第291話
プヨ歴V二十七年六月六日。朝。
信康達は第二訓練場から、サンジェルマン姉妹の転移門を使って北部に到着していた。
それから炎龍戦士団が第一陣となり第二陣に信康率いる傭兵部隊第二中隊が第二陣として続き、最後尾である第三陣を緑龍僧兵団と言う編成で進軍中であった。
その任務はヘルムートに通達された通り、盗賊を見つけ次第捕縛または殲滅である。しかし信康的には、真意はそれだけではないのではと思っていた。
(そもそも、たかが盗賊退治だけなら、第二中隊おれたちだけで十分だ。炎龍戦士団と緑龍僧兵団の部隊まで付けるのは、明らかな過剰戦力だな)
何かあると思いはするものの、何があるのか分からない信康。取り敢えず今は言われた任務に、大人しく従事する事にしたのであった。
因みに今回の三部隊による合同任務であるが、総大将はアンヌエットとなった。何故ならアンヌエットの階級は大佐と、三人の中で一番階級が高かったからだ。そして序列的にメリニスが中佐である事を考慮すれば、少佐である信康が三人の中で一番下である。
信康は騎乗している斬影の手綱を操りながら流れる風景を見ていると、前方から行軍に逆らうかの如く進んでいる騎馬が一騎見えた。
赤い神官服を着ているので、第一陣の炎龍戦士団からの使者と思われた。
信康は使者が来るのを見て、斬影の速度を並足にした。
炎龍戦士団の使者が信康の近くまで来ると、馬を寄せて頭を下げた。
「馬上より失礼致します。私は炎龍戦士団から使者として参りました」
「御苦労。それで、先陣に何かあったのか?」
「はっ。このまま道なりに進みますと、地図通りケシン村が見えるそうです」
「そうか。確かトプシチェ軍の襲撃で全滅して、現在いまでは無人となっている筈だが・・・打ち合わせ通り盗賊の本拠地アジトになってないか確認して、盗賊が居た場合は可能ならば捕縛し無理なら殲滅する訳だな?」
「はっ、その通りです」
炎龍戦士団の使者は信康の質問に肯定して答えると、信康は顎に手を置いて思案しそれから炎龍戦士団の使者に答えた。
「良し。第三陣の緑龍僧兵団には、傭兵部隊の方から伝えておく。予定通りに進めて頂きたいと、お伝えしてくれ」
信康はそう言うと、炎龍戦士団の使者は感謝してから引き返して行った。それから信康は緑龍戦士団に使者を送ってから、ルノワに第二部隊の将校陣を集める様に命じた。
ルノワは信康の言われた通りに、精霊魔法で伝達してケンプファ達を信康の下まで集結させた。
「良く集まってくれたな、お前等・・・現状だが予定通り、ケシン村が俺達の活動拠点になるだろう。其処で到着後の方針を、事前に伝えておきたいと思ってな」
信康は移動を続けながら、並走しているルノワ達に話を行う。するとケンプファが、信康に質問をして来た。
「ノブヤス中隊長。お伝えしたい事とはなんでしょうか?」
「ああ。盗賊退治だが、流石に一塊になって討伐に行くのは非効率この上ない・・・だから指揮の練習も兼ねて、一小隊二十六名と二十五名に振り分ける」
信康が方針を説明すると、ルノワ達の間でざわめきが起きた。信康は片腕を振ってそれを鎮めると、更に話を続けた。
「特定の兵種の隊員だけで一小隊を作ると幾つかの小隊の戦力が偏るから、振り分けはケシン村に着いてから決める予定だ。その心算で頼むぞ」
「そうなりますと、ノブヤス中隊長はどうなさる御予定でしょうか?」
「ああ、俺はケシン村に残る。其処から全体を見渡して、指揮を執る事にする予定だ」
信康はそう言うと、ルノワ達は納得した。それから信康はサンジェルマン姉妹に、視線を移した。
「これもお前等が新しく入隊した隊員達の分まで魔馬人形や魔鎧、連弩を一式用意してくれるから出来る事だ。後で請求書をくれ。ちゃんと全額払うから」
「それは殊勝な心掛けね。じゃあ遠慮無く・・・・・・と言いたい所だけれど、今回は中隊長さんの出獄祝いって事で全部無料タダで良いわよ。切り良く後二名分だけ無料にしておくから、次からはちゃんと払って頂戴ね♪」
「おいおい、良いのかよ?・・・だったら御言葉に甘えるとするか。ありがとうな、イセリア」
信康はイセリアに感謝すると、イセリアは何でも無いとばかりの涼しい表情を浮かべていた。
信康は緑龍僧兵団からの返事を待つ事無く、第二中隊を最高速度でケシン村まで移動する事にした。
ケシン村が見えて来たので出入口で見張りをしている、炎龍戦士団の団員達が敬礼してくれた。
信康達も敬礼しつつ、ケシン村に入村する。
そしてケシン村の惨状を、第二中隊は目の当たりにする事になる。
「これは、また・・・」
自分の傍に居た縫が、ケシン村の惨状を見て顔を顰めていた。
縫も故郷の大和皇国に居た時に、戦場に出た事など何度もある。
敵国に攻め込んで来て、領内の市町村を襲撃し略奪した後の惨状を見た事もある。
現在の縫の目に映るのは、それと同等程度に惨いものであった。
一部の家屋は放火されたのか、黒焦げている所もある。
更には矢が今も突き刺さり、壁や家屋の中の至る所には赤黒い点々が飛び散っていた。
血が固まり、赤い点になったのだろう。
「はぁ、随分と派手にやったみたいだな」
信康はケシン村の惨状を見て、そう評した。
「そうですね。これも戦ですから」
「そうだな」
縫と話しながら、信康は斬影を進ませた。
広場にまで進ませると、不思議な光景が目に入った。
塵や埃に塗れ、裾などに切れている服。お揃いのバンダナをした男性達五十人以上が、縄で縛られた状態で地面に座らされている。
少し離れた所では赤色、緑色、薄橙色、紫色など多彩な色をした肌を持つ、子供みたいな者達が居た。
全員が鷲鼻で吊り上がった目をしており、鋸みたいにギザギザな歯をしていた。信康はこの特徴を持つ、亜人類を知っていた。
「小鬼族か。こいつ等も盗賊なのか?」
信康は小鬼族達を見て、そう疑問を投げ掛けた。
「ご、小鬼族・・・ですか?」
縫は聞き慣れないのか、首を傾げていた。
「欧州では多く見かける、亜人類の一つだ。どんなに歳を取っても、この種族は子供みたいな姿のままと言うのが特徴だな。それと精力絶倫で繁殖力が強い事と、手先が器用な事が有名な種族でもあるぞ」
「そうですか。と言う事はその手先の良さを活かして、盗賊を?」
「いや、それにしては少ない様な・・・?」
小鬼族達は全員で、十人しか居ない。これだけの人数で盗賊として活動していると言うのは、信康の経験からしたら違和感があった。
「兎も角これはどう言う事か、アンヌに聞かねば・・・・・あん?」
信康は周囲を見て、アンヌエットを探していると、何故か手から炎を出して、顔を真っ赤にさせているアンヌエットが居た。
アンヌエットの前には、鉄のブレストプレートを着用している巨漢が居た。
下顎から大きな牙を四本伸ばしおり、青灰色の肌に潰れた鼻を持っていた。
しかしそれでいて精悍な顔立ちをしており、それに見合う筋肉質な体躯をしていた。
「あれは・・・豚鬼族か」
「お、おく?」
「違う。豚鬼族だ。オとクの間を伸ばせ」
信康は現状を気になりつつも、縫に豚鬼族について教え始めた。
豚鬼族とは小鬼族以上に、繁殖能力が高いと言われる亜人類の一つだ。
豚鬼族の精液は強力な精力剤の材料になるので、豚鬼族の中には献精をして小遣い稼ぎを行う者も居る。余談だが小鬼族の精液も精力剤の材料になるのだが、豚鬼族と比べて十分の一の価値しかないそうだ。
「さぁ、懺悔の時間よ。自分が行った罪を償いなさい」
「い、いのいち、だけは、おたすえを、けして、けして、わるぎがあったわけでも、わざとでもなんでもないのですっ」
豚鬼族は頭を下げるが、アンヌエットは聞く耳を持っていないみたいだ。
「それが最期の言葉ね? 特別に墓に刻んであげるわっ」
「ぷ、ぷひいいいいっ、お、おたすけ~~」
「はい。ちょっと待った」
今にも豚鬼族を焼き殺そうとしている、アンヌエットを信康は止める。
「あんた、いつ来たのよ?」
「今来たばかりだよ。急いで来て良かったわ・・・それよりも、これはどう言う状況なんだ?」
「ふん。別に、あんたには関係ないでしょうっ!」
プイっと顔を背けるアンヌエット。
「あるわっ!? 取り敢えず、事情を説明してくれ。仮に焼き殺すにしてもだ」
信康は豚鬼族を見る。豚鬼族は信康の視線を受けて、ビクッと身体を震わした。
「こいつが何をしたのか、教えてからでも遅くは無いだろう?」
「ふんっ、良いわよ。特別に教えてあげるわっ!」
そう言って、アンヌエットは話し出した。




