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信康放浪記  作者: 雪国竜
第三章

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第296話

 信康が外に出ると、隊員の一人が手紙を持ってやって来た。


「お疲れ様です、ノブヤス中隊長。実は鳥が一羽、手紙を落として行きました。どうやらプヨ軍からの手紙みたいですよ」


「そうか、貰おう」


 信康は隊員から、手紙を受け取り開封して中身を確認する。




『傭兵部隊第一副隊長兼、第二中隊中隊長 ノブヤス。


  


 この手紙が届いた時点にて、貴官の任務は完了したものとする。


 貴官と供に行動をしている、炎龍戦士団及び緑龍僧兵団も同様である。


 第三騎士団に引き継がせた後、直ちに王都アンシまで帰還せよ。




                       プヨ王国軍総司令部』




 その手紙を読んで、信康は懐に仕舞った。


 後でアンヌエット達に見せる為だ。


 しかし先ずは撤収準備が完了したか、確認しようと信康は移動を再開した。



 二十分後。


 信康達は出発の準備を済ませた。


「よし、これで準備は整ったな」


「ええ。あたしの部隊も完了よ」


「私もです」


 アンヌエットとメリニスがそう言うので、信康は懐から手紙を出した。


「王都アンシから来た手紙だ。読んでみろ」


 信康は二人に渡すと、二人は互いの手で手紙を持っ手紙を目で読んでいく。


 読み終わると、二人は信康を見る。


「結局、こうなっていたのね」


「もしかして、こうなる事を読んでいたのですか?」


「そうだ。先に準備しといて良かったわ」


 信康はそう言うと、アンヌエットとメリニスは感嘆した様子を見せた。


「さっさと帰ろうか? 第三騎士団の本隊に出くわしたら、それはそれで面倒だから」


「あたしもそう思うけど、メリニスはそれで良いかしら?」


 アンヌエットがメリニスの目を見ながら尋ねてきた。


「私も構いません。無理に残って挨拶する必要も無いでしょう」


「そうかい。だったらあのユリ―アに一言挨拶してから、王都アンシに帰るぞ」


 信康は二人から手紙を取り懐に入れて、ユリ―アが居る場所に向かった。




 ユリ―アはケシン村の外で、麾下中隊と共に待機していた。


 信康はユリ―アが部下の隊員と話しているのが見えたので、信康は手を上げて振った。


 手を振ったお蔭なのか、ユリ―アが信康に気付いた。


 ユリ―アは話を切り上げると、信康の所までやって来て一礼する。


「わざわざ来なくても、こちらから来たのだが」


「いや、構いません・・・団長等が無理を言っているのは重々承知しております。大変申し訳ない」


 ユリーアは疲れた表情を浮かべながら、そう言って信康に謝罪した。


 ユリーアの話から察するにこの強引な手段を選んでいるのは、団長やユリーアが所属している第二部隊の部隊長を含む第三騎士団の諸将と推測するのは簡単だった。


「いや、気にするな。つい先刻(さっき)の話なんだが、実は王都アンシから手紙が届いてな。第三騎士団に後は任せて、俺達は帰って来いって書かれてあったんだよ」


「手紙ですか・・・良ければ、その手紙を見せて頂いても?」


「ああ、良いぞ」


 信康は懐から手紙を出して、ユリ―アに見せた。


「・・・・・・何処も問題などない。本当に軍からの手紙ですね」


「ああ、そうだな」


 ユリ―アはその手紙を手に取り、中身を読んだ。


「見せて頂きありがとうございます」


 その手紙を折り目に沿って丁寧に畳むと、ユリ―アは信康に返した。


「と言う訳で、俺達は帰らせて貰う。一応聞くが、捕虜の面倒は大丈夫か?」


「はい、本隊に伝令を送って急いで来てくれる様に言いましたので大丈夫かと・・・それでは皆様、お疲れ様でした。私は任務があるので、これで失礼致します」


 ユリ―アは一礼すると、麾下中隊の下に行き指示を出した。


 信康はそれを見送ると邪魔しない様に、その場をそっと離れた。


 戻った信康はサンジェルマン姉妹を呼ぶと、転移門(ゲート)の魔法で王都アンシへ帰還した。




 プヨ歴V二十七年六月十六日。朝。




 ケシン村を出た信康達は、第二訓練場まで転移門(ゲート)を使用して帰還を果たした。


 メリニスは其処で別れたが、何故かアンヌエットは麾下部隊を解散させて信康に付いて来た。


「アンヌ、どうかしたのか?」


「別に良いでしょ? こうして一緒に歩いているだけよっ。文句あるの?」


 そう言われて信康があるなどと言えば面倒になるのは明らかなので、諦めてアンヌエットの好きにさせた。


 信康は仕方なくルノワに第二中隊を任せて、アンヌエットの相手に専念する事にした。


「ねぇ。あんたって、好きな物は何なの?」


「これといって、嫌いな物は無い。ただ肉と魚はどっちが好きかと言われたら、魚だろうな」


「そう、ノブヤスは魚が好きなのね・・・じゃあ、趣味は?」


 アンヌエットに趣味を問われた信康は無趣味だと思っていた。


 するとアンヌエットは信康の沈黙を、無趣味と勝手に解釈した。


「その様子だと、趣味なんて無さそうね? 全く、ただでさえ傭兵って奴は色眼鏡で見られがちなんだから・・・趣味を持たないと、余計に無教養の人間だと思われるわよ? まぁ酒だの博打(ギャンブル)だの、況してや娼館通いとか言い出さないだけマシだけどね」


「・・・・・・そうだな。今まで戦場とかに出て戦い続きだった所為で、新しい趣味を作る暇も無かったなぁ」


「だ、だったら、これを機に何か趣味にしたら良いんじゃない? うん。それは良いと思うわっ!」


 アンヌエットは自分で言っていて、名案とばかりに何度も頷く。


「ふむ。新しい趣味か」


 故郷の大和皇国に居た頃にしていたのは、馬の遠乗りか弓銃を的当てに水練であった。これも鍛錬の一環なので、趣味と言うには難しい。


 大和皇国に残した幼馴染にも『お前は戦の才に、芸術面の才能を全て吸われているな』と言われた事がある。その時は大きなお世話だと言い返したが、信康は今になって思い返して見た。すると趣味が一つしかないのは、それはそれで寂しいと思え始めて来た。


「・・・・・・そうだな。何か見つけてみようか」


「でしょう? と言う訳で今度の休日、あたしに付き合いなさいよ」


「はい?」


「だ・か・らっ! 今度の休日に、あんたの兵舎に行くからちゃんと居なさいよ。良いわねっ!?」


「え、いや、ちょっ」


「じゃあ、またね。お疲れ様~」


 アンヌエットは言いたい事を言うと、そのまま第二訓練場から去って行った。


 信康は何も言えず、アンヌエットの後姿を見送る事しか出来なかった。


「・・・誘うのは良いが、返事を聞いてからにしてくれ」


 アンヌエットの背中を見ながら、信康はポツリと零す事しか出来なかった。

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