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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第316話

 信康は、大人しくなったザボニーとザボニーの愛人達もアニシュザードに引き渡す様にシキブに命じてからミレディと共にシキブの体内から出た。


 そしてカンナ地区のアモンマデウス邸を出た後に、斬影に騎乗してミレディをケル地区まで送る。するとミレディは『私の生活拠点は此処にあるから、何かあったら此処に手紙を送るか直接来てね♥』と言うと、信康に住処の住所を書いた手紙を渡してから熱い口付けをした後に立ち去って行った。



 プヨ歴V二十七年六月二十三日。朝。



 傭兵部隊の兵舎にある信康の部屋。


 朝日が部屋に差し込むと、信康は目を覚ました。


(さぁて、何時ザボニー逮捕のニュースを拝めるかな・・・)


 信康はそう思いながら、部屋を出ようとしたら、扉が開かれた。


「あら? 居たの」


 信康は此処最近で聞き覚えのある声を聞いて、思わず振り返る。


 信康が振り返った先には、クラウディアが立っていた。


「おはよう、クラウ。また此処で会うなんて奇遇だな」


「おはよう。今日は朝帰りじゃなかったようね」


 クラウディアの鋭い指摘を受けて、ギクッとする信康。


 そして、誤魔化すが如く咳払いをした後に、クラウディアに尋ねる。


「こほん。・・・それより、何か用でもあるのか?」


「誤魔化したわね?・・・まぁ良いわ。あんたに用があるから、来たに決まっているでしょ? そもそもあんた以外の為に、あたしがこんな所に来る理由なんて無いからっ」


「そ、そうか」


 信康は嬉しいと思いつつ、用件が分からず首を傾げる。


「それよりも、早く部屋に入れなさい」


 クラウディアはそう言って急かすと、信康は渋々クラウディアを部屋に入れた。


 部屋に入ったクラウディアは、徐に室内を見回した。其処へ信康が背後から、クラウディアに声を掛ける。


「特に面白い物はないだろう? まさか俺の部屋に、用が有って来たのか?」


「・・・・・・・・・・・・」


 信康の問いにクラウディアは答えず、部屋を見回していた。


「おい、クラウ」


「・・・・・・汚い」


「はぁ?」


 クラウディアの一言を聞いて、信康は困惑するしか無かった。


「前に部屋に入った時にも思ったけど・・・あんたの部屋、ちょっと汚いわよ」


「えっと、そうか?」


 クラウディアの唐突な指摘に、信康は困惑するしかない。自分の部屋とは言え、信康はそんなにこまめに掃除する方では無いのだ。


 室内の管理の方は、ルノワかシキブのどちらかに任せていた。


「と言う訳で、掃除するから部屋の方は任せなさい」


 そう言いながらクラウディアは、収納(ストレージ)の魔法を唱えて掃除用具を取り出した。そして懐に入れてあった布を、バンダナみたいに巻いた。


「おい、此処の部屋の主は俺だぞ。せめて掃除をするのなら、部屋の主の許可をだな」


 信康は自分を指差しながら言うが、クラウディアの耳には入っていない。


「良いから、さっさと出てけっ!」


 クラウディアは信康を叩き出して、部屋の扉を閉めた。


 そして部屋からは鼻歌を歌いながら、掃除をしている音が聞こえて来た。


「気遣いはありがたいが、其処まで行くとありがた迷惑だぞ・・・・・・もう良い。訓練場に行くか」


 此処に居ても仕方がないので、信康は諦めて第二中隊が居る第二訓練場へと向かう事にした。




 朝の訓練を終えた信康は、昼食を取るべく一足先に食堂に向かっていた。食堂に着くと厨房のカウンターには、ヴェルーガが居た。


 信康は食事を取る前に、挨拶する事にした。


「お疲れ、ヴェルーガ」


「あら? ノブヤスじゃない。お疲れ様、朝の訓練は終わったみたいね?」


 ヴェルーガの質問に、信康は首肯した。


「ふぅん、だったら沢山栄養を取らないと駄目ね? 大盛にしましょうか?」


「じゃあそれで頼もうかな」


「はぁい。了解」


 そう言って、ヴェルーガは厨房の奥に引っ込んだ。


 待つ事、数分。


「はい。今日の御飯よ」


「ありがとう」


 ヴェルーガがプレートに盛って来たのは、豚肉のカツレツにミニトマト付きのサラダ。そして焼き立てのパンにコーンスープがあった。


「今日も美味そうだな」


「実際に美味しいわよ。沢山食べてね」


「そうしよう」


 信康はそれだけ言うと、空いている席へと向かって座る。


「では、頂きます」


 信康はそう言って手を合わせると、ナイフをカツレツに刺して一口大に切ってから食べた。


 サクッと軽快な音と共に、豚肉の肉汁が信康の口内を埋め尽くした。


 そうしてカツレツを堪能していると、一人の隊員が号外の新聞を何部も持って食堂に入って来た。


 信康は隊員から新聞を一部貰って広げると、大々的に掛かれている面を見て笑みを浮かべた。


 題名は『これも自浄作用?』


『プヨ歴V二十七年六月二十三日。朝。


 指名手配されていたザボニー・フォル・ヒルハイムが、アーダーベルト公爵家とヒルハイム侯爵家の関係者に連れられて、警備部隊の方へと連行されて来た。両家からザボニーを引き渡された警備部隊は、その場でザボニーを緊急逮捕した。


 ザボニーの罪状は賄賂や横領などであったが、何とプヨ軍の機密情報を持ち出してカロキヤ公国へ売り渡しその功績で亡命を図ろうとした事実が両家より発覚した。


 これによりザボニーは窃盗罪に加えて、国家反逆罪も罪状に加わる事となった。


 ザボニーを引き渡したヒルハイム侯爵家だが、特殊警務部隊の調査団が入る事になり当家はそれを承諾したそうだ。


 しかしその一方でヒルハイム侯爵家当主は、『ザボニー個人の罪であり、ヒルハイム侯爵家はプヨを裏切るなど有り得ない』と表明したと言う。


 ザボニーの国家反逆罪が確定した場合、速やかに死刑宣告を受けてエルドラズ島大監獄に収監される事は間違いない。ノブヤス少佐を貶めたザボニーが死刑宣告を受けてエルドラズ島大監獄に収監されれば、まさに因果応報としか言いようが無い』


 ザボニーの記事を読んで、信康はある事を想った。


「・・・・・・アイシャの奴め。まさか本当に、両家とも恩を売るとはやるな」


 信康はそれだけ言うと新聞を折り畳んで、昼食を食べる事に集中した。


 そうして昼食を食べていると、自分の影からシキブが出て来た。


「どうした?」


「カロキヤの諜報員スパイ共が、動き始めました」


 シキブの報告を聞いて、信康はニヤッと笑みを浮かべた。


「狩りの時間だな。シキブ、一人も逃がすなよ」


「御意」


 シキブがそう答えて、影の中へと戻って行った。

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