第314話
「アー姉様が戻って来たと思ったら、お主が来るとはな。偶然と言うのは凄いのう」
アニシュザードが戻って来て、信康と共に来たので驚くアザリア。
「本当にね。会いたいからノブヤスにそう伝えてとアザリーに伝えに来たら、まさか本人に会えるとは思わなかったわ」
「・・・俺もそう思う」
信康は知ってて会いに来た事は勿論言わず、二人の話に合わせて同意とばかりに頷いた。
「それで? ザボニー達は何時私に引き渡してくれるのかしら?」
「そうだな・・・今日中には引き渡そうと思う」
信康は脈略も無しにそう言うと、着席していたアニシュザードは驚愕して立ち上がった。
「落ち着け。ザボニー達を引き渡す前のは、俺はある事をしてからだ。そのある事だが・・・」
信康は自分の企み事を、アニシュザードとアザリアに伝えた。
「・・・・・・随分と面白い事を思い付くのね」
「アー姉様、何処が面白いと言うのですっ。悪趣味なだけではありませぬか」
アニシュザードは面白そうに笑う一方で、対照的にアザリアは嫌悪感を露に顔を顰めた。
「悪趣味だの外道だの言われようと、知った事じゃないな。女に手を出そうとして失敗した腹癒せに人を冤罪で監獄送りにした挙句、最後は海賊を使って俺を奴隷として売り飛ばそうとしたんだぞ。これ位の報復はしないと、俺の気が済まんわ」
「それだけ聞くと貴方、よく五体満足で生きて戻れたわね? 普通だったら命が一ダース有っても、使い切って死んでる所でしょうに」
「全くじゃな。傭兵と言う輩は皆、こうもしぶといものなのかのぅ?」
アニシュザードは信康の生存率の高さに、呆れるしか出来なかった。
それはアザリアも同様で、本人の傭兵の印象にすら影響を及ぼしていた。
「ははははっ。まぁ傭兵に一番必要なのは、生存能力だからな。しぶとくない奴はどんなに強くても、戦場で屍になるしか無いのが道理ではあるぞ」
「ふぅむ。大変じゃな」
信康はアザリアに傭兵には何が必要かを説いたが、アザリアは興味が無さそうに適当な相槌を返していた。
そんなアザリアの態度に怒る事無く、ただ信康は苦笑するしか無かった。
「そんな事はどうでも良いでしょ。今日中って言うけど、具体的には何時なのよ?」
「う~ん、そうだなぁ・・・昼には始めて、早けりゃ夕方。遅くても夜には引き渡せるだろうよ。その時はシキブに預けてるから、シキブから受け取るんだな」
「だったら、待ちましょうか・・・盛り上がり過ぎて、約束を破ったりしないで頂戴ね?」
アニシュザードの忠告を聞いて、信康は頷いた。
「じゃあ、それで良いわね」
アニシュザードはそう言う、そのまま歩き出した。
「私はこれで失礼するわ。アーダベルト公爵家相手に、交渉の準備をしないといけないもの」
「そうか・・・だったら、アリスを頼れば良い。王族が仲介に入れば、交渉するのも早い筈だぞ」
「それは妙案ね。早速だけど、連絡してみるわ。知っている? 殿下は貴方が居ないからって、ずっと王宮で大人しくしておられるのよ」
アニシュザードから思わぬ話を聞いて、信康は思わず両眼を見開いて驚いていた。
「それは・・・退屈と言うか、窮屈だったろうな」
「そう思うのだったら、今度のお忍びにでも付き合ってあげる事ね」
「ああ、そうしよう」
アニシュザードの提案を聞いて、信康はその方法しかないと思いながら首肯した。
「それでは、御機嫌よう。連絡の方、待っているわよ」
「了解した」
信康が返事したの聞いてから、アニシュザードは漸く退室した。
「・・・のぅ、ノブヤスよ。唐突じゃが、一つ良いか?」
「いきなり、どうしたんだ?」
アザリアが何か訊きたそうにしているのを見て、信康は逆に尋ねてみた。
「先刻まで言っとった、ある事の件じゃ。お主、本気でやる心算なのか?」
「当然だ。その方法が一番、ザボニーを苦しめる事が可能だからな」
信康は顔色一つ変えずにそう言うと、アザリアは再び顔を顰めた。
「・・・・・・しかし愛人達まで、巻き込むのは可哀想ではないか? 本人達も望んでザボニーの愛人の座に収まっていたとは、限らぬではないか」
「むっ」
アザリアは自身が懸念していた事をはっきり言うと、信康は困った様子で声を詰まらせた。
確かにザボニーがヴェルーガ達を、無理矢理愛人に加えようとした前科がある。
その事実を鑑みれば愛人達の中には強制的に、ザボニーの愛人にさせられた女性が居ないとは限らなかった。
「お待ち下さいませ、アザリー様」
其処へシキブが床から出現して、アザリアに話し掛けて来た。
「シキブではないか。どうしたのじゃ?」
「はい。アザリー様と、御主人様に申し上げます。結論から申し上げますと・・・ザボニーの愛人達は、多額の金と引き換えに愛人契約を結んでいる間柄でした」
シキブからの報告を聞いて、信康とアザリアは驚愕していた。シキブは引き続き、報告を継続して行う。
「中には両親の贅沢な暮らしの為に売られた愛人も居ましたが、現在ではザボニーから貰う大金で贅沢三昧でした。愛人の中にはザボニーに隠れて、愛人を作る者も居る始末です」
「・・・ふっ。最初こそ一人位は居るかも、って心配したが・・・所詮は杞憂だったか。それだったら、遠慮なんざ要らねぇよな?」
信康は得物を前に舌なめずりする猛獣の如き様子でそう言うと、アザリアが答えた。
「・・・最早、妾から何か言う気力など無くしてもうたわ。ノブヤスの好きにすれば良い」
「ありがとうよ」
信康はアザリアに感謝の言葉を送ると、アザリアは首を横に振った。
「・・・取り敢えず始める前に、このまま昼食でもどうじゃ? 妾一人で食うのも、案外寂しいものでな」
「そいじゃ、御相伴に預からせて貰うとするぜ」
信康はこのまま、アマンモデウス邸で昼食を食べる事にした。
その後も美味しく昼食を食べながら、信康はアザリアと楽しく話をした。
プヨ歴V二十七年六月二十二日。昼。
アマンモデウス邸で食事を終えた信康は、そのままシキブを呼んだ。
「シキブ。お前の体内に入るぞ」
「どうぞ」
信康はシキブの体内へ、そのまま入って行った。
シキブの体内に入った信康は、ミレディの所に来た。
「此処に来たという事は、何をすればいいの?」
「聞き分が良くて助かる。まずは」
信康はザボニー達に止めを刺す方法を話した。




