表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/418

第31話

 信康は強盗犯達の宴会を外から見張りながら、さっさと終われと愚痴りつつ、宴会が終わるのを待った。


 宴会が開始してから、数時間後。


 銀行強盗事件が発生してから、時刻は既に夕方になろうとしている時間になっていた。


 先程まで本拠地の中で騒いでいた強盗犯達の声が、段々と聞こえなくなり最後には静かになった。


 信康は静かになったのを見計らって、本拠地に近付く。現場に指紋を残して行かない様に、手袋の装着も忘れず行った。


 扉に耳を当てて、中の様子を窺う。


 寝息しか聞こえないので、信康は強盗犯達に達が寝たと思い、扉をゆっくりと開ける。


 鍵が掛かっていると思っていたが、信康が拍子抜けしてしまう程に扉がすんなり開いた。


「・・・・・・幾ら目論見が成功したからって、鍵を掛けないなんて不用心過ぎるだろう。勝って兜の緒を締めよ、と言う故事もあるというのに・・・油断大敵にも限度があるぞ」


 信康は強盗犯達の迂闊さに呆れながら、拠点の中に入った。


 強盗犯達を起こさない様に注意して歩きながら、魔法道具(マジックアイテム)と思われる黒い手提げ鞄を探す。強盗犯達が居る部屋には無かったので、そのまま探し続けた。


 強盗犯達が拠点として根城にしているこの空家は、平屋建てなので二階は無い。一階の部屋を探していたら、奥の部屋に黒い手提げ鞄を見つけた。


 その黒い手提げ鞄の周辺には、プヨ国立銀行に居た銀行員や客の所持品である数十個の財布が無造作に散らばっていた。信康は手提げ鞄に手を入れると、任意で中身を取り出す事が出来た。


「・・・やはり魔法道具の一つである。異次元倉庫(アイテムボックス)だったか」


 信康は予想が的中した事を確認した後、思案を始めた。


 このまま強盗犯達を憲兵に突き出せば、背後関係を洗いだされるだろう。黒幕であるラディカ・ヴァッチオーネも、摘発出来る可能性もあるだろう。組織に火の粉が飛ばない様に対策をしている可能性もあるが、少なくとも強盗犯の逮捕に貢献をした信康は、活躍を表彰されて終わりという未来が浮かんだ。


(そんな未来も悪く無いが、それでは俺の心も懐も温まらない。リカルドなら迷わずそうするだろうが、俺は其処まで善人では無い。俺は常に自分にとって(・・・・・・)、最善の道を選ぶ自分至上主義者なのでな) 


 ほくそ笑む信康は、眼前にある黒い手提げ鞄を見た。


 それから自身の胸ポケットに常に大切に保管している、指環を取り出した。その指環には、綺麗に輝く青の金剛石が付けられていた。指環そのものが高品質であり、装飾品として非常に価値が高い物と思われた。


 その価値は軽く見積もっても、信康がルノワに送った狩猟神の指環(ハンターズ・リング)よりも遥かに価値があるだろう。信康はその指環を一度眺めた後、指環を指に嵌める。


「このまま異次元倉庫を持って歩いている所を、警備兵に見つかって職務質問されたら言い訳の仕様が無いからな・・・開け(オープン)


 信康は発動言語を唱えると、眼前に黒穴が生まれた。その黒穴に向かって、信康は手提げ鞄である異次元倉庫を放り投げた。異次元倉庫は黒穴に吸い込まれる様に、中に入って姿を消した。


閉じろ(クローズ)・・・故郷を出た時に愛刀と一緒に持ち出せた唯一の持ち物だが、何時も役に立ってくれている・・・・・・何時も思うが、実家の宝物庫からくすねておいて正解だったな」


 信康が装着している指環は、見て分かる様に魔法道具である。異次元倉庫の一種であり、虚空の指環(ヴォイド・リング)と言う代物だ。通常の異次元倉庫は鞄や袋の姿形をしており、指環や腕輪などの装飾品の姿形をしている代物は比較的希少品である。


 この虚空の指環に付いている、青の金剛石には収納(ストレージ)の魔法が内蔵されている。異次元倉庫アイテムボックスとは言ってみれば、魔法使いの収納に姿形を与えた様なものだ。


 此の世に存在する異次元倉庫は、千差万別である。共通しているのは場所問わず、物ならば任意で出し入れ出来る事だ。因みに生物の収納は、不可能である。死体ならば、可能ではあるが。


 異次元倉庫の容量は製造者の魔力次第であり、収納可能な物質の大小などの性能も大きく左右される。時間も同様に流れているので、生ものを入れると腐敗したり温かい物を入れたら冷めてしまう異次元倉庫が大半である。


 その上位互換は冷暖機能付きであり、最高位等級の代物は時間が停止しているとされる伝説級の異次元倉庫だ。因みに収納ならば個人の容量の問題はあれど。時間経過による問題点は存在しない。


 異次元倉庫そのものが、魔法道具の中でも世界中で重宝され魔宝武具に匹敵する程に争奪戦の対象である。信康の虚空の指環は見た目だけでも非常に目立つ装飾品なので、装備しているだけで目を付けられてしまうと言う理由から胸ポケットに普段は収納している。


 そして人気の理由は魔法使いでなくても、任意で物を好き勝手に出し入れ出来る。軍ならば移動に置ける武器や食料の輸送に、負担が大きく減らせる。商人ならば容量の分だけ、商品を仕入れる事が可能だ。物流に掛かる負担を無くせるのだから、異次元倉庫とは誰もが欲しがる魔法道具なのだ。


 信康の虚空の指環は大和皇国を出奔した際、鬼鎧の魔剣オーガアーマーズ・ソードと共に持ち出せた数少ない持ち物だ。


 当初は父親への嫌がらせで盗み出した代物であり、当初は異次元倉庫である事すら分からず宝物庫の中で埃を被っていたのだ。そして皮肉にもこの傭兵生活をしている過程で、虚空の指環の名称も使用する為の発動言語も、知り得る事が出来たりしている。


 因みに虚空の指環に収納された物は時間が停止している、最高位等級の異次元倉庫である。


「貰える物は貰ったし、ずらかる前にもう一仕事しておくか。支店長の仇討ちは、する約束だしな」


  信康は強盗犯達が寝ている部屋に向かい、武器と覆面と黒装束も奪った。その時に強盗犯の一人の懐に煙草一式を見つけたので、それも一本奪う。


 信康が異次元倉庫を探している時に見つけた縄で、強盗犯達を一纏めにして縛り上げる。


 簡単に解けない様にきつく締めた。それでも、強盗犯達は目覚める様子は無い。


 そしてまだ中身が残っている酒瓶の中身を、室内全体にぶちまける。更に奪った煙草に火と着けて、ぶちまけた酒の上に縦にしておく。後は火が付いた煙草が小さくなり、最後には火が付くという寸法になる予定だ。信康の中では。


(上手く行くがどうか分からないがな。後は結果を天に委ねるとしよう)


 信康は奪った武器を、酒の上に投げ捨てて、そのまま拠点を出て、兵舎に戻った。




 *********


 


 プヨ歴V二十六年五月二十七日。


 昨日はプヨ国立銀行で金を下ろし損ねたので、今日こそ金を下ろして病院代を払いに行く。


 まずは朝食を取ろうと食堂に行くと、人だかりが出来ていた。


(何だ、この人だかりは?)


 こんな朝早くから人だかりが出来るとは、また誰か偉い人で来たのかと思った。


 信康は近くにいる、一人の隊員に状況を訊ねた。


「こんな朝っぱらに、何かあったのか?」


「うん? 何だ、知らないのか? 皆は揃いも揃って、昨日リカルドがした凄い事を訊こうと集まってるのさ」


「リカルドが何かしたのか?」


「お前、今日の新聞は見てないのか?」


「ああ、見てない」


「ほらよ。其処に載ってるぜ」


 隊員が新聞を信康に渡した。


 信康は言われた所の内容を見た。


 題名は『猛獣の大脱走で、怪我人多数』


『プヨ歴V二十六年五月二十六日午前、シルク・ドゥ・カレイドで飼育されているアムールタイガーをはじめとする猛獣七頭が天幕内を脱走。


 ケル地区内へ逃走した。猛獣はその場に駆け付けた警備部隊と傭兵達の活躍で、正午までには捕獲に成功したが、数十人の重軽傷者を出した。シルク・ドゥ・カレイド及び警備部隊の発表によると、猛獣を入れていた檻の鍵が破壊された事による外部犯による犯行と発表。しかしシルク・ドゥ・カレイドの防犯対策セキュリティ体制にも問題があったのではないかと警備部隊は疑問視しており、施設内には既に調査団が入っている模様。プヨ王国随一にしてガリスパニア地方有数の興業団体であるシルク・ドゥ・カレイドの防犯対策セキュリティ体制に問題は無かったのか、警備部隊の調査団の発表が待たれる』


 新聞の記事を読んで、この記事に書かれている傭兵達と言うのは恐らく、リカルド達だろうと分かった。


(まぁ、だから人だかりが出来ているのだろうな)


 人だかりの隙間から、リカルドの喜ぶ顔が見える。


 自分がした事で、褒められるのは嬉しいのだろう。


 そんな事よりも、信康は昨日の一件について記事がないのか探した。


(おっかしいな? 銀行を襲われたのだから、新聞に載ってもおかしくないのだが・・・・・あ、あった)


 信康は昨日の一件の事を書かれた記事を見つけた。


 リカルド達の事が書かれた記事の下にあった。


 題名が『しまらない結末(エンディング)


『プヨ歴V二十六年五月二十六日午前、ケソン地区南区にあるプヨ国立銀行南ケソン支店が、覆面の強盗集団に襲撃された。強盗集団は五人組であり、強盗犯の一人が発砲して支店長が死亡。そして銀行内に保管していた金塊や宝石を始め、鉄貨一枚残さず奪い尽くして逃走。この地区の警備部隊は中央区であるケル地区で起こった猛獣騒動の応援に駆り出された為に、対処に遅れた様子。この事実から猛獣騒動と銀行強盗事件のタイミングがあまりに出来過ぎている為、警備部隊はこの二つの事件に関連性があるのではないかと調査が行われている。


 しかし、昨日の夜未明。ケソン地区東区にある空家から火災が発生。火は直ぐに消し止められたが、焼け跡から、五人の男性と思われる焼死体が発見された。この家屋は前から空家だったので、誰も住んでいない。


 それなのに、五人の遺体が発見された事に疑問を感じる。


 火元は五人が居た部屋で、出火元は消し忘れた煙草の火が零れた酒に引火した事によるものだと取材の結果判明した。


 更に調査を進めると、この五人はどうも同銀行を襲撃した強盗犯と思われる証拠が見つかった。


 強盗犯が銀行内に居た客達から奪った財布が、空家から幾つも発見されたからだ。


 更に燃えた空家のある一室に、強盗事件で使用された武器などもも発見された。被害者達に財布の方を確認して貰うと、同一の物で間違いないそうだ。


 なお、異次元倉庫と思われる黒い手提げ鞄は見当たらなかったと言う。


 調査を進めたくとも犯人と思われし人物達は既に此の世に居ない今、消えた金塊や宝石、硬貨の調査は難航する様子。


 この銀行強盗事件に対してプヨ国立銀行は、昨夜運搬されたばかりの金塊が次の日に強奪された事から内部情報の漏洩が無かったか調査を実施すると共に、強奪された宝石の所有者である顧客達には金銭で補償し死亡した南ケソン支店支店長の冥福を祈ると声明文を発表。最後に強盗犯達の犯罪行為を強く非難し、今後はこの様な事が繰り返されない様に警備を強化すると宣言した』


 記事を読んで、信康はニヤリと笑みを浮かべる。


(これであの財宝の山が何処に行ったのか、分かる奴はもう俺以外に此の世には居ない)


 久しぶりに良い小遣い稼ぎが出来たと思うと、思わず笑い出しそうになった。しかし此処で笑ったら、変人だと思われるので信康は自重した。


 信康は隊員達に激励されているリカルドを尻目に、朝食を食べる為に食堂を歩く。やはり称賛されて名誉を得るのも悪く無いが、物理的に成果や戦利品を得られる方が嬉しいものだと思いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ