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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第327話

 数分後。




 漸くアリスフィールは信康を弄り倒す事に満足したのか、信康の両頬を掴んでいた両手を放した。そしてリリィとラティナにも手を放す様に命令したので、信康は漸く解放された。


「あ~酷い目に遭ったっ・・・」


「ふふん。これも女と遊んでばかりいる罰、とでも思いなさい。と言うか沢山の女達から散々抱き締められているんだから、私みたいな女が一人位居ても良いでしょうよ」


 アリスフィールは座具に座り直しながら、楽しそうにそう言った。


「・・・アリスは、俺の交友関係を知っているのか?」


 信康は驚いた様子で、アリスフィールに尋ねていた。


「全部把握している訳じゃないわよ。ルノワから色々聞いたり、貴方を助ける過程で何人かと知り合った程度ね。因みに言うとセーラとか一部の女性達は、ノブヤスの事が心配し過ぎて体調不良になる位だったそうよ。逆に心配だから、思わず励ましの手紙を届けたわ」


「な、何ぃっ!? 俺はあいつ等からそんな話・・・聞ける訳無いか。すまんな、余計な手間を掛けてしまって・・・」


 信康はアリスフィールの話を聞いて驚愕した後に、感謝しつつ申し訳無さそうな表情を浮かべて頭を下げた。


「別に良いわよ、大した手間でも無かったし・・・それに本当の事を言えばプヨとしては、ノブヤスが嵌められた事に感謝しているのよ。こう言っちゃうとノブヤスは、機嫌を損ねるかもしれないけれどね」


 アリスフィールがそう言うと、信康は眉をピクッと動かせた。するとリリィが慌てて、横から口を挟んで来た。


「姫様っ、その様な仰り方では・・・ノブヤス様、どうか誤解をなさいません様に。アリス姫様はノブヤス様の事件を切っ掛けに、軍内の綱紀粛正に踏み切り我が国の膿を大幅に出せた事を感謝しておられるのです」


「・・・そんな事だろうと思ったよ。安心してくれ、別に怒ってないから」


 リリィの弁明を聞いた信康は、苦笑しながら手を振って宥めた。そしてアリスフィールに視線を向けると、その視線の意図を察したアリスフィールが語り始めた。


「リリィの言う通りよ。ザボニーの奴、随分と色々やっていたみたいでね。芋蔓式で一網打尽に出来たのよ。先ず懇意にしていた商会関係者だけど、叩けば叩くだけの埃が出てね。私財没収をしてから、当事者は投獄。その関係者は全員、国外追放にしたわ」


「ふむ・・・軍部や官僚関係者の方はどうだ?」


「そっちも大掃除が出来たわよ。罪状が重かったり一族ぐるみで不正を働いていた悪徳貴族は、改易した後に私財没収で一族は国外追放。改易を免れたけど処罰された貴族家は問題のある連中を全員教団送りにしてから、王室が指名した人や残った一族に空いた役職や当主の座を与えて置いたわ」


「う、うーん? やっている事は理に適っているが・・・温くない(・・・・)か?」


 アリスフィールからそう報告を受けた信康は、思わず不満気な表情を浮かべた。そんな信康に対してアリスフィールは、苦笑した後に話の続きを行う。


「そう言わないで頂戴。貴族って安易に潰しちゃうと、追々厄介の種になるのよ? それに今日までの貢献度とか影響力を考えたら、おいそれと潰す訳にも行かないし・・・だから隠居とか引退って形にして、逆に恩を売って弱みを握る事にしたのよ。その方が貴族勢力の弱体化が出来て、王室への利益も大きいから」


「・・・まぁ政治的な状況や国益を考えたら、それが最上で最善の対応か。逆に俺を助けてくれた連中の方は、ちゃんと褒美とか与えてくれたんだよな?」


 信康が念押しするみたいに訊ねると、アリスフィールは即座に首肯した。


「当然でしょ? ドローレス商会は潰した商会達を吸収させて、勢力拡大出来る様に取り計らったわ。アイシャの千夜楼は表向きには褒章を与えていないけど、私との関係を上手く活用しているわね。それとマリィの実家は、子爵から伯爵に陞爵よ」


「何? 伯爵になったのか?・・・でも俺が会いに行った時は、まだ子爵だった筈だけどなぁ」


 信康はマリーザと再会した時の事を思い出しながらそう言うと、その疑問にアリスフィールが答えてくれた。


「そりゃ単純に、ノブヤスが会った後に陞爵したってだけの話ね。それに元々ルベリロイド伯爵家の影響力と財力は、子爵家どころの話じゃなくて侯爵家に匹敵する程あるんだもの。陞爵は時間の問題だったわよ」


「・・・そうか(今度マリィに会ったら、おめでとう位は言っておかないとな)」


 信康は心中で、そう強く思った。


「因みに軍部の方だけど・・・ノブヤスを助ける為に奔放した人達は全員、一つか二つ階級が昇進した筈よ」


「ああ、俺も確かにヘルムート総隊長からそんだけ昇進したって聞いたぞ」


 アリスフィールの話を聞いて、信康はヘルムートに言われた事を思い出しながらそう返事をした。


「そう。軍上層部の連中が大勢引退と辞職してくれたお陰で、随分と風通しが良くなったわ。これも貴方が捕まった御蔭ね」


「そう聞くと俺が捕まったのも、無駄じゃなかったんだなって思うよ(まぁ俺もデカい利益が得られたから、結果的に見れば慶事だったな)」


 信康は自身がエルドラズ島大監獄に収監された事で、自分自身が得られた利益に関して沈黙しつつそう言った。


「ノブヤス様。姫様御自身にも利益は勿論ございましたが、それ以上に信頼出来る人脈を数多く築く事が出来たのですよ」


「ちょっ、リリィッ」


 リリィの話を聞いて思わずアリスフィールは声を上げたが、信康は何か思い出しながら返事をする。


「人脈・・・そう言えばマリィやアイシャを愛称で呼んでたよな。お友達が増えたなら、実に喜ばしい事だな」


「別にお友達って訳じゃ・・・無いとは言えないか。まぁ否定はしないわよ」


 アリスフィールは少しばかり、照れ臭そうな表情を浮かべてそう言った。


「其処はお前の自由にすれば良いさ・・・そう言えば聞きたかったんだが、アリスは俺達がこの王宮に呼ばれた理由を知っているのか?」


 信康の質問に対して、アリスフィールは首肯して頷いた。


「そうか。だったら聞いても良いか?」


「別に今知っても、問題無いから言うけど・・・貴方達に騎士位を叙勲させる為よ」


「何ッ?! 騎士位を叙勲だとっ!?」


 アリスフィールから想定外の発言を受けて、信康は大いに驚愕した。

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