第304話
プヨ歴V二十七年六月十九日。朝。
施設警備を終えた信康達は、各中隊を解散させてと自分の部屋に戻り就寝に就いた。
それから少しばかり時間が経った頃。
ドンドンドンドン!!!!
唐突に激しく扉が叩かれた。
その音により、信康は目を覚ました。
「何だぁ? 敵襲か?」
目を覚ますなり、信康は直ぐに意識を鮮明にした。
信康は鬼鎧の魔剣を持ちながら、扉に近付く。
「誰だ?」
「あたしよっ! さっさと開けなさいよっ?!」
信康はその声に聞き覚えがあったので、直ぐに扉を開けた。
開けた先には思った通り、アンヌエットが居た。
「何だ? 何かあったのか?」
「あんたねっ!? あたしがこうして訪ねて来たんだから、玄関先で待っている位は出来ないのっ?!」
信康に向かって、怒鳴り付けるアンヌエット。
そんなに怒るアンヌエットを見て、信康は何かあったかと首を傾げた。
「もしかして、この前の事を忘れたとか言わないわよね?」
信康を睨み付けるアンヌエット。
「この前?」
信康はこめかみを押さえつつ、アンヌエットとの事を思い出そうとした。
(この前、この前・・・・・・ああ、そう言えばっ!)
信康はこの前、アンヌエットに言われた事を思い出した。
『今度の休日、あたしに付き合いなさいよ』
アンヌエットにそう言われた事を、今更ながら思い出した信康。
「勿論だ。それで何に、俺は付き合えば良いんだ? 買い物か? それとも、何処か遊びに行くのか?」
「何で遊びに行くのに、あんたを誘うのよ?」
「だってお前、ボッチだろう?」
信康は指差しながら、アンヌエットに指摘した。
「な、な、そ、そんな訳無いでしょうっ?!」
するとアンヌエットは、露骨に狼狽し始めた。信康は更に追及しようとしたが、遮る様にアンヌエットは信康の腕を抱きかかえた。
「そっ、それよりっ! 早くさっさと買い物に行くわよっ!」
「分かった分かった。ちょっと待ってくれ」
信康はそう言ってアンヌエットから離れると、一度部屋に戻り置き手紙を残した。
もし誰かが来ても、出掛けている事を伝える為だ。
置き手紙をテーブルの上に置くと、信康はアンヌエットの下へ戻る。
「じゃあ、行くか」
「そうね。でも、その前に」
アンヌエットはその場で一回りした。
「どう? 何か言う事は無い?」
アンヌエットは何かに期待している様な顔で信康を見る。
「・・・・・・前に見た服だな」
信康はアンヌエットが着ている服装を見て、正直言に思った事を言った。
それを聞いてアンヌエットは、眉を動かした。
「前も思っていたが、良く似合っている。お前にピッタリだ」
「~~~あ、ありがとう」
アンヌエットは顔を背け、髪の毛を指で弄りながら言う。
「はっはは、お前でも照れる事があるんだな」
信康はそう言って、頭を撫でる。
「ちょっと、それはどう言う意味よ?」
「さぁな」
信康は肩を竦めながら、先を進んで行った。
「ちょ、待ちなさいよっ!」
アンヌエットは信康の後を、急いで追い掛けた。
兵舎を出る際に中年女性の管理人に外出届を出した信康は、兵舎を出てそのままケル地区に向かった。
商業区として一番栄えているので、欲しい物があると思われたからだ。
信康はアンヌエットと一緒に歩いていた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
二人は並んで歩きながら、店を外から見ていた。
アンヌエットは時折、信康を横目で見ていた。信康がアンヌエットの視線に気付いてアンヌエットの方を見ると、アンヌエットが慌てて視線を反らした。
すると信康は後方に居る、自分達を尾行する二人の存在に気付いた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
まだ、夏と言える季節なのに何故か長い茶色のコートを着て、黒いベレー帽を被りサングラスを掛けている者達が居るのだ。
その二人は何故か信康達と言うより、アンヌエットを見ていた。
(何だ、あの二人は?)
信康はチラリと後方を見ると、自分達を尾行する二人が気になっていた。
気付いたのは兵舎を出て少し歩いた時に、物陰に隠れて顔を出している二人に気付いた。
最初はアンヌエットの護衛だろうと思っていたが、どうも違うと思い警戒していた。
そう警戒しているとその二人はどちらも女性で、しかも金髪だと言う事に気付いた。
それを見て、これはもしかしてと思い信康はアンヌエットに訊ねた。
「なぁ、アンヌ」
「何よ?」
「いきなりで悪いんだが、お前って双子の姉以外に兄弟姉妹って居るか?」
「居るわよ?」
信康の質問に怪訝そうに思いながらも、正直に答えるアンヌエット。
「六つ下の妹が居るのよ」
「その娘は、金髪か?」
「ええ、ルティと同じ金髪よ」
「そうか」
信康はそれを聞いて後ろに居るのが、アンヌエットの姉妹だと言う事が分かった。
なので信康は警戒せず、二人を放置する事にした。
「そう言えば、お前はどうして銀髪なんだ?」
「あたしの父方の祖母がこの髪だから、遺伝したんだろうって言われているわ。因みにルティとマリーも金髪よ」
「そうか。マリーって言うのか」
信康はそう言って、アンヌエットの銀髪に触れる。
「あっ」
「綺麗な銀髪だ。陽光が当たって、キラキラと輝いているぞ」
「そう? ふふん。良いでしょう」
「ああ、良いぞ。お前の可愛い顔にお似合いの髪色だ」
「か、可愛いっ!?」
アンヌエットは顔を耳まで真っ赤にさせ、顔を俯かせて指と指を突っつき合わせる。
信康はそんなアンヌエットを見て、こいつは本当に揶揄い甲斐があるなとと思いながら微笑む。
そして信康達は店に入って服を見たり、小物を見たりしていた。
アンヌエットはそれ等を手に取り、自分の身体に当てて信康に見せる。
「どう? この服は?」
と聞いて来るので、信康は「イマイチ」とか「似合っている」と答えた。
そしてアンヌエットは、信康が似合っていると言った方を買った。
二人はそのまま、夕方まで買い物をした。
買い物が終わると、アンヌエットとは其処で別れた。
帰り際『ま、まぁあんたの意見も参考になったし、特別に今度も一緒に買い物に行ってあげても良いわよ』と指差しながら言って来た。
それを聞いた信康は『別に無理に誘わなくても良いんだぞ?』と言うと、アンヌエットは唇を突き出して頬を膨らませた。
信康は苦笑して『冗談だ。是非、誘ってくれ』と言うと、アンヌエットは顔を輝かせた。
アンヌエットはそのまま、自宅へと帰って行った。
その後を、二人の女性が付いて行った。
(そう言えばアンヌの奴、全くあの二人に気付いた様子は無かったな。意外と鈍いのか?)
アンヌエットの鈍感さを心配しながら、信康は兵舎への帰路に付いた。
兵舎に着くと、ライナに出会った。
「あら、何処かに出掛けていたの?」
「ああ、知り合いに誘われてな」
「そう。ああ、そうだ。今日の警備の事なんだけど・・・」
ライナの話を聞いて、信康は何だろうと傾聴する。
「実は警備部隊の人が来て、今日から警備は代わると言われたのよ」
「そうか。と言う事は・・・」
「警備任務は、昨日で終了よ。御疲れ様でした」
「了解した」
信康はそう答えた後に急ぎ食堂へ向かいヴェルーガに、夜食は今後不要になったと伝えてから自分の部屋に戻った。
「・・・・・・シキブ、ライナの話は聞いてたな? 警備部隊が引き継いだのを見計らって、機密情報を盗んで来い」
「盗み出すなど造作もありませんが、よろしいのですか?」
「ああ。ザボニーを貶めるのに利用するからな」
信康はそれだけ言うと、シキブは意図を理解して承諾した。すると今度は、シキブの方から、信康に声を掛ける。
「御主人様」
「どうかしたか? シキブ」
「もう直ぐ予定の時刻になりますが、捕らえたあの女はどうなさいますか?」
「・・・・・・ああ、忘れていた」
シキブに言われるまで、信康は捕まえた女性諜報員の事を忘れていた。
信康が施設警備をしている頃。
アンヌエットは家にある自分の部屋で服を見ていた。
「これが良いかな? それともこれの方が良いかしら?」
服を自分の身体に当てながらどの服が一番自分に似合っているか確認していた。
姿見で映る自分を見ながら翌日の事を思い出したのか微笑む。
「ふふ、あいつもわたしがこんな服を着たら驚くでしょうね~」
楽しそうに明日着る服を選んでいるアンヌエット。
その様子を扉の隙間から見ている者達が居た。
「ルティ姉様。アン姉様は随分と楽しそうにしておられますね」
「そうね。余程、明日友達と一緒に買い物に行くのが楽しみなのね」
「誰なんでしょうね?」
「気になるの?」
「はい」
「それは、わたしもです」
「・・・・・・こっそり付いて行きませんか?」
「う~ん。そうですね。アンヌのお友達がどんな人か見るのも悪くないですね」
「じゃあ、明日の準備をしましょう」
「はいはい。分かりましたよ。マリア」
ルティシア達は変装の用意をする事にした。




