第305話
シキブに言われて漸く、捕らえていた女性諜報員の事を思い出した信康。
なので急ぎ信康は、シキブの体内に入る事にした。
「・・・・・・おお、思ったよりも元気そうだな」
シキブの中に入った信康は捕まえた、女性諜報員の状態を見て思った事を口に出した。
「どうだ? いい加減、何か話す気になったか?」
「いう、いうから、もう、やめてえ、なんでもこたえるから、おねがいだから、もうやめてえええっ!」
女性諜報員が、そう言いだした。
それを聞いた信康は、随分と可愛がられたのだろうなと思いつつ、訊ねた。
「じゃあ、最初の問いだ。お前の名前は?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・」
「何時まで息を整えている心算だ? 俺はお前の名前は聞いているんだぞ?」
信康はもう一度責めようかと思って、指を鳴らそうとする。信康の動作を見た女性諜報員は、慌てて名前を言い始めた。
「ミレディ、ミレディ・フォン・ヒルハイムよ」
「ヒルハイム?・・・もしかして、ザボニーの親戚か?」
ミレディにそう尋ねた信康は、興味深そうな視線を向ける。
(ザボニーの奴め。まさかプヨに居場所が無いからって、機密情報を手土産に亡命でも企んだか?)
ヒルハイム侯爵家の関係者がプヨ王国の機密情報を盗むなど国家反逆者なので、指名手配されているザボニーとその関係者でもなければしないだろうと思えた。
「ザボニーは、私の夫よ」
「夫ね」
信康はミレディの肢体を見る。
どんな男も虜にしそうな、見事なプロポーションを持った身体。その身体に、ザボニーも虜になったのだろう。
「では聞くがお前はどうして、施設に忍び込もうとしたんだ? ザボニーの命令か?」
「そんな訳、無いでしょ? 何故なら私は、カロキヤの諜報員だからよ」
「カロキヤの? 成程・・・お前の任務は、草の類か」
信康が言う草とは、諜報員の中で長期的の敵国に潜入する者の事を指す言葉だ。
自分の身分を偽る為に敵国人と恋人又は結婚したりして溶け込み、故国に情報を流すと言う仕事をしている。
「お前の身分は分かった。もう一つ聞こう。ザボニーは何処に居るか知っているのか?」
「ええ。現在いまは王都アンシの愛人の一人が住んでる家に、匿って貰っているわ」
「そうか。其処は教えてくれるか? それとザボニーの奴は、愛人を何人囲っているんだ?」
「ええ、良いわよ。それとザボニーは、十人もの愛人が居るわ。自宅は何処かも、全部把握してあるわよ」
当初と打って変わってペラペラと話してくれるミレディに、信康は些か怪訝そうな表情を浮かべた。そんな信康の態度を察して、ミレディが進んで話す理由を言い始めた。
「別に愛情を持っていた訳でも無いわよ。私はカロキヤに情報を流す為とお金が欲しくて、体の良い隠れ蓑として一緒になっただけだもの・・・」
ミレディの話を聞いて、信康はザボニーの事が可哀そうだなと思った。
「・・・まぁ、良いか。ザボニーは後で捕まえるとして、おまえには最後に一つだけ聞きたい」
「何が、聞きたいの?」
「これは良い機会だから、カロキヤの諜報機関を徹底的に潰しておきたい。お前と同じカロキヤの諜報員スパイは後、何人居るんだ?」
信康がそう尋ねると、ミレディは顔を顰める。
「それは、知らないわ。情報のやり取りなんか、してないから・・・・・・」
「この期に及んで、嘘は吐かない方が良いぞ。じゃないとお前が喰らったあの責めを、もう一度受ける事になるからな」
「・・・・・・・分かったわよ」
ミレディは諦めたのか、自分が知っている情報を話しだした。




