表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

342/418

第336話

 傭兵部隊の兵舎に戻った信康は、先ずはルノワに会う事にした。


 そのルノワを探していると、偶然にもジーンに出会った。


 ジーンは前にルノワとは同室の同居人だった事もあり、公私共に親しくしている。なのでジーンならばルノワが何処に居るか知っているのではと思い、信康はジーンに声を掛けた。


「よぅ、ジーン」


「ああ、ノブヤスか。どうした?」


「実はな、ルノワを探しているんだが・・・何処に居るか知っているか?」


「ルノワを? ルノワだったら午前の訓練が終わった後、外出届を出してコニーと鈴猫リンマオと一緒に兵舎を出て行くのを見たぞ」


「ルノワがコニーと鈴猫(リンマオ)を連れて一緒に? そうなのか」


 ルノワは基本的に、傭兵部隊の兵舎の中で過ごしている。


 全く出掛けない引き籠りや出不精と言う訳では無いし、出掛ける時は他の女性陣と一緒に出掛ける。


 信康はそれを知って、今日は偶々その日なのだろうと思った。


「ルノワが外出したのなら、仕方ない。ジーンはこの後、用事とかあるか? これから酒でも飲んでゆっくりしようって、思ってるんだけどな?」


「あー悪いな。今日はトモエとヌイを、俺の実家が経営している牧場に連れてく予定なんだよ」


「そうか、なら良い。ゆっくりして来い」


 信康はそれを聞いてジーンと一緒に中年女性の管理人に外泊届を提出してから、傭兵部隊の兵舎前で別れた。


「さて・・・偶には一人で飲むのも良いかな。うっかり酔い潰れて、何かやらかさない様にしないとな」


 斬影に騎乗しながら、信康はそう呟いていた。


 信康は暫く斬影で移動を続けた後、ある場所に向かう事にした。






 プヨ歴V二十七年六月二十五日。昼。


 信康は斬影に騎乗しながら、ヒョント地区のある場所に向かっていた。


 その場所とは、以前にセーラと逢瀬で入った青の満月(ブルームーン)だ。既に青の満月(ブルームーン)の店内からは、ざわざわと人の声が聞こえていた。


「・・・・・・ふむ。一年振りに、此処で飲んでみるか」


 信康は青の満月(ブルームーン)で、一人酒をする事に決めた。


 最早懐かしさすら感じる年代物の銅の取っ手が付いた扉に、信康は手を掛けて開けた。


 青の満月(ブルームーン)の店内は、信康が最初に来た時と同様に客で賑わっていた。


 店員も注文取りや注文の品を運ぶ為に、信康の前を行ったり来たりしていた。


「おや、あんたは・・・」


「おっと、静かに頼む。騒がれたくないんだ」


 店長が信康の存在を知るが、信康が静かにと言うジェスチャーをした。


 すると店長も無駄に店内を騒々しくしたく無かったのか、黙って首肯した。


「分かった。其処が空いてるから、座ったら良い」


 店長が指差しした方向を信康が見ると、其処には丁度一人分のカウンター席が空いていた。


 その席に座る前に腰に差している鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードを、腰から抜いてカウンター席に立て掛ける。


 青の満月(ブルームーン)の店長は、改めて信康に話し掛けた。


「どうする?」


「そうだな・・・」


 信康は店の壁に掛かっている、メニュー表を見た。


「・・・・・・麦酒(エール)と、お勧めを一つ。昼食めしはまだ食べて無くてね」


「あいよ」


 そう言うと店主が、パンを取り出して何か作り始めた。


 その間、信康は青の満月(ブルームーン)の店内を見回していた。


 去年と同様に吟遊詩人と思われる、その人物が奏でる楽器の音楽と歌が聞こえて来る。


 何より青を基調とした店内を、信康は気に入っていた。


 次に信康は青の満月(ブルームーン)の店内に居る、客達に視線を向けた。


 客人達は全員、楽しそうに酒を飲みながら過ごしていた。


 それだけ、この青の満月(ブルームーン)が、良店と言う事なのだろう。


「zzzzz」


 右隣から寝息が聞こえて来たので、信康はそちらに目を向けた。


 其処にはソバージュの髪型をした、金色の長髪の女性が居た。腕を枕にして寝ているので、信康の位置からでは表情までは分からない。


(こんな真っ昼間から酔い潰れてるとか、筋金入りの酒飲みと見た)


 信康はそう思いながらも、酒場で酔い潰れている客など別に珍しい存在では無い。態々声を掛ける理由も無いので、信康はそのまま寝かせる事にした。


「はい。お待ち」


 店長が料理が大量のサンドイッチと共に、木で出来たジョッキを信康の前に置いた。


 信康はジョッキを掴もうと、手を伸ばした。


 すると右横から伸びた手が、信康が掴む前にジョッキを取って行った。


「はい?」


 信康は横に目を向けると其処には先刻まで寝ていた女性が、信康が頼んだ麦酒を美味しそうに飲んでいた。


「ング、ング、プハ~ああ、おいしいわ~」


 一気に飲んで、そう吐息した。


 顔を上げた御蔭で、女性の素顔が見えた。


 小顔で見目麗しい顔立ち。緑色の瞳。スレンダーな体型で胸は大きくは無いが、だからと言って小さくも無いと言う中間の大きさだ。腰と尻はキュッと引き締まっていた。


 上は茶色の服で、下は薄緑色のパンツを穿いていた。


「おい、姉さん。俺の酒を飲むとは、どう言う了見だ? 飲みたいのなら、自分で頼めよ」


「あら、やだ、ごめんなさい~さけのにおいがしたから、ついてがのびちゃって、あっははは」


 顔を赤らめながら、ケタケタと笑う美女。


 これは相当、泥酔しているなと思った信康。


「・・・・・・ふぅ、仕方がないか。店長(オーナー)、追加で麦酒(エール)を後二つくれ」


「あいよ」


 店主はそう答えて、麦酒を新しく注いだ。


「そらよ。麦酒(エール)、二つお待ち」


「ありがとう」


 信康はジョッキを二つ持って一つは自分に、もう一つはその美女の傍に置いた。


「お前も飲むか?」


「ええ~? 良いの~? じゃあおことばにあまえて~」


 女性は躊躇なく、ジョッキを取る。


「じゃあ、乾杯」


「かんぱい~」


 袖振り合うも他生の縁だなと思いつつ、信康はその美女と乾杯する事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ