第328話
「どうして俺とリカルドが、騎士に叙勲されるんだ?」
「リカルドは去年起こった二度の大戦で、カロキヤ軍の総大将と副将を合わせて二人討ち取ったからよ。ノブヤスの場合はパリストーレ平原の戦いで総大将と副将の討ち取りと敵本陣陥落、海の貴族の捕縛の功績を評価されたからなのよ」
「成程。俺は分かるけど、リカルドは随分と遅いな。俺より先に叙勲されていても良かっただろうに」
「ああ、本当はね。リカルドはパリストーレ平原の戦いが終わった後に、叙勲される筈だったんだけど・・・フォンの称号を与えるかどうかで揉めている間に、ノブヤスが無実の罪で投獄されちゃったでしょ? その風評被害でリカルドも騎士に叙勲するに相応しいかどうかで揉めに揉めてね。冤罪が晴れたから漸く、二人共揃って受勲される所まで持って行けたって感じよ」
信康はアリスフィールの話を聞いて、それにしては随分と時間が掛かったものだと感じた。
「リカルドは貴族出身だったから騎士位叙勲の話は穏便に進んだんだけど、ノブヤスは他国からの傭兵だからって詰まんない理由で揉めてたわ。結局二人とも叙勲になるんだから、こんな事になるなら最初から授与するって事にしておけば、皆も余計な事に時間を浪費しなくて済んだのにね」
「でもまぁ、それは仕方がないと思うぞ。外国人の台頭や重用を、自国人が素直に喜ぶ国なんて無いからな。それに俺自身がこのプヨに来て、まだ一年ちょっとしか経っていないんだ。そんな余所者に騎士位を授けるだけでも、十分に太っ腹だと俺は思うぞ」
「偉く物分かりが良いわね。ノブヤスって腕が立つ傭兵なんでしょう? だったら何処の国でも、引く手数多だったんじゃないの?」
「其処はまぁ、そうとも言えるしそうじゃないとも言えるんだよなぁ・・・」
傭兵とは戦争に必要な存在であって、平時には無用である。 故に戦争中の国で幾ら大手柄を立てても、戦争が終わったら放り出される事などよくある事だ。例え登用を考える聡明な者が少数居ようと、成り上がり者を嫌う大多数に阻まれて失敗に終わるからだ。
「俺もそれなりに色々な国を渡り歩いて来たが大半の国々は、どれだけ手柄を立てても金だけ渡されて放り出されたよ。アリスが言う様に俺を正式に召し抱えて厚遇しようとした国はあったし、中には俺が所属していた傭兵団ごと勧誘しようとした国もあるにはあった。だけど其処は色々諸事情があって、受けずにと言うか受けれずに去ったけどな」
「そう、野暮な事は聞かないわ。私としてはその諸事情って奴に感謝しないとね。そのお蔭でノブヤスが、このプヨに来てくれたんだもの」
信康の話を聞いて意外と思いつつ、その幸運を自覚して嬉しそうな顔をするアリスフィール。
アリスフィールが喜ぶ顔を見て意外なものを見る目で見つつ、信康はある事が気になってアリスフィールに訊ねた。
「なぁ、アリス。騎士になったら、何かあるのか?」
「そうね。プヨの国籍と永住権と市民権、他には住居に騎士年金が後に提供される位かしら?」
「元々プヨに住んでる人にとっても、悪くはない待遇な。そして余所者にとっては、破格の待遇と言えるだろうな」
「そう言って貰えれば幸いだわ」
「・・・・・・それとは別に聞きたいことがあるんだが」
信康はふとある疑問が思い至ったので、アリスフィールに訊ねる事にした。
アリスフィールも何を訊ねるのだろうと思って、信康がこれから言う事を待っている。
「先に知っておきたいんだが・・・俺達に受勲されるその騎士の位って、準騎士位か?」
「いいえ、正騎士位よ」
「おお、意外に気前が良いな」
「貴方達二人が立てた功績が大きいから、従騎士や準騎士程度だと不釣り合いで正騎士と言う形になっただけよ」
「そういう裏の事情があったとしても、騎士に成れたのは確かだ」
信康は嬉しそうに笑った。
「ああ、そうそう。騎士に成るのだから、ノブヤスは自分の家名はどうするの?」
「・・・・・・ああ、そうだな」
信康は言われるまで、すっかり忘れていた。
(今更、捨てた家名を名乗るのはな。どうしたものかな)
信康は頭を捻っていた。
それを見て、アリスフィール達は不思議そうな顔をした。
「名乗ってないだけで、実は家名があるんじゃないの??」
「確かにそうだが、実質的に捨てたと言うべきだな」
「捨てた?・・・何かしらの事情があるみたいだから、突っ込まないでおくわ。だったら新しく家名を貰うって事も出来るけど、そうしておきましょうか?」
「それは良いなっ!」
信康は名案だとばかりに手を叩いた。
「はは、それだ。それで行こう」
信康はスッキリした顔でニコニコと笑う。
「だったら私の方で、そう伝えておくわね」
アリスフィールは部屋に備え付けの時計を見て、時間を確認しつつ信康にそう言った。
そして、座具から立ち上がった。
「久しぶりに話せて良かったわ。じゃあ私はこの後は予定があるから、この辺で失礼するわね。それとこの私を九ヶ月以上も王宮に缶詰にしたんだから、私が王宮を抜け出した時は必ず付き合いなさいよ?」
「承知した。騎士になれば、堂々とお前を守れるな」
「うふふっ。楽しみにしてるわ」
そう言うとウィンクしてから、アリスフィールは部屋から出て行った。
その後をリリィとラティナの二人も付いて行った。
三人が部屋を出て行ったので、信康は立ち上がり身体を伸ばした。
「~~~・・・・・・そうだ。俺、早く総隊長達が居る所に戻らないと駄目だな」
信康がそう思い出した瞬間、直ぐにある致命的な事を思い知ってしまう。
「・・・俺、王宮の構図なんて知らないぞ。どうしろってんだよ」
信康は愕然とした様子で、そう力無く呟くしか無かった。しかしこの部屋に何時までも居ても仕方がないので、信康はその部屋を退室する事にした。




