第340話
プヨ王宮の待合室。
式典を終えた信康達は、プヨ王宮の待合室に居た。
信康達は何とも言えない顔で、椅子に持たれていた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
二人共、言葉を出せない程に疲れていた。
叙勲の儀が終了するとヴォノス王は団員達を連れて謁見の間から出て行き、続いてルティシア達も謁見の間から出て行った。
出て行く際に空と風の神ウラモイトールンの聖女が、信康を見てウィンクし来た。
正直に言って、お前は誰だと聞きたかった。信康はその後を追い掛けたかったのだが、周囲に居た貴族や貴婦人などが信康達に詰め寄って来た。
全員が口々に「聖騎士就任おめでとう」と言って祝言を贈って来た。
しかしあまりに一斉にかつ一気に来られたので、その対応にてんてこ舞いであった。
其処へ近衛師団の団員達が間にやって来て、信康と貴族達の間に割り込んで来てくれた。
信康達はその隙を付いて、謁見の間から脱出する事に成功した。
そして待合室まで連れて来てくれたのだが、この後に昼過ぎまで行われる祝賀会に参加する様に言われて思わずげんなりするのだった。
「・・・・・・なぁ、リカルド」
「なんだい?」
「あの貴族達の騒ぎっぷりを見た限り、俺達の騎士位は普通じゃないよな?」
信康は貴族達の様子を見て、やはり自分達に叙勲された騎士位は通常の物ではないと察したみたいだ。
尤も冷静に考えれば子孫に世襲出来ない一世代の騎士位で貴族達が群がって来る事は先ず有り得ないので、信康が異常性に気付かない筈が無かったのだが。
「そりゃ普通な訳がないじゃないか。まさか聖騎士に叙勲されるとは思わなかったな」
信康は聖騎士と言う単語に聞き覚えが無いので、リカルドに説明を求めた。
「あっ、そうか。ノブヤスは知らないよね。そうだな・・・簡単に言えば、騎士の最上位の称号って言えば良いのかな」
「最上位?」
「そうだよ。プヨで受勲される騎士位は下から従騎士、準騎士、正騎士だ。でも更にその一つ上に、聖騎士があると考えれば良いんだよ」
信康はリカルドの説明を聞いて、聖騎士位が騎士位の最上位階級なのだと理解した。
「言っとくがその肝心の聖騎士の称号だが、貰うのはかなり難しいぞ。武功よりもプヨが信仰している、神の加護を受ける事が大事だ」
「神の加護?」
「ああ。最初に六大神教の聖女様方が、陛下の宝剣に口付けしただろう? あれが加護だ。聖女は各宗派の、神の代行者だからな。彼女等の口付けが、神の加護の証明と言う事だ」
信康はクラウディア達がヴォノス王の宝剣に、口付けをした理由を理解した。
「しかし、お前等は凄いな。六大神全部の御加護を得るとはな」
ヘルムートの一言を聞いても、信康はピンと来なかった。
「それはお前・・・我が国の歴史の中でも、聖騎士になった奴は沢山居る。だが大体どいつもこいつも、六大神の従属神の加護が精々なんだぞ。六大神の加護なんて、その一柱から授けられるだけでも快挙とか偉業と言えるだろうな」
「じゃあ六大神全てから加護を受けた聖騎士って、少ないんですか?」
「ああ、そうだ。二柱や三柱からなら、まだ可能性はある。だが六大神全てから加護を授かった聖騎士なんぞ、プヨの長い歴史を引っ繰り返しても片手の指で数える位の人数しか居ないだろうな。因みに我が国では聖騎士の称号を受けた者は皆、種族や国籍に構わず、騎士名鑑に名を刻まれるからな」
「・・・・・・騎士名鑑?」
「我が国で功績を立てた者だけが、名を刻まれる名鑑だよ。因みに俺も刻まれているからな」
「へいへい。それは凄いですね(おかしいな。だったら何故ヘルムート総隊長は名前にフォンが無いんだろ?・・・訳有りか)」
「はは、凄いと思いますよ。普通に」
信康は心中でそう疑問に思っていると、リカルドは感心しながら答えた。
思ったよりも、冷たい反応にヘルムートは不満そうな顔をした。
そんなヘルムートを無視して、信康はリカルドに尋ねた。
「何だい?」
「あの空と風の神ウラモイトールンと大地と緑の神マーフィアの聖女、名前とか知っているか?」
「ああ、勿論知っているよ。と言うか名前付きの姿絵とか露店で売られているけど、知らないのか?」
「美女に興味はあるが、宗教に関心は無いよ」
正直に言って聖女と言われても、何それという思いしかない信康。そんな信康の態度を見て、リカルドは苦笑するしかない。
「はははっ。ノブヤスらしいね・・・先ずは空と風の神ウラモイトールンの聖女だけど、名前はシャナレイ・フォン・ドゥ・ヨースティンだよ。年齢は俺よりも一つ上だね。見た目で分かるだろうけど、清楚でお淑やかな女性だよ」
「清楚でお淑やかな女性、ね」
そう言いながら、信康は内心で全くの真逆だなと思った。
「名前にフォンが付いていると言う事は、貴族か?」
「ああ、そうだ。伯爵だったかな? 貴族出の聖女って感じだね」
信康は話を聞きながら、内心ではあの淫乱が貴族とかと嘘だろうと思っていた。
(と言うよりも、あんな淫乱が聖女とか有りなのか?・・・・・・超実力主義って事にしとこう)
信康は疲れた様子で、そう自己完結させた。
「もう一人が大地と緑の神マーフィアの聖女。名前をエストーラ・ドゥ・ベェルスティア。年齢は聖女の中で最年長の二十五歳。聖女の中で一番その、何と言うか・・・破天荒?」
リカルドが困った様子で言っているのを見て、信康も困惑した。
「いや、俺も詳しくは知らないけど・・・酒を飲んで説法の時間をボイコットしたとか、賭博が大好きで煙草をふかしながら賭博に興じるとか言う話を聞くね」
「成程、破戒僧か。いや、この場合は破戒聖女か」
「「はかいそう?」」
「東洋圏では素行不良な聖職者の事を、そう言うんだよ」
「ああ、成程。言い得て妙だね」
リカルドが納得していると、ヘルムートはハッとした様子で二人に話し掛けた。
「言い忘れていたが、聖騎士になると自動的に階級は大佐に昇進になる。これでお前等は俺と同等の階級になった訳だが、序列と役職は俺が上だから其辺はちゃんと守るんだぞ」
「へぇ。騎士位一つで階級が上がるんですか?」
信康が質問すると、ヘルムートとリカルドは若干呆れた様子で信康の為に解説を始めてくれた。
二人曰く聖騎士が大佐となり、騎士位で唯一佐官に自動的に昇進出来る称号だと言う。
因みに正騎士位を得ると、中尉になれる。そして準騎士は准尉であり、従騎士は曹長になれると言う。
しかし注意しなければならないのは騎士位の称号を持っているからと言って、自動的にプヨ王国軍の階級を得て士官に成れる訳では無いそうだ。
二人曰く頻繁に勘違いされるのだが、この特権はプヨ王国軍に就職出来て初めてその特権が行使出来ると言う事だ。
仮に騎士位を持っていようとプヨ王国軍に軍籍が無ければ、それは唯の名誉ある称号に過ぎないと言うのであった。
信康は二人の話を聞いて感心していると、不意に扉がノックされた。
「ルティシアです。こちらにノブヤスさん達が居ると聞いて来ました。入っても宜しいですか?」
信康は返事をする前に、ヘルムート達を見た。ヘルムート達は頷いたので、信康はルティシアに入室を許可した。
「では、失礼します」
ルティシアは扉を開けると待合室に入室すると、その後に五人程続けて入室して来た。
信康達は驚きながら、入って来た女性陣を見ていた。何故なら待合室に入室して来たのは先刻、謁見の間で神の祝福を与えてくれた聖女達であった。




