第337話
「あっはは~おにいさん~ようへいなんだ~きゃっははは」
「ああ、そうだ」
「えへへよくみたらおにいさん~けっこうびけいじゃん~ようへいなんかやめて~わたしのひもになんない~?」
「生憎だったな。俺は現在の生活が嫌いじゃない。余所を当たれ」
「つれないな~もっとかんがえても~いいじゃん~」
美女は気持ち良さそうに酔っている。
信康が頼んだ麦酒を飲み終えると、次々に酒を頼んでは飲み干していた。今は青い月で一番酒精が強いと言う火酒をカパカパ開けて、それをゴクゴクと水みたいに飲んでいた。
信康は美女が酒を飲む様子を見ながら、美女に付き合って同じ火酒を飲んでいた。
(酒精が強いな・・・しかしこいつ、鋼人族の血でも引いているのか?)
そう思える位に、美女は酒を飲んでいた。その飲みっぷりは、周囲の客達の注目を集める程だ。
因みに鋼人族は全種族随一の酒豪で知られ、酒に関する逸話が最も多い種族としてしられている。その逸話の中には酒を産湯にしている事や、生まれ落ちた瞬間から乳よりも酒を強請ったと言った逸話がある。
女性の酒を飲む速度を見て、咄嗟にそう思う信康。
この勢いだとこの美女が、青の満月の酒を飲み尽くすのではとすら思われた。
「お客さん。飲むのは良いが、これはあるんだろうな?」
店長が懸念して美女に、ジェスチャーでお金があるのかと訊いて来た。
「それはもちろん。あはは・・・・・・あれ?」
美女が反射的にポケットを探ったが、少し顔が険しくなったのを信康は見逃さなかった。
そしてポケットの中を弄り更にポケットの中身を出したが、財布らしい物がない事が分かるだけとなった。
美女は酔いで赤らめた顔から、青褪めた顔を変化した。
その美女の様子を見て店長も店内に居る店員や客達も、険しい目で美女を見る。
まさか、無銭飲食か? と言わんばかりの冷たい目だ。
美女もこれは不味いと思いどうにか保証になる物を探すが、それらしい物は生憎と所持していなかった。
このままでは警備部隊に突き出されるか、もしくは身包みを剥がされるのではと思われた。
「はぁ・・・店主、お勘定。俺と」
信康は一度言葉を区切って、美女を指差した。
「こいつの分も纏めて頼むわ」
信康がそう言うのを聞いて、青の満月の店内に居る者達は全員驚いた顔をした。
「良いのか? 見ず知らずの女だろう?」
「まぁ、袖振り合うも多生の縁って奴だ。一人で酒を飲む所を、多少は楽しい時間にさせて貰ったからな。それに警備部隊に突き出されるのを見たら、思わず酔いが覚めそうだ。と言う訳で、幾等だ?」
「・・・・・・あんたとその姉ちゃんのを合わせて、金貨五枚と大銀貨五枚と銀貨七枚と大銅貨四枚と銅貨八枚と鉄貨六枚になる」
信康は店長に言われた通りの金額である、金貨五枚と大銀貨五枚と銀貨七枚と大銅貨四枚と銅貨八枚と鉄貨六枚を財布から出して店長に渡した。
「一応聞いて良いか? 俺の代金は幾等だ?」
「あんたは、大銀貨三枚と大銅貨二枚と銅貨六枚と鉄貨四枚だ」
「そうか。ありがとう」
信康はそう答えてから、美女の手を取った。
「ほら、もう十分飲んだろ? さっさと行くぞ」
「あ、ああ、うん・・・・・・」
信康はその美女と共に、青の満月を退店して行った。
青の満月を出た信康達は、そのまま一緒に歩いた。
「わるいわね~このおかえしはちゃんとするから~」
「はいはい。気長に待ってるよ」
酔っ払いの言う事なので、信康は全く期待しなかった。
「じゃあ、もういっけん、いってみよう~」
「まだ、飲むのか? というか、その金は」
「勿論、おにいさんがだすの~」
「はぁ、まぁいいか」
信康は溜息を吐いた後、酔っぱらった女性に付いていく事にした。




