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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第331話

「なぁ、本当に良いのか?」


「うん? 何が良いのかしら?」


「俺は別に道を教えてくれれば、それだけで良かったんだがな」


「良いのよ、別に。これ位はしても」


「でもな」


 信康は歩きながら、周囲を見渡した。


「王女殿下直々の案内で謁見の間に行くとか、流石に問題があると思うのだが・・・・・・」


 信康は現在、ギネヴィーナ自らの案内で謁見の間に向かっていた。道案内の為に先頭をギネヴィーナ。そのすぐ後ろに信康。最後尾にラングリッド姉妹と言う順番だ。


 ギネヴィーナはヴェールを被って、プヨ王宮内を歩いている。ヴェールで顔は良く見えないが、何処か楽しんでいる様子に見えた。


 何故ギネヴィーナが道案内をしているのかと言うと、それには勿論理由があった。


 信康は暫くギネヴィーナと話をしていると、自分が何で此処に居るのか漸く思い出した。


 そして、自分が居た部屋に道案内してくれないかと頼んだ。


 しかしその部屋がどこなのかと訊くと、信康は少し考え込んでから何処かの待合室と答えた。


 それを聞いて、何処の待合室かと言われた。待合室だけでも、プヨ王宮には幾つもある。なので、何処の待合室なのか分からないと言われた。


 そう言われて困った信康だったが其処でギネヴィーナが騎士に叙勲させるのなら待合室などではなく、謁見の間で行うと言う事を話してくれたので謁見の間に向かう事となった。


 尤も信康は実際の受勲式ではなくその打ち合わせをするだけなのに、謁見の間でやったりするだろうかと疑問に思っていた。


(道案内してくれるのは良いのだが、どうして王女がするのかな?)


 そう内心で思っていると前方から近衛師団の団員が来たのだが、信康達を見て不思議そうな顔をしていた。


「御苦労様」


 ギネヴィーナが団員達の横を、通り過ぎる時にそう言って通り過ぎた。その際にラングリッド姉妹も、同じく声を掛けてから通り過ぎた。


 団員達は直ぐに、ギネヴィーナ達に向かって返礼に敬礼した。そして信康達の姿が見えなくなるまで、その背中を見続けた。


(まぁそうしないと、不敬罪になりかねんからな。俺でもそうする)


 正直に言って信康も同じ立場なら同じ事をしただろうなと、思いつつプヨ王宮内を歩き続ける。


「此処よ」 


 そう言ってギネヴィーナが足を止めた先には、一際大きく荘厳な大扉があった。


 門扉には絵が描かれている上に、所々に金や銀を使った装飾も付けられていた。


 更に門の前には、近衛師団の団員が二人立哨していた。


「お父様は中かしら?」


「はっ。その通りでありますっ!」


「では、開けてくれる?」


「えっ? ですが只今、陛下は謁見中でして」


「その謁見に参加する者を、私が連れて来たのよ」


 団員は驚いて、思わず信康の方を見た。


「ええ、そうなの。と言う訳で、開けて貰えるかしら?」


 ギネヴィーナにそう言われた団員達は、顔を見合わせて結局通す事にした。


「第二王女ギネヴィーナ殿下。御入来っ!!」


 団員の一人がそう言ってから持っている槍の石突で、床を数度叩いてから扉を開けた。


 ギネヴィーナが入って行ったので、信康達はその後に付いて行った。


 扉を通って謁見の間に入った信康は、周囲に目を配った。


 部屋は石造りなのか、歩く度にコツコツという音が響く。壁も床も赤く塗装されていた。幾つもの白い柱が立っていた。そして柱には何かの模様を模した、彫り物が彫られていた。


 その柱の間には、赤い絨毯が敷かれていた。


 絨毯の先には石段があり、その石段の頂上には座具があった。


 その座具には、五十代前後の男性が座っていた。


 絨毯を挟む様に、近衛師団の団員が十名ほど槍を持って立っていた。


 そしてその石段付近には何かの紙を持ったゴテゴテの装飾をつけた服を着た男性と、跪いている男性が二人いた。


 後ろ姿なのではっきりとは分からないが、良く目を凝らして見るとそれはヘルムートとリカルドであった。


 ギネヴィーナが進んで行くので、信康はその後を追い掛けて行く。


 そしてギネヴィーナが立ち止まったので、ラングリッド姉妹はその場で跪いた。


 信康は取り敢えずリカルド達の傍に行き、二人に倣って跪いた。


「待たせたな」


「ノブヤス。何処に行ってたんだ?」


「ちょっと知り合いに会って、話をしていたんだ」


「細かい話は後で聞くとして、あの女性は誰だ?」


 ヘルムートがそう尋ねて来たが信康が答える前にギネヴィーナが一礼して、座具に座っている人物に声を掛けた。


「陛下。御機嫌麗しく存じます」


「そう畏まらずとも良いぞ、ギネヴィーナよ。しかしそなたが部屋から出るとは、これまた珍しいな」


 座具に座っている人物が珍しい物を見るかのような顔をして、ギネヴィーナを見ていた。ヘルムートとリカルドはギネヴィーナの名前を聞いて、跪いた状態で驚愕した表情を浮かべていた。


(父上・・・やはりこの御仁がプヨ王国国王、ヴォノス王か。去年の戦争の前にあった閲兵式で、遠目から見て以来だな。ふっ。まさかこんなに近くで見れる日が、これ程早く訪れようとはな)


 信康は少し顔を上げて、ヴォノス王の顔を見た。豪奢な衣装に身を包み、右手には王笏を持っていた。


 顔の至る所に皺があるが、温厚そうな顔立ちをしていた。歳には勝てないのか、王冠から出ている金髪の中に僅かだが白髪が混じっていた。


「いえ、友人(・・)と談話を楽しんでいたら、彼が今日この場に呼ばれていると聞いたのです。其処で道案内も兼ねて、連れて来ました」


「何っ? 友人(・・)、だと?」


「はい。このノブヤスが、わたくしの大切な友人です」


 ギネヴィーナの言葉を聞いて、信康とラングリッド姉妹を除くヴォノス王と他の全員が驚愕していた。


「友人になれた経緯ですが・・・ノブヤスはアリスフィールが忍びで市内散策している時に知り合い、護衛も兼ねて遊び相手になってくれておりました。わたくしもその縁で、知り合う事が出来たのです」


「そうか。あの娘が・・・・・・その方、ノブヤスと言ったな? ギネヴィーナの話は、本当か?」


「ははっ。ギネヴィーナ殿下が仰った事に、間違いはございません」


「・・・そうか。大儀であった。では今後とも、娘達を良しなにな・・・しかし一つだけ、余からそなたに問いたい事があるのだ」


「?・・・はっ。何なりと御聞き下さい、陛下」


 ヴォノス王が両眼を僅かばかり細めると、信康にそう言って何かを問い質そうとしていた。信康は何だろうと思いながら、ヴォノス王の返事を待つ。ギネヴィーナ達もまた、何を言う心算なのかと思いつつ二人を見守った。


「我が末娘のアリスフィールだが、身に覚えの無い桃色の金剛石(ピンク・ダイヤモンド)首飾り(ブレスレット)を身に着ける様になった。詳しく調べるとそれを贈ったのは、何とそなただと言うのだ。これは事実か?」


「はい、陛下。アリスフィール殿下にその宝石をあげたのは私です」


「えっ!? 噓でしょ・・・アリスが持ってたあの宝石って、ノブヤスが贈ってあげた物なの?」


 信康の返事を聞いて、ギネヴィーナ達は今日一番に驚愕していた。一方で跪いているヘルムートとリカルドは、こっそり冷汗を掻いていた。


「恐れながら、陛下に申し上げます。あの宝石を贈ったのは、単純に殿下が物欲しそうな目で見ていたので私が買ってあげただけです。自分で言うのもなんですが、立場を弁えている心算です。陛下の御心を煩わせる様な、不忠な真似は致しませんのでどうぞ御安心を」


「・・・そなたが其処まで言うならば、余から何も言う事は無い。改めて言うが、今後も娘達を良しなにな」


「ははっ」


 信康は跪きながら、ヴォノス王に再び頭を下げた。


「さて、話の途中であったな。儀典局長よ」


「は、ははっ」


 ヴォノスがゴテゴテの装飾をつけた服を着た男性に声を掛ける。


「先刻の説明を、もう一度頼む。この者だけはまだ、そなたの説明を聞いておらぬからな」


「畏まりました。陛下」


 儀典局長は咳払いをして、紙を広げて中身を読み上げる。


「プヨ歴V二十七年六月二十五日。


 


 プヨ第五十六代国王ヴォノス・ファラ・ドンファン・ロレウイの御名の下、此処に宣言する。


 プヨ王国軍近衛師団傘下傭兵部隊副隊長、ノブヤス及びリカルド・シーザリオン両名に、正騎士の称号を与える。


 なお正式な叙勲式は明日、プヨ歴V二十七年六月二十六日の朝に予定している。


 名を呼ばれた両名は、万全の準備を整えておく様に。


 それとノブヤスは家名を持たぬ身である事を考慮してヴォノス王陛下からの御恩情により、その叙勲式の際に陛下から汝に新たなる家名が下賜される事となった。陛下の御恩情に感謝に心から感謝して、その家名を受け取るのだ。




                             プヨ王宮儀典局」




 持っている紙を読み終えた儀典局長は持っている紙を恭しく丸めて、振り返りヴォノスに一礼してから脇に逸れた。


「話は以上だ。そなた達にとっては急な話であろうが、急ぎ準備を致せ。では皆の者、次の叙勲式で会おうぞ」


 ヴォノス王がそう言って立ち上がり、謁見の間から出て行った。


 団員達と儀典局長も、その後に付いて行った。


 ギネヴィーナ達もその後に付いて行ったが、ギネヴィーナだけは少し振り向いて信康を見て手を振ってから、ヴォノス王を追い掛けた。


 信康達しか居なくなった、謁見の間。


「ふぅ、こう言う畏まった場は疲れるな」


「そうだね」


 信康が息を吐きながらそう言うと、リカルドも同意とばかりに相槌を打つ。


「それについては、俺も同感だ。さて、ノブヤス」


「はい?」


「アリスフィール殿下と仲が良いのは聞いていたが、ギネヴィーナ殿下とまで交友関係があるとは聞いていないぞ。どう言う経緯があって仲良くなったのか、じっくりと訊かせて貰おうか?」


 笑顔でそう訊ねるヘルムート。その表情には、言わないと許さんと言わんばかりの迫力があった。


「・・・・・・はい」


 信康は隠す事でも無いと思い、ヘルムートとリカルドに包み隠す事無く全て話した。

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