第30話
プヨ国立銀行南ケソン支店に居る銀行員や客の悲鳴を聞きながら、信康は物陰に隠れる。
その物陰から顔を少しだけ出して、銀行内の様子を窺う。
(人数は・・・・・・五人か。顔は覆面をしているから分からないが・・・背恰好を見るに五人共、男だな)
「騒ぐなっ! 此処に居る客は大人しく、一か所に集まって座っていろ! 大人しくしていたら、誰も痛い目には遭わせない!」
「銀行員はそのまま、手を挙げて立っていろ!」
強盗犯に言われて、銀行内に全員がその指示に従う。尤も、気配を消して隠れている信康を除いてだが。
客が強盗犯達に怯えながら、一箇所に集めさせられ固まった。そんな銀行内の状況を、信康は冷静に分析する。
銀行員は、客とは違い手を挙げて、その場に立たされている。
強盗犯の一人は銀行員を何人か集めてから、自分達が持ってきた黒い手提げ鞄を眼前に置いた。
「この手提げ鞄の中に銀行に置いてある金塊や宝石、金を全部っ! 金庫が空っぽになるまで入れて持って来い!!」
「こ、この手提げ鞄の中にですかっ?」
「そうだっ! 良いか? 金庫が空っぽになるまでだぞっ」
強盗犯達は覆面越しでも分かるくらいに、顔がニヤける。
「は、はい、直ちにっ」
強盗犯達が言っている事に当惑しながらも、銀行員の一人が手提げ鞄を持って他の銀行員と共に慌てて奥に向かう。
銀行員達が金庫を開けて中に置いてある金塊や宝石、金を手提げ鞄に入れて行く。手提げ鞄に吸い込まれて行く様に金塊や宝石、金が消えて行く姿に驚きながら、銀行員達は次々と入れて行った。
(強盗犯共が持っている武器は、剣と短銃だな。他の二人の懐も膨らんでいる所を見ると、同じ短銃を持っていると考えた方が良いな)
五人の内、二人は人質を監視していた。その内の一人は、人質の客や銀行員の財布や装飾品を取り上げてその金も奪っていた。一人は入口に立って外の様子を窺っている。
残りの二人とは勿論、手提げ鞄に金塊や宝石、金を入れている銀行員達を見張っている強盗犯の事だ。銀行員達が手提げ鞄に金塊などを入れているのを見て、覆面で分からないが明らかにニヤついている。
(この銀行を襲う計画は、事前に計画されていたのだろう。連中に隙が見当たらないのも、良く訓練されている証拠だ。そしてあの手提げ鞄は、魔法道具と見て間違いない。あれだけの手提げ鞄の大きさでは盗める量も高が知れているし、そもそも大量に盗めばそれだけ移動が大変になるからな。しかしそれ以上に気になるのは・・・この銀行の何処に何があるのか、最初から分かっているかの様に動いている事だ。どうやって、銀行の内部情報を手に入れた?)
強盗犯の無駄の無い手際の良さに、信康は素直に感心していた。そのまま観察していたら、銀行員の金庫内部に入っていた物を入れる作業が終わったみたいだ。
「お、終わりました」
銀行員の一人が黒い手提げ鞄を持って、再び姿を現した。背後から焦燥している銀行員達と、勝利の笑みを浮かべているであろう二人の強盗犯も姿を見せる。
人質を見張っていた強盗犯がその手提げ鞄を無言で奪い、強盗犯達は互いの目を見てからプヨ国立銀行ケソン支部から逃げ出した。
(目的の物を手に入れたら直ぐに逃げるか、一流の証拠だな)
信康は物陰から出て、強盗犯を追った。
プヨ国立銀行南ケソン支店を出る際に支店長と呼ばれた撃たれて倒れている銀行員の周辺に、他の銀行員達が駆け寄っている姿が目に入った。
(・・・・・・・運が悪かったな。まぁ、仇くらいは取ってやるよ)
信康はプヨ国立銀行ケソン支部を出ると、周りを見た。
先程出たばかりだから、まだ近くに居るはずだと思い周辺を探った。すると例の黒い手提げ鞄を持った五人組が居た。既に覆面は脱いでおり、黒装束だった筈の服装は普通の服装になっていた。
(ふっ。恐らく、普通の服装の上からあの黒装束を着ていたんだろうな。手提げ鞄を持っていなかったら、俺でも見逃していた可能性があったかもしれない)
信康はその後を全速力で追った。幸い、逃げている強盗犯達は信康に気付いた様子は無く逃げている。
(馬車といった移動手段を用意してない所を見て、強盗犯共は銀行から、それほど離れていない所に拠点を構えている筈だ。其処を襲えば、俺一人でも問題無いだろう)
信康はそう考え、強盗犯達の後を尾行する。
尾行を続けていると、強盗犯達はある場所を目指している様子だった。
すると強盗犯達はケソン地区にある、一軒家の家屋に入った。
用心深く一人ずつ入り、最後の一人は入る前に周囲を窺い家に入る。
「此処が強盗犯共の拠点か・・・・・・」
物陰に隠れていた信康は、家を見る。
その家は生活感を感じない家で、よく見たら庭に、空き家と看板が掲げられていた。
(当たりだな。売主はこの空き家が強盗犯共に悪用されているとは、夢にも思っていないだろうな。尤も、売主も仲間の可能性も否めないか・・・おっと、そんな事はどうでも良い。強盗犯共の様子を窺うとするか)
信康は強盗犯が入った扉に耳を当てて、中の様子を聞く。
扉越しだが、大きな声が聞こえて来る。
「はっははは、見ろよ。この金銀財宝の山をっ!! この馬鹿でけぇ金塊を一つでも持っていたら、俺達は一生遊んで暮らせるぞ!」
「ああ、そうだな! それにしてもおめぇ、銀行に居た連中の財布や装飾品までくすねるたぁ恐れ行ったぜっ!」
「ぎゃははっ! そう褒めんなって! しっかしこんなに簡単に出来るなんて、流石はラディカ・ヴァッチオーネだなっ!」
「ちげえねえ、ぎゃはははっは! 報酬はラディカ・ヴァッチオーネに強奪品を渡してからだが、銀行の内部情報を渡した裏切り者の支店長は始末したから、分け前が一人分減って、俺達の分は増えるぜっ!!」
「ありゃファインプレーだったなっ! よし、今日は飲み明かすぞ! 今回の報酬を貰えば、それだけでも一生食うのに困らないぜ!」
用意されていた酒を飲みながら、陽気に騒ぐ強盗犯達。手提げ鞄からは、盗んだであろう金塊や宝石、金が散らばっている。
話の内容を盗聴ながら、信康は考えた。
(あいつらが言っているラディカ・ヴァッチオーネって人の名前っぽくないな。恐らく裏組織の名前だろう。で、そのラディカ・ヴァッチオーネとやらが強盗犯共に力を貸して、あの銀行を襲ったといった所か。しかしまさか射殺された支店長が、強盗犯共と仲間だったとは・・・それが分け前惜しさに始末されるなんて、これが因果応報って奴かな?)
信康は今からでも、本拠地に踏み込んで強盗犯を始末するべきかと考えた。
しかし、強盗犯が勝利を錯覚し酒を飲んでいるなら、酔っ払い眠りに着いた頃を見計らって実行する方が良いと再考した。信康は結局、強盗犯が寝るまで本拠地を見張りながら待つ事にした。




