第324話
プヨ歴V二十七年六月二十五日。朝。
朝日が昇ったばかりの時間帯。
信康は珍しく一人で、自室の寝台で眠っていた。
朝日が部屋に差し込み、信康の意識も覚醒しそうであった。
すると信康の部屋に、近付いて来る足音が聞こえて来た。
コンコン。
そして部屋の扉が、ゆっくりとノックされた。
「おぅい、ノブヤス。居るんだろう? 居るんだったら返事してくれ」
扉の向こうから、リカルドの声が聞こえて来た。
信康は身体を起こして、急ぎ扉へと向かう。
「今開けるっ」
信康がそう言って扉を開けると、其処にはリカルドだけでなく何とヘルムートも居た。
「おはよう。ノブヤス」
「ああ、おはよう」
リカルドと朝の挨拶を交わす信康。
「おはようさん。お前は部屋に居るんだな。感心感心」
ヘルムートは何故か、嬉しそうに頷いている。
「おはようございます、総隊長・・・それって、どう言う意味ですか? 外出届とどけを出さないと、普通は自室に居るものじゃあないんですか?」
信康がそう言うと、苦々しい顔でヘルムートが言う。
「・・・・・・外泊届も出していないのに、勝手に出掛けて酒場で一夜を明かす馬鹿共が居るんだよ。それも中隊長の中にもな」
ヘルムートの愚痴に等しいその発言を聞いて、信康もリカルドも即座に察した。
「言われんでも察したと思うが、その馬鹿共の中にはバーンも入っている」
ヘルムートの言葉を聞いて、信康とリカルドは溜息しか吐けなかった。
「・・・まぁそれは良いとして・・・総隊長達はこんなに朝早くから、どの様な要件があって来たんですか?」
信康は話を変える為に、ヘルムートが自分を訪ねた理由を聞いた。
「ああ、今朝早くに王宮からの使者が来てな。お前とリカルドを連れて参内しろって手紙を運んで来たんだ。それが、この手紙だ」
ヘルムートはその手紙を信康に見せる。
『プヨ王国近衛師団所属傭兵部隊総隊長 カルナップ・ヘルムート。
本日午前中に、ノブヤス並びにリカルド・シーザリオンと共に王宮に参内せよ。
プヨ王宮儀典局』
「・・・確かに、王宮に参内しろって書かれているな」
信康は手紙を読んで、首を傾げた。
「どうして自分とリカルドが、応急に呼び出されるんです?」
「ああ、それは俺も思った。総隊長、どうしてですか?」
信康達はヘルムートを見た。
「ハッキリ言おう・・・俺も分からんっ!」
力強く断言するヘルムート。
それを聞いて、二人はズッコケそうになった。
「まぁ要件は王宮に行けば、分かるだろう。少なくとも悪い事をして、呼び出された訳じゃないのは確かだ。もしそうだったら去年みたいに、特警が殴り込んで来るだろうからな。と言う訳で今日のお前達の仕事は無しとする。両中隊の副隊長及び副官にはその旨は伝えてあるから、何もしなくて良いぞ」
「「了解です」」
信康とリカルドは、ヘルムートの話を聞いた後にそう言って敬礼した。
「しかし良い事かどうかまでは分からんからな。気を引き締めて行くぞ」
「そうですね。ヘルムート総隊長」
「確かに」
リカルドと信康は、同意とばかりに頷いた。
そして三人は準備が出来たら、兵舎の玄関で待ち合わせという事で一旦分かれた。
ヘルムートとリカルドが信康の自室前から去った後、信康は直ぐにプヨ王宮へ向けて出掛ける準備を始めるのだった。




