を細かく説明すると歴史を遡らなきゃいけないから、悪いけど割愛させてくれ」


「それだったら、別に問題は無いな。その五大貴族の家名って分かるか?」


「ああ、勿論。プヨ人だったら知らないのは赤ん坊位だよ。先ずは五大貴族筆頭のアーダーベルト公爵家。プヨ貴族の頂点に立つこの大名門の現当主であるビクシス様は、王室議会の議長をしている人物なんだ。齢八十になろうとしているのに矍鑠とした傑物で、その政治的手腕から『老公』の異名を持っているんだよ」


「アーダーべルト公爵家か」


 信康はその家名を聞いて、筆頭分家であるヒルハイム侯爵家の事を思い出した。


(・・・ふっ。まだ二人しか会ってないが、碌な奴は居なかったな)


 信康はそう思いつつ、フォルテスとザボニーの事を思い出していた。


(まぁもう過去の人間だけどな。片や一人は戦死。片や一人は俺が嵌めた国家反逆罪の罪で、何時死刑が執行されるか分からん状態なのだから)


 そんな事を思い出している間にも、リカルドの説明は続いた。


「次は次席のイースターニュ公爵家。この家はプヨの海運を一手に担っている、プヨ南部貴族の盟主とされる名門だよ。現当主のグランド様は陸上に居るよりも船上に居る方が多いと言われる位に、船に乗っている事が多い事から『碧海公』の異名を持っているんだ」


「う~ん。話を聞いていると、何か貴族と言うよりも海賊の方が合っている気がするなぁ」


「ま、まぁ、海の男ってそんなって聞いた事があるから、仕方がないんじゃないかな」


 信康は思っている事を口に出すと、リカルドは苦笑しながら訂正はしなかった。


「まぁ良いか。それで次は?」


 信康は続きが気になり、次を促した。


「ああ、次は第三席のクルシャシス辺境伯家だ。この家はプヨ北部貴族の盟主を司る名門なんだけど・・・現当主とその一族は全て、城郭都市アグレブに居るんだ」


「アグレブって確か、真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)に奪われた都市だったな」


「そうなんだ。それにしても難攻不落と名高いあのアグレブを、真紅騎士団(クリムゾン・ナイツ)はどうやって落としたんだろうね」


 リカルドは話しつつ、不思議そうに首を傾げた。


「この世に不落の城塞なんて存在しない。ぼさっとしてないで、次行け次」


「ああ、そうだね。次は第四席のレダイム侯爵家。この家はプヨ東部貴族の盟主を担っているよ。レダイム侯爵家はプヨ全土にある鉱山の八割以上を所有している事から、プヨ貴族の中で一番裕福の家って言われているんだ」


「そうなのか・・・そう言えばレダイム侯爵家って確か、鋼鉄槍兵団の団長がそんな名前だったな」


「鋭いね、カイン。その通りだよ。アルディラ・フォル・レダイム様はレダイム侯爵家の当主代理なんだ」


 リカルドの解説を聞いて、信康達は違和感を感じて首を傾げた。


「本当はアルディラ様は別の家に嫁に行ったのだけど、レダイム侯爵家の前当主でアルディラ様の兄夫婦が不幸にも事故で亡くなっちゃったんだよ。その遺児の嫡子がまだ成人していないから、それまでの間は当主代理と言う事で実家に戻って来たんだって」


 信康はリカルドの解説を聞いて驚きながらも、一度レダイム侯爵家を出たアルディラが復帰する事に周囲から不満は無かったのか疑問に思った。


「当主代理になる前に嫁いだ旦那が亡くなったから、文句も出なかったって聞いているよ」


「嘘だろ・・・そいつはまた、不幸が続くな」


「確かにね。で、最後の第五席のユキビータス伯爵家。この家はプヨ西部貴族の盟主をしている名門だね。この家で有名なのは、聖騎士を最も多く排出した家って事かな」


「聖騎士って、そう簡単になれるものなのか?」


「そんな訳無いだろ? 何せなるにしても、我が国が信仰している神々の大司教以上の位階を持った人の祝福を得ないと名乗れないからね。因みに言うと大司教から祝福されて聖騎士になる場合は、六大神の従属神の場合が常だよ」


 リカルドの解説を聞いて各教団の聖女は、実質的に大司教以上と信康は判断してボソッと呟いた。


「大司教どころか、教皇と同等かそれ以上だよ。聖女って言うのは、神の代行者って言われている程の存在なんだから」


「そうなのか?」


 リカルドからしたら名誉な事なのだろうが、信康からしたら聖女って凄いんだなとしか思っていない。


「あのさ、もっとこうありがたいと思った方が良いと思うよ。ノブヤス」


「凄い事は分かるが、今一つ実感がなぁ。他の国に居た時も、あいつ等と似た様な女達と知り合ってるし」


 信康の故郷である大和皇国では、聖女という存在が居なかった。そして傭兵生活の中でその宗教における特別な女性と、何人も交流を果たしている事実が更に聖女の存在感を薄めていた。


 そんな信康の反応を見て、リカルドは溜め息を吐いた。


「はは、ノブヤスって凄いねっ」


 オストルが笑いながら、そんな事を言う。


 何か釈然としないと思いながらその後も、信康達は歩きながら話を続ける。


「おっと、此処だ。はい、到ちゃ~~~く」


 オストルはカマリッデダル伯爵邸の前に着くとそう言うので、信康達はそのカマリッデダル伯爵邸を見た。


 信康達を出迎えるのは、立派な鉄柵がついている門。その門の前には、警備兵も立証していた。


 その奥には傭兵部隊の兵舎に匹敵する、大きさや広さがありそうな屋敷であった。


「此処か」


「うん。此処だよ。じゃあ、早速行こうか」


 オストルは門の前に居る、警備兵の所に行く。


「こんにちわ~」


「うん? おお、これはオストル様。もしやステラ御嬢様に御会いに?」


「そうだよ。通してくれるかな?」


「はっ、お話は伺っております。少々お待ちを」


 警備兵がオストル達に背中を向けて移動すると、素早く門を開門してくれた。


「どうぞ」


 そして手で入る様に促すと、オストルが門の中へと入って行った。


「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」


 信康達は入って良いのか戸惑った。


「何をしているのさ? さっさと入って来なよっ」


 オストルが門の中で手招きして来たので、信康達は警備兵の方を確認する。すると警備兵は一礼してから手で入る様に促したので、信康達も答礼してから入る事にした。


 門の中に入り門から玄関までの間にある庭を見ながら、先を歩くオストルの後に続く。


「綺麗に整った庭だな」


「そうだね。こう言うのにステラは五月蝿いし、拘る人だからね」


 信康が庭を見つつそう言っていると、オストルは前を見ながら答えた。


「先刻さっきから名前で呼んでいるが、年上だし上官で団長の姉君なんだろ? そんな呼び捨てして大丈夫か?」


「良いんだよ。僕はステラとは家族ぐるみで付き合いがあるから。それに親しい人にだけ限定されるけど、仲良くなった人からは名前で呼ばれた方が気楽だから良いって普段から言っているよ」


 信康はオストルの話を聞いて、ステラは気さくな女性なのだと思った。


「でもまぁ勘違いして親しくもないのに馴れ馴れしくしたら、良くて殴られるか最悪槍で身体に風穴が空くから気を付けた方が良いね。気さくだけどそんだけ勝ち気で腕がもの凄く立つから、妻にでもしようもんなら絶対に尻を敷かれるって敬遠されててね。このままだと嫁の行き手が無くなって、行かず後家になるってシャルや他のみーんなが口を揃えてそう言って嘆いているよ。それと自分より強い男にしか嫁に行かないって宣言している所為で、ステラに縁談の話も殆ど来なくてね。数少ない縁談が来たとしても、大抵の場合相手を泣かせて帰してるんだ。本当に困ったもんだよ」


 オストルが茶化す様にそう言うが、信康は思わず寒気を覚えて本能的にオストルから離れた。


「ふ~ん。誰が行かず後家ですって?」


 ヒルダレイアではない女性の声が聞こえたので、信康達は声が聞こえた方に顔を向ける。


 庭を弄っていたのか、手に剪定鋏を持ちながら青筋と笑顔を浮かべる女性が居た。


 女性にしては身長は高く、栗色の長髪を作業の妨げにならない様にポニーテールにしていた。


 海を連想させる碧眼。見目麗しい顔立ち。右目の下に泣き黒子が、チャームポイントになっていた。


 豊満な胸。くびれた腰。ボンっと主張する尻。


 作業中の為か、服も地味で薄汚れていたシャツにパンツを穿いていた。


「で? 随分と言いたい放題言ってくれたわね? ねぇオストル?」


「は、ははは・・・・・・」


 オストルを笑顔で見る女性は腰に手を当てながら訊ねるが、オストルは乾いた笑みを浮かべた。


「オストル。この女性が」


「ああ、そうだよ。こちらの方がステラ・フォン・カマリッデダルだよっ」


 オストルは手で示しながら、信康達に紹介した。

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